勇者救出
ちょっと長めでーす。
「――と、いうわけだ」
俺はあの後ナント公爵と別れた後、我が紅龍兵団の兵たちに勇者の状況について説明した。
「では、火山地帯ということは分かっているが、勇者の正確な位置までは分からない、と」
「その通りだ」
ロイの言葉にセツガは頷く。
「だが、見捨てるという選択肢はない。勇者も魔王も、後々必要になってくる。失う訳にはいかない」
「心得ております」
それに、とセツガは続ける。
「ナント公爵に恩を売ることが出来る。ラバン王国では第二王女殿下、フォレスト神聖国ではナント公爵という後ろ盾ができるわけだ」
そこにリンが付け加える。
「また、北の火山地帯に行く途中にある関所は公爵閣下の【ナント公紋章】のおかげで素通り出来るようになっています」
セツガはリンに頷くと、自身の馬に跨る。セツガは
それに習い紅龍兵団の兵たちも急いで馬に跨ったことを確認すると、北に向け馬を走らせた。
☆★☆
やはり、ナント公紋章の効力は絶大だった。いくつもの関所を素通りすることが出来たのだ。
まあ、このような服装も関係あるだろうが。
薄汚いときっと怪しまれるだろうが、この制服だと、
「なるほど、ナント公爵様の!ささ、騎士様方どうぞお通りくださいませ!」
となる。便利なことこの上ない。
思った以上にスムーズに行けたこともあり、約1時間半後には火山地帯手前に着くことができた。
俺たちは[氷魔法]で暑さ対策しながら奥へと進む。
手前はもう何度も探索した、とナント公爵が言っていたからだ。ならば、やはりいるとしたら奥地だろう。
何でも奥地はあまりに過酷な暑さと言うことで、1度しか行けていないそうだ。
だが我々には[氷魔法]があるので関係ない。
俺たちは中間地点まで来ると、兵団を3つに分ける。
もちろん覇月隊と同じ構成だ。
ロイの隊は右、リンの隊は左から、[探知魔法]を展開する。そのままローラー作戦で探そう、というわけだ。
声を上げながら探すが、勇者が声が出せない状況という場合も考えて念入りに調べていく。
そのまま奥へと進むと、火口付近にまで到達した。
俺たちは最悪のケースを想定した。
「……一応、火口を確認するぞ」
死体すら残ってもいないかもしれないが、亡骸があれば供養しようと思ったのだ。
が、その時、火口から凄まじい魔力が近づいてくることが分かり、俺たちは反射的に後ろへ飛ぶ。
――そこには、巨大な炎の精霊と呼ばれる、サラマンダーが姿を現していた。
『汝ら、何故此処へ参った』
厳かな声でこちらに語りかけてくる。どうやら問答無用で襲いかかってくる、ということは無いようだ。ならばこちらも礼儀を持って答えなければならないだろう。
「我らは、この火山地帯で行方知れずとなった勇者を探索に来たのです。貴方様の領域を犯したのであれば謝罪致します」
その言葉にサラマンダーは目を閉じ、何やら考えているようだった。すると思い出したように目を開けた。
『ああ、あの者も確か勇者と申しておった。いきなり襲いかかって来たものでな』
それを聞き、冷や汗がドッと溢れてくる。
「……では、そのような無礼を働いた勇者は……」
『うむ』
サラマンダーが頷くのを見て、俺は頭を抱えたい気持ちでいっぱいになった。
ったく何してんだよ勇者ぁ!!あんたがいねぇと話になんねえんだよ!それにサラマンダー何も悪くねえじゃん!もう供養する気もでねぇよ!
『軽く指を弾いたら吹っ飛んでいったものでな、手当をしてやった。あと数日で目覚めるだろう』
え?とセツガが顔をあげる。
「無礼者である勇者を、生かしてくれたのですか?」
するとサラマンダーはハッハッハと事も無げに笑いながら、
『あのような事で腹を立てたりせんよ。寧ろ単身で儂に挑むなど、久々に度胸の据わった男を見たわ』
と、とても愉快そうにいう。……豪胆な御仁だ。それにめっちゃ優しい。
「では、勇者は何処に?」
『あの者なら此処ぞ』
そう言うとサラマンダーは溶岩の中から無傷の勇者を取り出し、こちらへ持ってきてくれた。
勇者は金髪で美丈夫というより、美男子という方が合いそうなほど、男にしては華奢だった。
「誠にありがとうございます。なにか後日お礼を…」
そう言うとサラマンダーは「よい、儂も久々に楽しめた」と言った。どこまでも太っ腹だ。
とりあえず勇者を回収できたので、ナント公爵の元へ向かうことにした。サラマンダーにも勇者を届けた後、何か手土産を持っていこうと思った。
………その前に勇者に説教する事を心に決めて。
いやー、サボりまくってますけど、完結はさせたいと思ってますよ。
…………うん。