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空の彼方に  作者: しまねこ


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彼女の優しさとここに来た理由

「へえ、それで背中に翼があったからいきなり飛んじゃうって、他人事ながらちょっと凄いと思うわよ」

 羽繕いをしてくれていたリッティさんに笑いながらそう言われて、改めて考えた私も我ながらあまりの無謀さに呆れたのは内緒にしておくわ。



「だって、ずっと飛んで見たかったんだもの」

 小さな声で、それでも一番の理由だけは言葉にする。

「ずっと?」

 そこで私は、小さい頃の思い出を少しだけ話した。

 大人の背丈よりも高い場所から飛び降りて足を骨折した事。飛べない身体でも出来た飛ぶ真似事の事。

 不思議そうにしつつも話を聞いてくれた彼女は、少し考えて私を覗き込んだ。

「それだけ前の世界を覚えているのなら、さっき叫んだ何も分からないって? ああ、責めてるわけじゃあないのよ」

 自分の言った言葉に慌てるみたいに言い訳する彼女を見て、私は笑って首を振った。

「分かってるから気にしないで。だって、ここにどうやって来たのか、肝心のそこが全く分からないんです。だから、何処から来たのかって聞かれても答えようがないわ。確か私は会社へ……ええと、雇われていた人の所へ働きに行った帰りに何かが起こったんだと思うんだけど、その辺りの記憶が曖昧で全然覚えていないんです」

「ああ、なるほどね。それにしても不思議な事もあるのね」

 小さく笑ったリッティさんは、そう言って私を見た。

「さっき広間で言ってた、まれびとってね」

 気になっていた言葉なので、真剣な顔で頷く。

「何処かにこの世界とは違う別の世界があると言われていて、そこから落ちて来た人の事を示す言葉よ。実際に地上では過去に何度か落ちて来た記録が残っているらしいから本当にあるのね。はるか昔の出来事だけど、一度だけこの浮き島群島にもまれびと落ちて来たって記録が残ってる。だけど、地上でもここでもそれは全て普通の人間だった。つまり、翼なんて無い普通の人間よ。だから恐らくだけど、翼のあるまれびとなんて、あなたが初めてだと思うわ」

「不思議なのはそこなのよね」

 その言葉に頷いて、ちょっと風切り羽が歯抜けになってる自分の翼を改めて広げてみる。

 彼女が綺麗に整えてくれたおかげで、ボサボサだった翼の羽は初めて見た時と同じ様にふわふわに戻っている。

「初めてこれを見た時は、本当に驚いたわ。飛べるのかどうかも分からなくてどうしようかと思った。だけど今なら分かるわ。これは私の体の一部だって」

 ふわふわな羽をそっと撫でてその感触を確かめる。

「だとしたら、もしかしたらあなたは元々こちら側の人だったのかもしれないわね」

「こちら側の人?」

 驚いて顔を上げると、リッティさんはにっこりと笑って頷いた。

「小さいころに、先代の長老だった爺さまから聞いた事があるわ。まれびとの中には、元々こちら側に生まれるはずだったのに、何かの間違いで違う世界に落っこちて生まれてしまう人がいるんだって。もしもあなたがそうなんだとしたら全てに説明がつくんじゃない? 以前の世界で、飛べもしないのに焦がれるほどに空が恋しかったわけも、こっちの世界へ落ちて来た今、あなたの背に翼があるって事の理由にもなるんじゃなくて?」



 その言葉は、不思議なくらいに私の中にストンと入ってきてものすごく納得することが出来た。



「本当のところは分からないけど、その考えは素敵ね。じゃあ、そう思う事にするわ。私は元々こちら側に産まれるはずだったのに、何かの間違いで向こうの世界へ落っこちててやっと帰れたんだってね」

 実際に口に出してそう言ったら、なんだか本当にそれが正解のような気がして嬉しくなって来た。

「良かった。やっと笑ってくれたわね」

 心底安堵したようなその優しい言葉にまた涙腺が崩壊する。

 だけど今度の涙は、さっきまでの心細くて不安で仕方がない涙ではなく、安堵と安心と、目の前にいる彼女への信頼からくる暖かな涙だった。

「ああ、ごめんなさい、また泣かせちゃった!」

 焦ったようにそう言ってそっと私を抱きしめてくれるその頼もしい体に、私は両手を広げて力一杯抱きついたのだった。

「ありがとう、ありがとう、ありがとう。私、ここへ連れて、来て、もらえて、本当に、よかった」

 しゃくりあげながらも何とかそれだけは伝えようと、私は一生懸命言葉を紡いでいたのだった。

「泣かないで、大丈夫」

 力強くそう言ってくれた彼女は、私と視線を合わせるみたいにして目の前にしゃがんでくれる。

 まるっきり子供扱いだけど、この身長差と体格差ならこの扱いも致し方ない気がしてきた。

「うん、分かってる。本当にありがとう」



 顔を見合わせて笑い合い、それからもう一杯お茶を入れてもらった。

 今度はお願いして私も手伝わせてもらい、その時にここで皆が食べているものの話を少しだけど聞いたりもした。

 その結果、少なくとも私が知る常識とあまり違わないことを確信して、割と本気で心底安堵したのだった。

 だって、人の姿をしてるから大丈夫だとは思ってたけど、一部は確実に鳥なだけに、もしも虫が主食とか言われたらさあ……。ねえ。

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