食事の準備と紹介
「ああ、来たわね。ポポから聞いてリッティの隣の席を用意したから、彼女にはそこに座ってもらってちょうだいな」
部屋に入った私達に気づいて振り返った綺麗な緑色の翼の女性が、笑顔でそう言いながら手招きしてくれる。後頭部で括った長い髪が尻尾みたいに跳ねて戻った。
「ありがとうパム。じゃあ、ルリはここに座っててくれるかしら」
笑顔でそう言って端の机に用意された椅子を示した後、そのまま料理の準備を手伝いに行く彼女を見て座りかけた私は慌ててその後を追った。
「あの、手伝います。何をしたらいいですか?」
しかし、パムと呼ばれた先程の女性が笑って顔の前で手を振った。
「気にしないでいいわよ、今は座って私達がしてる事を見ててちょうだい。食事の後で時間をとってあるから、そこで詳しい話をして、あなたに何を担当してもらうか決めるからね」
どうやら、このパムって人がここのリーダーらしく、他の人達もその言葉に笑って頷いてくれた。
「すみません、ではお世話になります」
そう言ってひとまず言われた席に座る。
走り回っていた子供達は、もうほとんどの子が捕獲されて席についているが、何人かの子は、広くなった部屋に逆に大喜びでさらに笑い声を上げながら逃げ回っている。
まだ、産毛の生えた小さな翼では飛ぶ事は出来ないみたいだけど、飛ぶ予備動作みたいに時折大きくジャンプしているのは、翼を持つ人の本能なのかもしれない。
「ああもう、いい加減にしなさいって言ってるでしょうが! 毎回毎回、そんなに走り回らないで! 悪い子はこうよ!」
ようやく最後の一人を捕まえた高校生くらいの年齢の女の子が、そう言って十歳くらいの男の子の脇腹をくすぐる。
笑いながら悲鳴を上げてさらに逃げようとしたところに、彼女と同じくらいの歳の男の子がさっと出てきてその少年を横から軽々と捕まえた。
「チムニー、いい加減にしろ!」
「うう、ごめんなさい」
その男の子が真顔で拳で軽く殴るふりをすると、首を引っ込めつつ舌を出したその少年は、それでも案外素直に謝って席についた。
年上の子達が、手早く準備された料理を配って回る。まずは小さな子供達の前に、それから自分達の分をそれぞれの机に置くと、私のところにも運んできてくれた。
「ええと、これがお姉ちゃんの分です。食べ終わったら、食器は向こうへ自分で運んでくださいね。皆が一生懸命集めてくれた食料だから、出来るだけ残さないでください」
女の子が示した方を見ると、カウンターみたいになった場所があり奥に洗い場らしき場所があって、どうやら食べ終えた食器はそこへ自分で返す仕組みになってるみたい。
「分かりました。ありがとう。大事に食べます」
笑顔でお礼を言うとその子は照れたみたいに笑って頷き、それから小さく手を振って走って自分の席に戻っていった。
渡されたのは、やや小さめの白と茶色のパンの実が一つずつと、分厚いハムのようなものの横に、レタスみたいな葉が数枚と緑色と黄色の小粒の豆がこんもりと盛り合わせてある大きめのお皿だった。豆の横には、あの真っ赤なレッドベリーも五粒一緒に並べられていて、なかなか彩りも綺麗で美味しそう。これが何の肉かは、今は考えない事にする。
飲み物は無いのかと思ってこっそり周りを見回すと、リッティさんから何も入っていない空のマグカップを渡された。
「はい、ルリはこれを使ってね」
受け取ったのはいいけど、お茶も水らしきものもどこにも置かれていない。
不思議に思いつつ大人しく座っていると、さっきのパムさんが私のところへ歩いて来た。
「さっきは失礼したわね。改めて名乗らせてもらうわ。採集組と留守番組をまとめてるパメラだよ。パムって呼んどくれ。ああ、言っとくけど、様も、さんも無しね」
「分かりました。よろしくお願いしますパム。ルリです。いろいろ教えてください」
差し出された手を握り返して改めて一礼する。握った彼女の手は、柔らかくて大きな頼もしい手をしていた。
「詳しい話は食事が終わった後でね」
手を離した時にそう言われて頷いた私は、もう一度、よろしくお願いしますと言って頭を下げた。
「さて、食事の前に新しい子を紹介するから、皆聞いてください」
立ち上がった私の横に立つと、パムさんはそう言って大きく手を一度だけ打ち鳴らした。
張りのある音が部屋中に響き、おしゃべりをしていた子供達が一斉に黙ってこっちを振り返る。
「彼女はルリ。噂を聞いた子もいるかもしれないけど、彼女はグレイとワルターが発見、保護してここへ連れて来た、まれびとの子だよ。どうか仲良くしておくれ。翼はあるけどまれびとだから、この世界の事はまだ何も知らないと思ってくれていい。頼りにしてるから、皆、色々彼女に教えてあげてね。絶対にいじめたりするんじゃないよ」
最後はにっこりと笑って男の子達に向かってそう言うと、子供達は一斉に元気よく返事をした。少年達も、顔を顰めたり舌を出したりしながら笑って顔の前で手を振ってる。
「よろしくお願いします!」
少し大きめの声でそう言って頭を下げると、あちこちからよろしくねと声が聞こえて、笑顔で手を振ってくれている子もたくさんいて嬉しくなった。
どうやら、本当にここの人達は良い人達みたい。
笑って手を振り返しながら、人の笑顔ってこんなに安心するものなんだと私は密かに感激していて、後で改めてグレイさんにここへ連れて来てくれたお礼を言おうと考えていたのだった。




