プロローグ
アキヒサ――戸次明久は、二十八歳のしがないサラリーマンだ。
もっと詳しく言えば、ブラック企業に勤める社畜だったりする。
毎日毎日、朝から深夜までどころか頻繁に泊まり込みで働かされ、残業代なんて雀の涙。
しかし正社員になれただけマシ、バイトや派遣で働いている連中より恵まれていると、そう思って我慢してきた。
それに親の顔も知らない孤児として施設で育った自分を、雇い入れてくれる会社なんて、他にはないんだからと。
しかし本当に今のこの生活が恵まれているのか? 最近ふとそう疑念を抱いてしまった。
高校の同級生はそろそろ結婚する連中が出てきていて、幸せそうな報告が聞こえてくる。
なのに自分ときたら、ずっと仕事しかしてこなかったので、友人と会っても趣味の話にも流行の話にも乗れない。
日々の仕事を終えて独り暮らしの家に帰れば、コンビニ弁当を食べて寝るだけの生活。
施設で料理を仕込まれてそれなりに得意であるのに、今ではそんな暇も気力もない。
そんな風だから部屋は当然掃除もしておらず、コンビニの袋が散らかる様はさながらゴミ屋敷だ。
我ながら、なんとつまらない男だろう。こんな毎日が、果たしていつまで続くのか。
そんな彼の絶望がのしかかる生活は、ある日突然、あっけなく終わりを迎えたのだけれども。