地上への到着と近づく船団
「ほら、無事に地上に到着だぞ」
そう言って笑ったグレイさんは、私を抱いたままふわりと砂浜に舞い降りた。
そのままゆっくりと地面に下ろしてくれる。
「あ、ありがとうございます……」
半ば無意識でそう言ったきり、無言で周囲を見回す。
見える範囲全ての背景は久しぶりに見る水平線。それ以外は何もない。
上から見た時にあんなに小さいと思った島だったけれども、こうして降り立って見れば分かる。ここは相当に大きな島だ。
しかも、島全体が一つの山になっていて、中央の山頂部分まで全部が緑に覆い尽くされていた。そして上空から見たあのワイバーンの死体は、その山の裾野部分に広がる低木の森の中に、まるで磔になったみたいに大きく広がって落ちていたのだ。
間近で見るその存在感は圧倒的だった。
見ていると、不意に起き上がって来そうで怖くなった私は、小さく身震いして気分を変えるように深呼吸をしてから木箱に駆け寄って行った。
「あの、預かってる荷物はどこに出せば良いですか?」
誰に聞いたら良いのか分からなかったので、とりあえず木箱の側まで行って大きな声で聞いてみる。
「ああ、ルリさんだね。すまないけどここに頼むよ」
名前は知らないけど、いつも倉庫で見かける大柄な男性が手を振って空の木箱を指差して教えてくれる。
「ここですね。分かりました」
一応種類別になるように気を使いながら、預かった分を順番に取り出して木箱の中に入れていく。
「ルリ〜〜!」
その時頭上から聞こえた元気な声に笑顔で見上げると、カーク君とキース君に抱っこされたチムニーとオリーブが揃って笑顔でこっちに向かって両手を振り回しているのが見えた。
「こら、暴れるなって! 落としても知らないからな!」
「ああもう、危ないって言ってるだろう!」
二人共、すっかりご機嫌で身を乗り出すみたいにして両手を振り回しているから、抱っこしている二人は本気で大変そう。
「危ないからじっとしてなさい!」
手を振り返しつつ大きな声でそう言ってやり、ゆっくりと地上に降り立つ二人を見ていた。
「ううん、格好良いわねえ」
子供達を下ろした二人は、そのままグレイさんの方に駆け寄って顔を寄せて何か真剣な顔で話を始めてしまった。
私は駆け寄って来たチムニーとオリーブと一緒に、まずは取り出した荷物をせっせと木箱に入れて行った。
「それじゃあルリは、ハリーの指示に従ってくれるか。俺達は上空での警戒に上がるからな」
グレイさんの声にあわてて立ち上がる。
「それじゃあチムニーとオリーブをよろしくね」
「ルリ姉さんと一緒にいるんだぞ」
カーク君とキース君も笑ってそう言うと、グレイさんと一緒に大きく羽ばたいて上空へ舞い上がっていった。
ハリーは、倉庫係の人で、さっき荷物を担いで降りて来ていたうちの一人。
今は、すぐそばで大きな木箱の蓋を開いて回っている。
「やっぱり格好良いよなあ。ああ、良いなあ、俺もあんな翼が良かった」
チムニーはそう呟き、まだが産毛の生えているだけの小さな翼を見つめている。
「お姉さんのチムタムは、とっても綺麗な真っ白な翼だったわね。じゃあチムニーも大きくなったら真っ白な翼になるのかしら?」
確か、タイハクオウムだって言ってたから、それならチムニーの翼も当然真っ白のはず。
すると顔を上げたチムニーは。自分のまだ小さな翼の先を引っ張りながらしょんぼりと頷いた。
「そうなんだよな。白一色ってなんか格好悪いもん。グレイさんみたいな翼が良かった」
「グレイさんの翼は、すごく格好良いもんね!」
チムニーの言葉に、オリーブちゃんまでが目を輝かせてそう言っている。
「そうね。確かにグレイさんの翼は綺麗で格好良いわよね」
思わず全力で同意してしまうと、何故か二人が揃ってにんまりと笑って私を見上げた。
「え? どうかした?」
不思議に思ってそう尋ねると、何故か二人はまた笑って揃って首を振った。
「なんでもない!」
これまた綺麗に揃った声でそう言うと、私が取り出した最後の包みを受け取って木箱の中に入れた。
なんだか話を誤魔化された気がするけど、まあいっか。
「預かった荷物はこれで全部ね。ええと、この後ってどうすれば良いのかしら?」
振り返って確認しようとしたら、さっきまで木箱の側にいたハリーさんの姿が見えない。
「ええと……」
困って周囲を見回していると、チムタムといつも一緒にいる同じくらいの年齢の女の子が駆け寄ってきた。
「ロア、あなたも来てたのね」
顔見知りを見つけて安堵してるのは年上としてどうかと思うけど、どうしたら良いのかが全くわかっていない私はそう言って誤魔化すように彼女に手を振った。
「ルリ姉さんと一緒にいるように言われたの。取り引きが始まったらもう少し下がったところで見学していれば良いらしいわ。帆船が近づいて来たから、もう見学組は下がってなさいって言われたの」
ロアが笑顔でそう言い、オリーブを抱き上げた。
「こっちよ」
そう言って翼を広げるのを見て、私はチムニーを抱き上げた。
「落とすといけないから、飛んでる間はじっとしててよ」
「分かった〜〜!」
本当に分かってるのかと突っ込みたくなるくらいに元気な声でそう返事をされ、苦笑いした私はチムニーを抱き直してからロアを追いかけて翼を広げて舞い上がった。
そのまま砂浜の奥へ下がったところで舞い降りてチムニーを下ろした。そしてそこで振り返って海を見た私は目を見開いた。
そこには、紺色の海の中を大きな帆を広げた帆船が、船団を組んでこっちへ向かって進んで来ているところだった。
「へえ、地上には帆船があるのね。しかも相当大きい帆船ね。すごい!」
目を輝かせる私と違って、おそらく初めて帆船を見るのであろう子供達は、揃ってポカンと口を開けたまま言葉も無く近付いてくる帆船を見つめていたのだった。




