巨大船団とこの島の謎
「すっげえ! なあルリ! あれなに! あれなに!」
飛び跳ねて帆船を指差しながら、チムニーが超ハイテンションで私に尋ねる。
「あれは帆船って言って、あの大きく広げた布が帆よ。あれで翼みたいに風を受けて船が前に進む仕組みなの」
「船って?」
あ、そこから……。
苦笑いした私は、まず、船がどうして沈まずに水の上に浮いているのかを落ちていた葉っぱを使って簡単に説明してあげた。
「へえ、地上の人間は飛べない代わりに水の上を移動するのにそんな方法を使うのか。すっげえ事考えるんだなあ」
「お父さんが、地上の商人達が来るのを見たら絶対に驚くって言ってたのは、これの事だったんだね」
ロアはオリーブを抱っこしたまま目を輝かせながらそう言い、抱っこされて視界がいつもよりも広いであろうオリーブは、驚きに目を見開いたままだんだん近づいて来る帆船をぽかんと口を開けて瞬きもせずにひたすら見つめ続けていた。
「しかも船団ね。ええ、私達が持って来たのってあれだけなのに、あんなに大きな船が何隻も来て一体何を積んで帰るのかしら?」
砂浜に積み上がった木箱はたくさんあると思っていたけれども、あれだけの船団と商売するにはあまりにも少ないように思える。
それとも、浮き島で採れる水石などの品はそんなに高価なんだろうか?
ふと浮かんだ疑問が口に出ていたんだけど、それを聞いたロアとチムニーが揃って呆れたみたいに私を見た。
「ルリ、どこに目をつけてるんだよ。もしかして、あれが目に入ってないのか?」
そう言ってチムニーが指差したのは、あの山の裾野に落っこちて積み重なっているワイバーンだった。
「ええ、もしかして……」
「そうよ。狩猟組が危険を冒してワイバーンを落としてくれるのは、もちろん私達の島の安全を守ってくれるって意味もあるんだけど、こうやって地上の商人達が高く買い取ってくれるからなのよ」
当然のようにそう言われて半ば呆然とワイバーンを見上げる。
「いや、逆にあれはちょっと載せられないと思うけど……」
「ここで捌くのよ。私達は肉を返してもらって持って帰るの。彼らは、肉よりも素材としての皮や内臓。それから骨が欲しいんだって。だからそっちは彼らに譲って、私達は持てるだけの肉を受け取って帰るわけ。すっごく美味しいから楽しみにしててね」
「俺もう、今から今日の晩御飯が楽しみで仕方がないよ!」
また興奮して飛び跳ねているチムニーを見て、もう一度ワイバーンを見上げる。
「あれを……あれを捌いちゃうんだ。凄いわねえ」
どうやるのか予想もつかず、もう感心するしかなかった。
「そっか、いつも食事の時に出る水鳥の肉だけじゃないわけね」
だけど今のところ、鶏肉と豚肉しか食べた記憶がない。とってもジューシーなソーセージもあったから、もしかしたら、あれは牛肉の入った合い挽きミンチだったのかもしれない。
「そうだよ。あとは牛と豚。鶏の時もあるね。これは元々浮き島にはいなかった生き物だから、今でも地上から定期的に子供を買ってるよ。今日はどうだろうね?」
チムニーの言葉に納得してもうすぐ近くまで来た、思ったよりも遥かに巨大な船を見つめていた。
「うわあ、すっげえ。島ごと移動して来たみたいだ」
「本当だね。すっごく大きい」
砂浜近くに停泊した巨大な船は全部で十二隻。そのうち、妙に平べったいまるで空母のような船がそのままどんどんと砂浜に向かって突っ込んで来た。
「ええ、ちょっと! 衝突するわよ!」
慌てて下がろうとしたが、皆平然と突っ込んで来る船を見ている。
すぐ逃げられるように身構えつつ見ていると、その船はそのまま砂浜に突っ込んでゆっくりと止まった。
その先頭部分がゆっくりと下がり始め、砂浜へと続く巨大なスロープが姿を現した。
「へえ、確かにこうすれば船に荷物を積み込むのは容易そうね」
その船の後ろ側はこれまた巨大なタラップのようになっていて、恐らくその隣に船を近づけて荷物のやりとりをするのだろう。
上空ではグレイさん達狩猟組や荷物運びをした大柄な人達が、全員舞い上がって島全体を見下ろせるくらいの高さで旋回している。
もう地上にいるのは、私達みたいに後ろに下がって見学している人が後全部で十人くらいと、そして彼らと直接取り引きをするのだろう倉庫組の人達が、全部で三十人くらい。それだけしかいなくなっていた。
「いつも取り引き中に他の船が来たりするんだって聞いたわ。彼らが上空を旋回している間は、そいつらは近寄って来ない。万一近寄ってきたら彼らが攻撃しても良い事になってるんだって」
ロアの言葉に、私は目を見開く。
「ワイバーンの素材は、地上ではそれくらい皆が欲しがるんだって聞くわね。だから、最初に捌いて持てるだけの肉を手に入れたら、私達は早々に引き上げるのよ。その後は、彼ら同士でまた取り引きをするんだって聞いたわね」
「ああ、なるほど。まずは人間の代表が私達と取り引きをしてワイバーンを買い取り、私達がいなくなってから、彼らが買い取ったワイバーンを使って他の商人達と取り引きをするわけね。へえ何とも強かねえ」
感心しつつ、ふと不思議に思った。
「あれ? ここに落っこちているワイバーンは、今日倒したわけではないのよね? 特に見張りを立てていた訳でもなければ、柵がしてあるわけでもないのに、勝手に来て、勝手に持ち去ろうは思わないのかしら?」
首を傾げていると、笑ったロアが空を指差した。
「これも父さんから聞いた話だけどね。この島は元々翼人しか入れない島なんだって。かろうじて人間でも入れるのが、この砂浜だけなんだって。だから彼らは私達がいないと、あのワイバーンに手が届かないのよ」
振り返ってワイバーンを見たが、森に切り開かれた通路らしきものが見えるから別に行こうと思えば行けそうだ。どうして無理なんだろうか?
「鍵があってね。浮き島で鍵を開けないと、この島には上陸すら出来ないんだって聞いたわ」
「なにそれ、いったいどこの鍵を開けるの?」
「ケッカイの鍵だって言ってたわね。私にも父さんにも、そのケッカイってのが何かは分からないけど、それを開けないと誰も島には入れないんだってさ」
ロアには意味の分からない言葉みたいだけど、残念ながら私には分かったわ。
「それって、もしかしてもしかしなくても島全体を包む結界魔法の事よね。しかも、浮き島から来る人や物は入れるけど、地上の人達は入れない。うわあ、入る相手を選別する結界魔法って、すごい」
恐らくこれも巨人族の技術遺産なのだろう。
半ば呆れたようなため息を吐いて、目を閉じて空を見上げる。
「うん、今のは聞かなかった事にしよう。それが良いわね」
小さく首を振って自分に言い聞かせるようにそう呟き、大きなため息を吐いたのだった。
「ああ! 見て見て! 誰か降りてきたよ」
チムニーの声に、慌てて視線を戻し、さっきの空母みたいな平たい船から降りてくる大勢の人達を見つめていたのだった。




