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空の彼方に  作者: しまねこ


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戦い方と逃げ方

「うう、やっぱり無理よ。何度やってもこれ以上刺さらないって!」

 張り切ったチムニーに教えてもらい、更には苦笑いしたグレイさんにも教えてもらって、どうにか短剣を持って構える格好だけはつくようになった。

 けれども、そもそも腕力が根本的に不足している私では、何度やっても結局10センチくらいまでしか目標に突き刺す事が出来なかった。



「ううん、これは攻撃方法を変えた方が良さそうだなあ」

「だなあ、これだけやって無理って事は、いざって時にはもっと力が入らないだろうからなあ」

 腕組みをして困ったようにワルターさんがそう言い、チムニーと一緒に考えてくれていたグレイさんも苦笑いしながら頷いている。

「ええと、他に方法ってあるんですか?」

 抜き身の短剣は持っているだけでも怖いので、一旦収納してから二人を振り返ってそう尋ねる。

「まあいくつか方法はある。例えば武器を変える」

 そう言ってグレイさんが取り出して見せてくれたのは1メートルくらいのちょっと短めの槍。穂先の部分は分厚めの15センチくらいの刃が付いている。

「突くならこっちの方が力は入る。ただし扱いにはちょっと慣れが必要だ」

 渡されたそれを恐る恐る受け取ったけど、思ったよりも重くて取り落としそうになって慌てて抱えるみたいにして握った。

 それを見て、揃って顔を覆う二人。

「ううん、これは見るからに無理そうだな」

 大きなため息とともにグレイさんが困ったようにそう呟く。

「だな。そもそも短剣よりも重いし、重心が先端にあるから取り回すのに短剣以上の腕力が必要だからなあ」

 隣でワルターさんも苦笑いしながらそう言ってる。チムニーも、呆れたみたいに私を見ている。

 はっきり言って、渡された槍を持っているだけでも腕がプルプルする。ええ、私ってこんなに腕力無かったっけ?背が縮んだついでに、絶対に腕力も無くなってる気がする。

「ごめんなさい。私もこれは無理だと思います〜!」

 槍を抱えるみたいにして持ったままプルプル震えている私を見て、諦めのため息を吐いて困ったように顔を見合わせる二人を見上げる。

「まあ、それは念のため持っておけ。しかし、それが子供用の一番軽い槍なんだけどなあ」

 これで子供用と言われてちょっと泣きそうになったけど、無理なものは無理なんだから仕方がない。

 とにかく持っていると動けないので、貰った槍もひとまず収納しておく。多分、二度と取り出さない気がするけど、もしも誰か必要そうな人がいれば渡して使ってもらおう。

「じゃあ、この際突きよりは払いか」

「だな、まだそれが一番現実的だろうな」

「払い?」

 不思議そうな私に、グレイさんが一瞬で短剣を取り出す。

「こんな風にして、剣を振るんだよ。突くのではなく撫で斬る形だな。深傷は負わせられないが、牽制程度には充分なる。倒すのではなく逃げる為の時間稼ぎと考えればこれでも充分だよ」

 確かにそれなら私でも出来そうだ。

 何度も頷き、改めて持ち方から腕の振り方までしっかりと教えてもらった。



「おお、まだこっちの方が出来そうだな」

「よしよし、これなら充分時間稼ぎくらいは出来るだろう」

 かなり頑張って、狙ったところを切れるくらいまでになったところで、やっと合格点を貰えた。

 無理に致命傷を負わせる事を狙わず、とにかく目標に当てて撫でるみたいにして斬って時間を稼ぐ作戦。非力な私には合っていたみたい。

「ありがとうございました」

 短剣は一旦収納して、先生役のグレイさんとワルターさんにお礼を言う。

 隣では、一緒に短剣で斬る練習をしていたチムニーも私に続いて元気にお礼を言ってた。腕白だけど、案外礼儀正しいのね。

「いいぞ。かなり上手く出来るようになってきてるから、後はもう慣れだな」

 苦笑いする二人に、後ろで見学していたカース君やキース君とそれからチムタムもうんうんと揃って頷いている。



「ちなみに、これはファングワームの模型だって言ったけど、どんな風に動くかは聞いた?」

 そう言って、目標役にされて若干ボロボロになったやや小さめのファングワームの模型を片手で拾うカーク君。

「ええと跳ねるって聞いたけど……」

「そう、跳ねる。例えば今俺が立っている位置にファングワームが現れたら、ルリさんはまともにやられる」

 真顔のカーク君の言葉に目を見開く。

 だって、彼と私の間は5メートル以上は余裕で開いてる。私の感覚では安全圏だったんだけど……。

「跳ねるとこんな感じで飛びかかって来るんだよ」

 そう言うと、いきなり手にしていたファングワームの模型を私に向かって放り投げた。

 いや、放り投げたと言うよりも、投げつけたと言うのが正しいレベル。ものすごいスピードで、一直線に私目掛けて突っ込んできた。

「キャー!」

 まともにぶつけられてしまい、悲鳴を上げて倒れそうになる。

「何してるんだよ。ほら走って逃げるんだ!」

 いきなりチムニーに手を握られてそのまま引っ張られる。

「ちょっ、ちょっと待って!」

 転びそうになってるのに、お構い無しに腕をぐいぐい引っ張られる。なんとか手をついて立ち上がり、チムニーに手を引かれて走る。走る。走る。

 かなりの距離を走り、もう良いかと思っていたら、なんと両手にファングワームの模型を掴んだカース君とキース君が私達を追いかけて来ているのが振り返った目に飛び込んできて、私は慌てる。

「ええ、ちょと!」

「ルリはあっちへ逃げて! 絶対に立ち止まるなよ!」

 突然チムニーに手を離されて腰の辺りを叩いて押される。

 そのまま左へ逃げたチムニーを見て、私はとにかく言われた通りに右へ逃げた。

「遅い!」

 だけど必死に逃げる私を追ってきたカーク君は、どんどん距離を詰めてくる。

「無理よ、そんなに早く走れないって!」

 すぐに息が切れてきて走れなくなり、とうとう足が止まってしまった。



 ドカッ!



 息を整える間もなく、止まった途端に模型を振りかぶったカーク君が、私の肩の辺りを横から遠慮無く力一杯ぶん殴った。

「キャー!」

 当然、堪える事も出来ずに悲鳴を上げて吹っ飛ぶ私。

「おっと〜〜!」

 だけど地面に叩きつけられる前に、私の体はグレイさんにしっかりと抱きとめられていた。

 お礼を言おうとしたけど、酸欠の私は目の前が真っ暗になってしまい、倒れそうになって必死になってグレイさんの太い腕にしがみついていたのだった。

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