走る2
花火が上がり始めたとき、池原はペットボトルの水に口を付け、二郎はスマホを覗いたところだった。
「まずい!」
画面を一目見た二郎は突然そう叫び、走りだした。
池原も何が何だかわからないままペットボトルに蓋をして、二郎を追いかける。
「どうした!?」
「危ないから来んな!」
「修羅場?」
「違えよ! 悪いけど、一人で屋台回っといてくれ!」
そう言われたものの、池原は大柄な体型とは不釣り合いなほど足が速く、すぐに二郎に追いついてしまった。
それもそのはず。ラグビー部は伊達じゃない。
「俺を巻けると思ったか?」
にやりと笑う池原を二郎は横目で見ただけだった。
「後悔しても知らねえぞ」
※※
「ゆき!」
池原と二郎が階段を登りきって神社に辿り着くと、目に飛び込んできたのは気を失ったゆきだった。
ゆきは賽銭箱に寄りかかって、ぐったりとしていた。
山道の両傍に並ぶ灯篭の明かりに照らされていた。
「ゆき!」
「ゆき!」
二人で彼女の顔を覗き込んで名前を呼ぶと、ゆっくりと目を開けた。
意識が戻った途端、ゆきは身体を起こして、二郎の襟元を掴んだ。
「やられた! 漆黒の奴らだ!」
声は掠れているが、彼女は声の限り叫んでるのだろう。
まだ膝から下に十分には力が入らないようで、立ち上がれない様子だ。
ゆきの無事に安堵する暇もない。
「落ち着いて、ゆき」
池原が落ち着きなくゆきを宥める。
ゆきは言われた通り、二郎から両手を離し、三度ほど深く呼吸をした。
だが、両手を見てまた慌てふためいた。
「ヨーヨー! 紫織が買ってくれたヨーヨーが無い!」
それを聞いて、二郎も顔色を変えた。
「巫女が買った?」
池原は訳がわからない。
「池原はゆきを頼む!」
二郎は戸惑う池原を置いて駆け出した。