お嬢様の危機
フルハによって俺たち(覇月隊)はバイルークに存在する人族の国の1つ、ラバン王国へ転移した。
少し遠くには高い障壁で覆われている都市が見え、中心には純白で端麗な城が静かに佇んでる。
「―――ふむ」
セツガが後ろをふりかえると、『覇月隊』の隊員が直立不動で待機している。
セツガは軽く息を吐くと、隊に向けて語りかけた。
「これより、前方に見える都市、ラバン王国王都に向け出発する。――が、その際、この人数でそのまま門前に行けば怪しまれることは明白だ。
よって、ここからは隊を三部隊に分け、第一部隊が南門から入り嘲悦神の情報を集め、第二部隊が西門で勇者の現在地・情報、第三部隊が東門から入場し魔王の現在地・情報を集めるものとする」
『はっ』
「ではまず第一部隊は私が率いる。そして第二はロイ、第三はリンを各隊長とする。頼んだぞ」
「「はっ、しかと承りました」」
副隊長の2人が敬礼をすると同時に、後ろの隊員たちも同じく敬礼をする。そこには、一切の乱れもない。
配分は第一部隊が30名、第二、第三部隊が35名ずつとなった。第一が少し隊員が少ないのは単純に戦力を考えた結果だ。
はっきりいって、副隊長のロイとリンが共闘して隊長であるセツガに挑んでも、瞬殺される。それは副隊長と隊員たちの戦力差もまた然りだ。
故に、できる限り三部隊を同等の戦力にするためには、こうするしかなかったのだ。
「ではーー」
セツガが号令を出そうとした、その時だった。
「ーーっ、誰かっ!誰かいませんかっ!!」
王都とは逆の、山岳地帯方面から女性の声が近づいてきた。
「――散れ」
セツガの突然の命令に、隊員たちは即座に応じ四方八方に散開した。彼らは漆黒の装備を着用している。つまり、こんなところに黒ずくめの集団がいたら怪しまれるに決まっているからだ。
それからしばらくして、さっきの声の人物と思われる女性がおぼつかない足取りで見えてきた。
服は所々汚れているが、上流階級の人間が着てそうな上等な服だった。
あまり刺激しないよう、静かに駆け寄る。
「どうしました?」
「あ、あなたは…?」
「流浪の旅人です」
朦朧としている女性を支えながら、土魔法でコップを、その中に水魔法で水を注いで女性に飲ませる。
「!!んっ、っく、…ふぅ。ありがとうございます。少し落ち着きました」
「よかった。できれば状況を説明願えますか?」
セツガの言葉に女性はハッとすると、セツガの両肩を握りしめ、必死に訴えかけた。
「お嬢様がっ…お嬢様を乗せた馬車が魔物の群れに襲われて!!どうか助けて下さい!!護衛がいますが、それも少数で!魔物の群れは大量で、いつ全滅するかもわからない状況なのです!!」
「ここからどれほどの距離ですか?」
取り乱す女性を宥めるように、落ち着いた声で状況を聞く。
その様子に女性も少し冷静さが戻ってきた。
「…たぶん、ここから500mほど先かと…。必死に走ってきたので、曖昧ですが……すみません」
そういって女性は申し訳なさそうに顔を伏せる。
それにセツガが柔らかく微笑む。
「いえ、よく伝えてくれました。後はお任せください。――2名は彼女を守れ」
「「――はっ」」
「え…?」
「彼らは私の部下です。実は私、流浪の傭兵団の団長でして。最初は旅人と称しましたが、状況が状況ですので」
突然出てきた漆黒の武装をした2人の人物に一瞬警戒を強めた女性だが、セツガの説明を聞いて安堵したように息を深く吐いた。
「では、他にも団員の方々が?」
「ええ。我が団が魔物を殲滅し、あなたのお嬢様の護送まで支援致しますので、ご安心を」
セツガはそういうと、静かにその場から消え失せた。
これからのことを考えたら傭兵団という設定の方が動きやすいかなと思いました。傭兵団の名前は検討中です。
次はそのお嬢様の方の目線となります。