第二王女、サリーヌ
すみません。
ここで戦闘を!と思ったのですが、次になってしましました。……ゆるしてね?
ーーそれは馬車で王都へ向けて帰還していた時だった。
耳を劈くような獣の咆哮が聞こえてきたのだ。
「失礼します!!御無礼をお許しください!」
その直後、荒々しく馬車の扉が開く。普段ならこれは無礼な行為だが、今はそれどころではないことはラバン王国第二王女・サリーヌも理解している。
サリーヌは務めて平静な口調で扉を開いた騎士に問う。
「構いません。何があったのですか」
騎士は敬礼をしながら口を開く。
「はっ!現在進行方向より左方前方から魔物の群れ、サンダーウルフの群れが迫ってきております!!伝令に長けた者を救援願いをしてくるよう出しましたが……」
サンダーウルフとは、その名の通り光魔法のひとつである雷属性を使う狼だ。
その危険度は単体なら騎士1人でも討伐可能だが、群れを成すと一気に危険度は跳ね上がる。
ただ単純に数が増えるだけならば、問題はない。その分、騎士隊を送れば済む話だ。
だが、サンダーウルフは少し他の魔物より特殊な能力を持ち合わせていた。
それは、通称〈雷の雨〉と呼ばれる、サンダーウルフたちの雷を結合した強力な魔法だ。
この魔法は、群れが50匹以上いれば警戒が必要とされており、その数は優に100匹を超えていた。
数が増えれば、威力も比例して大きくなる。
そして馬車の護衛の数は20名。戦況は絶望的だった。
「我々が魔物の群れを引きつけます。その隙にお逃げください。御者!我々が道を切り開く!迷わず王都まで走り抜け!!」
護衛の騎士は、「我々も後から追う」とは言わなかった。自分たちは生きては帰れないと分かっているのだ。
サリーヌは震える手を握りしめ、声が震えないように努めながら声を絞り出した。
「あなた方を囮にして、私に逃げろと?そんな事は絶対にしません!」
「しかし、殿下はこの国の――」
「あなた方はこの国の守護者であると同時に、我々王族が守るべき民でもあるのです。ここで逃げて、何が王族でしょう!私は…!」
その言葉を静かに聞いていた騎士は微笑み、サリーヌに優しく諭すように語りかけた。
「……王女殿下。どうか、お聞きください。殿下は、私どもを守るべき民と言って下さいました。
ですが殿下のお言葉を借りるのであれば、私どもは騎士であり、王国民を守る義務がある。
そして、そんな彼らを率いる事ができるのは、由緒ある王族のみ。つまり、殿下は我々だけでなく、他の国民にも必要な方なのです」
そこで騎士は一呼吸置くと、既に目の前まで迫っているサンダーウルフの大群の方に身を翻らせながら声を張り上げた。
「我らは王国騎士団。王国を守護せし者。最後までお側でお守りできないこと、お許しください。
……サリーヌ様にお仕え出来たこと、我らの誇りでございます」
『ラバン王国万歳!!ラバン王国に栄光あれ!!』
呼応するように、騎士たちは声を上げながら、圧倒的な数で迫る魔物の群れに突撃する。
御者もその覚悟に当てられ、苦渋の表情をしながらも馬車を発車させた。
「ダメ!!お願いです!!バルコ!みなさん!私を置いていかないで……!」
実は、この騎士はサリーヌ専属の護衛騎士だった。
幼き頃より、ずっとサリーヌに優しく接してくれた。
最近ではもうサリーヌ様ではなく殿下と呼ばれていたことから、彼と話せるのが本当に最期なのだと自覚し、溢れる涙を抑えることが出来なかった。
忙しく、あまり王である父と遊べなかったサリーヌにとって、彼、バルコは第二の父のような存在だったのだ。
他の騎士もそうだ。バルコの部下である彼らは、幼い頃寂しくて訓練場に行った時、本当の妹のように可愛がってくれた。バルコにバレて「気安すぎる」と怒られていたが。
騎士、―――バルコは、後ろ髪を引かれる思いで、他の仲間とともに突撃する。
圧倒的不利でありながらも、バルコの表情は晴れ晴れとしていた。よく見れば、部下も同じく顔をしており、これから死戦を敢行する者の顔ではなかった。
(フッ、どうやら我らは皆、サリーヌ様のために命を張れることが、この上なく誇らしいようだ。
―――――――――どうか、ご無事で。)
「だめえぇぇぇぇ!!」
サリーヌが叫んだ、その時だった。
涙で霞む視界に、
漆黒の武装をした1人の少年が現れた。
サリーヌは急いで目を擦ると、次の瞬間には魔物の先頭が細切れと化し、宙を舞っていた。
次がっ!!戦闘になる!!……はず。