採集と収納
「これって、どれくらい集めればいいの?」
もらった籠には、既に千切った紫蘇もどきあらため血止め草が山盛りになっている。
「持てるだけ採集してくれよ」
チムニーの答えに返事をして、とりあえず集めた分をそのまま収納して籠を空にする。
「頑張って集めてくれよな。これは狩猟組の人達が怪我した時にたくさん使うから、あればあるだけ良いんだよ」
ちょうど、周囲を警戒してくれていたキース君の言葉に思わず手が止まる。
「……狩猟組って、怪我する事もあるの?」
驚いて振り返った私を見て、立ち止まったキース君は小さく笑って肩を竦めた。
「そりゃあ、水鳥を狩って来るくらいだったら誰も怪我なんてしねえよ。だけど、たまにジェムモンスターが森や水場に異常発生して、採集組が出て行けなくなったりする事があるんだ。そんな時に出動してそれを殲滅してくれたり、はぐれのワイバーンと予定外の場所で出くわして急に戦いになる事だってあるからさ。俺達未成年と違って、大人の狩猟組の仕事は常に危険と隣り合わせだよ」
隣で同じように血止め草を千切っていたチムニーもキース君の言葉に頷き、手を止めて真剣な表情で私を振り返る。
「狩猟組の人達がそうやって体を張って周囲の環境を守ってくれるおかげで、俺達はこうやって安全に暮らしていられるんだ。だから、今の俺に出来る事なんてこれくらいしかないから、あの人達に恥ずかしく無いように精一杯頑張るんだ」
子供とは思えないしっかりしたその言葉に私が密かに感動していると、キースくんが呆れたようにため息を吐いてチムニーの額を突っついた。
「その割には、いつも手が痛いとか、腹が減ったとか、文句ばっかり言ってるような気がするんだけどなあ?」
からかうようなその言葉に、真剣な顔だったチムニーは一転して満面の笑みになる。
「文句は言っても、手は動かしてるから良いんだい!」
「あれ? 偉そうな事言う割には今は手が止まってるぞ〜?」
また笑いながら額を突っつかれて舌を出したチムニーは、笑って手を振ってまた周囲の見回りに出て行ったキース君の後ろ姿にもう一度舌を出しつつも笑っていた。
それから一つ深呼吸をして持っていた山盛りになった籠を足元に置いた。
「ルリ! 収納出来るって言ってたよな。そろそろ集まってると思うから、一度皆の所を回って集まった分を持てるとこまでで良いから持ってやってくれるか」
「血止め草だけ貰って、籠は返せば良いのね」
「うん、それでお願い!」
「了解、じゃあ行ってくるわ」
ここまで集めた分を改めて全部収納して、空になった籠を足元に置く。
「みんな〜〜! ルリが今からみんなの所を回って、収穫した血止め草を集めてくれるからあるだけ渡してくれるか〜〜!」
「はあ〜〜い!」
あちこちから元気な返事が返り、私は自分を呼ぶ子供達の声に返事をして、まずは一番近くの子達のところへ駆け寄って行ったのだった。
「すっげえ。全部収納出来ちゃったよ」
「ルリ姉さん、すごい。全部持ってくれた」
「すっげえ! 大容量の収納の人、初めて見た!」
「すっごいすっごい! これなら葉が傷む心配もせずにありったけ集められる!」
何と、ここまで子供達が集めた血止め草、かなりの量だったんだけど全部収納出来ちゃいました。
我ながらちょっと本気で驚いたわ。しかも収納自体はまだまだ余裕な感じがする。
私自身は全く疲労感ゼロ。大量に収納したからと言って、特に何か自分に変化があるわけじゃないから、そんなに凄いと言われても自覚無し。
だけどまあ、これだけ子供達が大喜びしてくれたら何だかすごく良い事した気分になってきたわ。
「ルリ姉さん、まだ持てそう?」
駆け寄ってきたカーク君に聞かれて頷く。
「ええ、まだまだ大丈夫だと思うけど」
全く一杯になった感じはしないので、余裕で大丈夫そう。
「じゃあ俺が一緒に行くから、他の班の子達の分も持ってやってもらえるかな」
「ああ、もちろん構わないわ。私だと、他の子達が何処にいるか分からないものね。お願いします」
キース君に手を振って何か合図をしたカーク君は、キース君からのハンドサインを見て頷き私を振り返った。
「じゃあ案内するよ」
そう言って左手を差し出されて素直に右手で握り返す。カーク君が大きく翼を広げるのを見て私も背中の翼を開いた。
「飛ぶよ」
短くそう言って大きく羽ばたく。それに合わせて私も大きく羽ばたき軽く地面を蹴る。
手を引かれて一気に上昇して、軽く弧を描くようにして水平飛行に移りそのまま森の上空を滑空する。
グレイさんほどじゃあないけど、カーク君の飛び方もとても安定している。
私は翼を開いているだけで全然羽ばたいたりしていないのに、ぐいぐい引っ張って飛んでくれる感じが何とも頼もしい。
そのまま森の中心部分にゆっくりと舞い降りる。
「ルリ姉さん、カークと仲良し〜〜!」
「良いなあ〜」
「良いなあ〜」
私達が手を繋いで降りて来たのを見て、泉の周囲にいた年長組の子達が一斉に集まってくる。
「なっ、馬鹿な事言ってんじゃねえよ。ルリ姉さんはお前らの集めた水石を収納しに来てくれたんだぞ。俺は護衛兼案内役だよ! いらないなら次へ行くからな!」
からかわれて真っ赤になったカーク君の叫びに、周囲から悲鳴と謝る声が聞こえて皆が一斉に振り返る。
「ルリ姉さん、大容量の収納持ちだって言ってたものね。これ、持てるところまででいいからお願いします」
駆け寄ってきたチムタムの言葉に振り返ると、布を敷いた大きな木箱の中に10センチくらいの小さめの水石がぎっしりと入っていた。
「ええと、これって木箱は返した方が良いのよね?」
「もしかして、このまま持てる?」
「大丈夫だと思うけど?」
昨日収納してみた引き出しより小さいくらいだから余裕だと思う。
「じゃあちょっと待ってね!」
目を輝かせたチムタムは、もう一人駆け寄ってきた女の子と協力して、木箱に敷いてあった大きな布で水石をまとめて風呂敷包みするみたいにして包んでしまった。
「これでどう?」
「収納すれば良いのよね?」
頷いて一瞬で収納する。
「どう、まだ大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ」
そう答えた瞬間、なぜか拍手大喝采になる。
「じゃあこれもお願いします!」
「まだ大丈夫なら、これもお願い!」
次々に渡される大小の包みをひたすら受け取っては収納するのを繰り返した。
結局、ここだけでなくあと二箇所をカーク君と一緒に周り、子供達が手分けして採集していた様々な収穫物と、午前中に皆で集めたパンの実まで、何と私一人で全て収納してしまう事が出来たわ。
身軽になって帰れるからと、もう子供達は大喜び。
私は大はしゃぎする子供達と仲良く交代で手を繋いで、また皆で歌を歌いながら帰路についたのだった。




