お弁当と歌
「まあ、美味しそう」
白い布でお弁当包みされていたそれを、座った膝の上で開けてみる。
中には乾燥させた葉っぱで包まれた、ハンバーガーもどきが二つ入っていた。
二つに割った白パンの実の間に、分厚いハムと半分に切った大きな茹で卵、それからたっぷりのレタスが挟まれていてなかなか豪華だ。
「ああ、今日はハムと卵だ!」
チムニーが包みを開くなりそう言って大きな口を開けて豪快にかぶりつく。
「私もこれ好き〜〜! 美味しいもんね」
笑ったチムタムもそう言って嬉しそうにバーガーを食べ始めた。
チムニーの声に隣に座った女の子も、これ美味しいよねと言いながらその隣の女の子と一緒に笑い合っている。
チムニーの隣に座ったあの子は、確かここへ来て初めての時に食事だと言って呼びに来てくれた子。
「ええと、確か名前は……」
「ポポです。よろしくね、まれびとのお姉さん」
名前が思い出せなくて必死で考えていたら向こうから名乗ってくれた。
「ああ、ごめんなさい。よろしくね」
「私はルルよ。似た名前ね。よろしく。ポポの妹で〜す!」
ポポちゃんよりも少し小さな子が、こっちに手を振りながら笑顔で名乗ってくれる。
「本当ね、よろしくね」
私も笑顔で手を振り返し、美味しいお弁当を食べながらおしゃべりも楽しんだわ。
彼女達はさっきの私の飛び方を目を輝かせて褒めてくれた。
「ええ、だってもっと上手に飛ぶ人はいっぱいいるでしょう?」
「そりゃあ大人の翼の大きな人なら飛ぶのも上手いわよ。だけど、ルリ姉さんはそんなに小柄で翼も小さいのに、あんなに上手に飛べるなんて凄い!」
「うん、凄い!」
手放しで褒められてしまい、なんだか照れくさい。
「まあ小柄なのは認めるわ。チムタムと背だけで言えば変わらないくらいだもんね」
苦笑いしながらそう言うと、チムタムも笑いながら頷いてる。
「私はタイハクオウムだから、もう少し背も伸びると思うんだけどね」
「ええ、今でも翼の大きさは既に負けてるのに〜〜!」
得意気にそう言われて、私は情けない悲鳴をあげてチムタムの腕に縋り、また皆で笑い合った。
「ごちそうさまでした。美味しかった」
最後の一口を飲み込んでからそう言い、水石を使って出した水の入ったマグカップを持つ。
「もう、水石の使い方も上手になったね」
「そうね。もうこぼさずに水を出せるようになったわ」
彼女も同じようなマグカップを使って水を飲んでいる。だけど、なぜかチムニーはマグカップらしきものをどこにも持っていない。
「あれ、チムニーはマグは持ってきていないの?」
忘れたのなら、私のを貸してあげてもいいと思って声をかけると、振り返ってニンマリと笑ったチムニーは、小さな水石を一瞬で取り出してみせた。
私の親指くらいだから、それはかなり小さめの水石。
「俺らはこうやって飲むんだよ」
そう言うと、左手で摘んだ水石を右手で軽く弾き、そのまま上を向いて口の上へ持っていきそのまま左手で水石を弾いたのだ。
小さな水の塊がそのまま開いた小さな口の中に落ちる。
「ほとんどの男の子は皆あれをやるわね。言っておくけど、あれはお行儀悪いんだから緊急時以外はルリはやっちゃあ駄目よ」
「そうなのね。面白そうだけど、あれを私がやったら水を飲むんじゃなくて顔を洗うことになりそうだから遠慮しておくわ」
「俺も初めてやった時は、顔洗ったぞ〜〜!」
私の声が聞こえていたみたいで、なぜかチムニーが得意げにそう言ってドヤ顔になる。
「鼻に水が入ったって言って、ビービー泣いてたのはどこの誰だっけねえ」
にんまり笑ったチムタムのツッコミにチムニーは顔を覆って悲鳴を上げ、私達は揃って吹き出したのだった。
午後からは、もう少し離れたところへ薬草摘みに行くらしい。
あちこちに座っていた子達も手早く片付けて集まり、また大騒ぎで移動を開始する。
団体の後ろから歩きながら見ていると、とにかく移動させようとする年長組と、遊びたくて仕方がない年少組との戦いになっている。
はしゃいで走って逃げようとする子と、必死で追いかけて何とか確保してとにかく団体で移動させようとする子達の間のある意味攻防戦状態。
列の後ろから遅れそうな子達を捕まえて歩いていた私は、ふと近所の保育園と幼稚園の子供達を思い出した。
大きなワゴンに乗せて移動していた日もあったけど、少し大きい子達の時は仲良く手を繋いで歩いていた。
「ねえ、何人かずつ手を繋いで歩かせたら良いんじゃない?」
「手を繋いで?」
不思議そうにするチムタムを見て、私はチムニーに手を差し出した。
「そう、こうやって手を繋いで歩くの。じゃあ歩きながら歌でも歌おうか」
そう言って少し考えて、子供の頃にテレビで聞いた大好きだった子供向けの童謡を歌い始めた。
「歩くよ歩くよ、元気よく。みんなで歩けばどんどん進む。おてて繋いで仲良く歩く。私もあなたも元気よく。お日様さんさん、いい天気」
目を輝かせた子供達が、次々に手を繋いで私を見つめる。
「チュンチュン小鳥がこんにちは。仲良く羽ばたきぴょんぴょんぴょん」
今の状況にあまりにもぴったりな歌詞にちょっと笑ってしまい、チムニーと息を合わせて歌いながら飛び跳ねる。
子供達はもう大喜びで仲良しな子同士で手を繋ぎあって、デタラメな音程で一緒に歌い始める。
「歩くよ歩くよ、元気よく。みんなで歩けばどんどん進む。おてて繋いで仲良く歩く。私もあなたも元気よく。お日様さんさん、いい天気。チュンチュン小鳥がこんにちは。仲良く羽ばたきぴょんぴょんぴょん」
三回目には、年長組の何人かが音程を覚えて一緒に歌ってくれ、四回目には子供達も音程を覚えて歌い出し、それがしっかり歌になっていたのには感心したわ。
「チュンチュン小鳥がこんにちは。仲良く羽ばたきぴょんぴょんぴょん! チュンチュン小鳥がこんにちは。仲良く羽ばたきぴょんぴょんぴょん」
どうやら最後のフレーズがすっかり気に入ったらしく、もう何度も繰り返してそこばかり歌っている。しかも、最後のぴょんぴょんぴょんの掛け声に合わせて、子供達が全員揃って元気に飛び跳ねるのだ。
年長組の子達も、最初は驚いていたのだけど、年少組の子達に笑顔で手を差し出されて嬉しそうに手を握って一緒に歌い始める。
目的地の薬草が生えている森が見えるまで、なんと勝手に走り回る子達は一人もいないまま進み続け、全員無事に到着しました。よし。
目的地に無事に到着した途端に、年長組と警備隊の子達から感心したような歓声と大きな拍手が沸き起こったのだった。




