採集と頼もしい姿
「ルリ姉さん、すごい!」
「ここへ来る時は、いつも大変なんだよ」
「それなのに、こんなに早く来られた!」
「すごいすごい!」
年長組の子達や警備班の子達が、そう言いながら揃って目を輝かせて拍手してくれたわ。
「何より子供達が楽しそうだ」
「そうだよな。それがすごい」
「へえ、歌を歌いながら歩く、か。そんなの考えた事もなかったよなあ」
「あら、普通子供の時ってやらない?」
揃って首を振る彼らを見て少し考える。
「そっか、翼があると歩く事にはあまり価値を見出さなのかも」
私の呟きが聞こえたらしい、隣にいたチムタムが大きく頷いている。
「確かにそうね。私達にとっては飛んで移動するのが当たり前だからね。わざわざ長距離を歩くのって、今みたいに飛べない子供達と一緒の時や、どうしても飛べないような狭い室内なんかだけだものね」
「逆に、今までの私のいた世界は移動するのは歩くのが当たり前だったから、こんな風に歩く事そのものを楽しむ習慣があったのね。へえ、面白い」
年長組の子達が私の言葉に納得して頷き合っている。
「俺達が初めて飛べるようになった時に、親や兄妹と一緒に手を取り合って飛ぶ時みたいなものだな」
「そっか、じゃああの時に歌う歌なんかを、今教えてあげて一緒に歌いながら歩けばいいんじゃね?」
「いいなそれ。大きくなって飛べるようになった時に、空ですぐに歌えるように!」
「いいわね! ぜひやりましょう!」
チムタムは、他の年長の子達と一緒に何やら真剣に相談を始めている。
「おおい、それはまたあとで相談してくれよな。何から集めるんだよ〜〜?」
籠を抱えたチムニーの大きな声に、集まって話をしていた年長組の子達が照れたように笑って慌てて散って行く。
「ほら、ルリは第一班だから俺達と一緒に行くんだよ!」
突然しっかりしたチムニーに空の籠を差し出されながらそう言われて、私も驚きつつ籠を受け取る。
「はい、よろしくね」
「おう、任せろ!」
小さいけど胸を張るその姿は、頼もしくて格好良い。
「ごめんね、じゃあチムニーの班は、いつもの薄荷、カミツレ、それから血止め草、咳止め草もお願い」
「了解、じゃあ集めるぞ〜〜!」
チムニーの掛け声と共に、籠を持った子供達が集まってくる。
「じゃあ第二班と第三班は、薄荷とカミツレを集めてくれ。第一班は血止め草と咳止め草を集めるぞ! それ以外も見つけたら無理の無い範囲で集める事!」
「分かった〜〜〜!」
元気よく返事をした子供達が、籠を手に森のあちこちへ走って行く。
「ほら、行くぞ」
「あ、はい」
チムニーに手を取られて素直に返事をした私は、集まって来たあと五人のチムニーと同じくらいの歳の子達と一緒に森の中へ入って行った。
「頭の上、枝が出てるから気をつけて」
「左から小枝が突き出してる。目を突かないように気を付けて」
「足元、ぬかるみがあるぞ。気をつけろ!」
食事の前に走り回って大はしゃぎしていた子と同一人物とは思えないくらいのキビキビした様子で、時折皆に注意を与えながらチムニーが先導して森の中を進む。
実際にはそれほど奥まで入ったわけでは無いのに、もう周囲は鬱蒼とした深い森になっていてちょっと怖いくらい。
「左の木の幹に黒蝉がいる。誰か捕まえられるか?」
突然立ち止まったチムニーが振り返って小声で後ろの子達に教える。
「僕が捕まえる!」
突然虫取り網を取り出した少年が、大きな木に向かっていきなり駆け寄っていった。そのまま大きくジャンプして網を木に叩きつけるみたいにして振り回した。
「よし、捕まえた!」
ギジジジジジジ〜〜〜〜〜!
まさしくセミ以外の何者でもないけたたましい鳴き声と共に、さっきの少年が戻ってくる。
「はい、虫かご!」
別の少年が、ごく細い竹みたいなので編んだ虫かごを即座に差し出す。
「よし、羽の状態完璧!」
虫かごの中には、20センチくらいは余裕でありそうな真っ黒で巨大な蝉が入っていた。
「うわあ、大きいのね」
ちょっとビビりつつそう言うと、捕まえた少年は目を輝かせて虫かごを私の前に突き出すみたいにして見せてくれる。いや、ちょっと近いって。
「これは黒蝉。浮き島にしかいない昆虫なんだ。この黒い翅が細工物に人気らしくって、地上の商人に高く売れるんだ。だから採集に行く時に見つけたら捕まえて、戻って羽を保存しておいて売ってもらうんだよ。それで売れたお金で皆の分の地上の珍しいお菓子や食べ物を買ってもらうんだ」
何ともたくましい。自分達のおやつは自分達で調達してるわけね」
「へえ、すごいのね。じゃあ頑張って集めないとね」
「そうなんだけど滅多に見つからないんだよな。黒蝉が取れるのは森の中だけだから、これが採れるのって採集で森へ来てる時だけなんだよ」
「他にも高く売れる虫があるから、それを見つけたら一緒に集めるんだ」
少年達が口々に得意げにそう言って胸を張る。
「私達は珍しい花を集めてるわ。押し花にしたり、乾燥させたりしてこれも売るのよ」
「結構高く買ってくれるのよね」
少女達までそんな事を言ってるのを聞いて、何ともたくましい子供達に私はひたすら感心するしかなかった。
「キノコも見つけたら集めるんだけど、これは種類をしっかり見極めないと危険だから、俺達年少組はキノコには触るなって言われてる。ルリもキノコを見つけても勝手に触らないようにな」
「了解、気を付けます」
真顔のチムニーにそう言われて慌てて頷く。チムニーったら小さいのに、急にすごくしっかりしていて、密かに感心しつつ大人しくついて行く。
「ほら、ここが血止め草の生えてる場所だよ。これが血止め草」
指さしたそれは、紫蘇の葉みたいな濃い紫色をした葉で、まさしく紫蘇くらいのサイズの葉が、50センチくらいの背丈の茂みにびっしりと重なるようにして生えていたわ。
「こうやって、根本の部分から一枚ずつ千切るんだ。葉を折ったり千切ったりしないように茎の根本から千切る事。ちょっと指の先が黒くなるけど、洗ったら落ちるから気にしないでいいぞ。茎が取れにくかったらナイフを使ってもいいけど葉を切らないようにな」
恐るおそる手を伸ばして紫蘇の葉もどきを千切ってみる。
「うん、これなら簡単に千切れるわね」
案外簡単に千切れたので安心した私は、教えてもらった通りに葉を傷めないように気を付けつつ、せっせと紫蘇もどきを集め続けたのだった。




