トラブル発生!
「ああ! 見て見て! 誰か降りてきたよ!」
チムニーの声に、私は慌てて空母もどきを見た。
甲板から、何人もの人達がぞろぞろと降りてくる。先頭の数人以外は全員が大きな荷物が山ほど積まれた荷台を引っ張って運んで来ている。
「フレディ。今回はお前さんが担当か」
「カステア。ああ、久し振り。あんたも元気そうで何よりだ」
先頭にいた大柄な男性が笑顔で右手を差し出し、こちらも進み出ていた倉庫組の代表のカステアさんが、笑顔でその手を握り返した。
それから向こうの代表らしき五人が前に進み出て、こちらもカステアさんを先頭に同じ人数の倉庫係の人達が進み出て、順番に挨拶を交わしていた。
そしてお互いに書類のようなものを交換して、少し下がったところでそれぞれの仲間達と一緒にその書類を真剣に読み始めた。
「あれ、なにをしてるの?」
チムニーがぴょんぴょん飛び跳ねながら私を見上げて聞いてくる。
「ううん、代表同士の挨拶の後に交換した書類は、多分お互いの持ってきた物のリストか、或いは欲しい物のリストだと思うわね。それで、どれが欲しいかってやりとりをするの……かな?」
しばらく黙って見ていると、どうやら書類の確認が済んだらしく、お互いに持ってきた荷物の蓋を開けて中身の確認を始めた。
「面白くないよお」
山ほどある荷物の確認は順番に行われているので、はっきり言って見ているだけの私達は超暇。はっきり言って、チムニーの言う通りで面白くない。
これは私でさえ思うんだから、チムニーやオリーブはもう完全に目の前の商品確認には興味を失って退屈しきっている。
「こら、大事な事なんだから大人しく待ってなさい」
「ええ、退屈だよお〜〜〜」
一応オリーブはロアが抱っこしてくれているし、チムニーは私の手を握っているので勝手にどこかへ走り出す心配は無いけれどもそろそろ危険な兆候だわ。
内心焦って、早く終わってと唱え続けていると、カステアさんと話をしていたフレディと呼ばれた人間の男性が不意にこちらを振り返った。
完全に視線が合ってしまい、無視するのも失礼かと思って軽く一礼した。
すると、私を見たフレディさんは驚いたように目を見開き、何故かいきなりこっちへ向かってものすごい勢いで走って来たのだ。
「え、え、え!」
突然の事にどうしたらいいのか分からずパニックになる私を見て、チムニーが私の手を振り解いて目の前に立ちはだかる。
「待てよ! 何だよお前!」
両手を広げて大きな声でそう叫んだチムニーは、小さな体だけどすっごく頼もしく見えた。
「君は……」
だけど、チムニーが完全に視界に入っていないフレディさんはいきなりその太い腕を伸ばして私の手を掴もうとした。
咄嗟に悲鳴を上げて大きく羽ばたいて後ろに飛んで逃げる。
もちろん、チムニーを後ろから捕まえて一緒に逃げたわ。ロアも、抱いたままだったオリーブと一緒に後ろへ飛んで逃げるのが見えた。
「おい、待ってくれ!」
更にこっちへ向かって走ってくるのを見て、どうしたらいいのか分からなくなる。
一応相手は取り引きの代表の一人。でもこれは……。
その時、突然もの凄く大きな羽ばたく音がして、私の目の前が焦茶と灰色で埋め尽くされた。
「彼女に指一本でも触れてみろ、その瞬間にお前の首が飛ぶぞ」
上空から舞い降りて来てくれて私の目の前に立ちはだかったグレイさんが、地を這うような低い声で断言する。
ロアとチムニーの悲鳴が辺りに響く。
周りにいた人達が一斉に息を呑むのが分かって、慌てて私はグレイさんの背後から前を覗き込んだ。そして、咄嗟に上げそうになった悲鳴をなんとか堪えた。
グレイさんは、抜き身の剣をフレディさんの首元に突きつけていたのだ。
多分、あと数センチでぐっさり……。
「何をしている、この馬鹿が! フレディ! 下がれ!」
突然辺りに響いた大声に、息をのんで目の前の光景を見つめる事しか出来ない私達は飛び上がった。
しかし、グレイさんはピクリとも動かない。
「わ、分かった……下がるから、下がるから……」
怯えた様子のフレディさんが、両手を上げてゆっくりと後ろに下がる。
じゅうぶん離れたところで、グレイさんがため息を一つ吐いて剣をしまった。
周りにいた人達が一斉に安堵のため息をもらすのが聞こえて、何だか居た堪れなくなる。
「あの……」
「こっちへ」
有無を言わせず、グレイさんが私の肩を叩いてそのまま下がる。
問題のフレディさんは、駆けつけて来た他の人達に半ば引きずられるようにしてあのまま空母もどきまで連れて行かれたみたい。
「うちのが大変な失礼をした。本当に申し訳ない」
やや年配の代表の一人が進み出て、胸に手を当てて私達に向かって深々と頭を下げる。
「大丈夫か?」
駆け寄ってきたカステアさんが、心配そうに私を覗き込む。
グレイさんの隣で、私はチムニーを抱き上げたまま必死で何度も頷いた。
「だ、大丈夫、です。ちょっと、驚いただけで……」
何とかそう言うと、苦笑いしたカステアさんは私の腕を軽く叩いた。
「いやあ、本当に無事でよかった。彼とはもう長い付き合いだが、あんな軽率な事をするような奴じゃあないんだけどな」
ため息と共にそう言われて、私も苦笑いしながら小さく頷く。
「あの人、私に何か言いかけていました。絶対に初対面だと思うんだけど、何の用だったのかしら?」
「初対面の翼人の女性に、地上の男がいきなり何を言うってんだ?」
まだ怒ってる口調のグレイさんにそう言われて、私とカステアさんは、困ったように顔を見合わせていたのだった。
ええ、本当に一体なんだっていうの?
私、何かした?




