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30話 黒パン改造計画

「あの、すみません」


「……なんだ?」


アキヒサがカウンターから声をかけると、旦那さんが鍋から顔をあげてこちらを見る。


「この子の分のパンを、ちょっと工夫させてもらいたいんですけど」


「そりゃ構わんが。言ってくれりゃあこっちでやるぞ? パン粥でいいのか?」


こちらの申し出に旦那さんがそう告げてくるのに、アキヒサは笑みを浮かべつつ返す。


「いえ、ちょっと別のを自分で作りたいと思いまして」


これに旦那さんが気を悪くするかと心配したが、「あ? いいぞ」と案外サラッとオーケーしてくれた。

「その子の好みを知っているのは兄ちゃんだろうしな。

 見たところこの辺りのヤツじゃなさそうだし、俺もよその土地の料理に興味がある」


そう言ってくる旦那さんだが、アキヒサとてまだそんなにレイの好みを知っているわけではない。

 ともあれ、旦那さんからのゴーサインが出たのでで作ってみよう。


「レイ、ちょっとここのカウンターに座って待っててくれな」


アキヒサはレイをクッション増し増しのカウンター席に座らせると、厨房にお邪魔して、黒パン加工のための材料を鞄から取り出そうとすると。


「厨房にあるのを使え、コレは食堂で提供する食事なんだから。なにがいるんだ?」


旦那さんがそう言ってきた。


「えっと……」


いい人な旦那さんにアキヒサが用意してもらったのは、ミルクに黒パン、卵、バターと、砂糖の代わりにハチミツだ。

 この辺りでは砂糖は高価みたいだが、ハチミツでも問題ない。

 この材料で作るのはこれしかない、フレンチトーストだ。


 ――硬いパンのリメイクの王道だよね!


 作り方は、まず深さのある平らな皿に、ハチミツと卵を入れて混ぜ、それにミルクを入れて料理スキル「攪拌」を軽くかけて混ぜる。

 が、ここで見守っていた旦那さんから声が上がった。


「は? なんだ?」


攪拌作業に驚いているらしい旦那さんに、アキヒサは「僕が料理スキルを持っているように見えないのかな?」と考えた。


「料理スキルって便利ですよねホントに」


アキヒサはそう言いつつ、作業を続ける。

 この卵液にスライスした黒パンを漬け、両面ともしっかり浸ったところで、温めたフライパンにバターを溶かし、卵液がひたひたになった黒パンを両面こんがり焼いたら完成だ。


「うん、成功!」


ハチミツの甘い香りの漂う焼き立てフレンチトーストを、皿に盛ってレイの一口サイズにカットしてから、カウンターで待つレイの前に置く。


「ほらレイ、これでどうだ?」


すると既に旦那さんに貰ったらしいフォークを持って待ち構えていたレイが、フレンチトースト一欠けらをぶっ刺して口に頬張る。


 ――ハチミツをたっぷり入れたから、子どもの口に合うと思うんだけど。


 アキヒサがドキドキして待っていると、レイがモグモグごっくんをした後で一言。


「おいしい」


「そっか、よかった!」


どうやら気に入ったようである。

 ホッとするアキヒサに、旦那さんが声をかけてきた。


「なんだそのパンの調理法、初めて見たぞ」


そんなことを言われて、アキヒサはきょとんとしてしまう。


「あれ、やったことありませんか?

 卵がなくてもミルクトーストで。

 僕の故郷では、パンのちょっとお洒落な食べ方みたいな感じで知られてましたけど」


アキヒサがそう返すと、旦那さんが首を横に振る。

 これまで黒パンが子どもには食べにくいと言えば、パン粥しか出されなかった。

 なのでアキヒサはてっきり、旦那さんがこういうお菓子系のものを作らない主義なのかと思って、自分で作ってみたのだけれども。


 ――もしかして、知らない? 思いつかなった?


 日本でフレンチトーストといういうものが知られたのは、それほど昔じゃないにしても、地球規模だとパンをミルクに浸して焼くという調理法は、古代から各地でされれていたはずなのだ。

 なのに、このあたりでは全く試されていなかったのか? と不思議に思うアキヒサだったが、旦那さんは目から鱗が落ちたような顔をしていた。


「パンをふやかすのはしても、それを焼くって方法を思いつかなかった……。

 これ、ウチでも作ってみていいか?」


「もちろん、僕の独自レシピってものでもない、故郷では広く知られた食べ方でしたから」


アキヒサが頷くと、旦那さんは早速ベルちゃんの昼食用にと卵液を作り黒パンのスライスを浸している。

 子どもは甘いものは好きなはずだから、きっとベルちゃんも喜ぶだろう。

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