二人と初老の男
池原は未だに状況を飲み込めていなかった。
ゆきをじっと見つめているのも忍びないので、階段に腰掛けて夜空を見上げていた。
二郎やゆきが只ならぬことをしてることはわかったし、こんな苦しそうなゆきを放っておくなんて言語両断だ。
また花火が一つ上がる。
その花火に違和感があった。なんとなく明るさが足りないような。
じっと観察して違和感の正体に気づいたとき、池原は顔をしかめた。
空中に黒いもやが発生して、どんどんそれが濃くなっているのだ。
「なんだあれ……」
そのもやはゆっくりと下へ向かい、やがて二人よりも五つ下の段に集まり、真っ黒な一つの繭のようになった。
最後にはもやが四散して、中からおかしな格好の初老の男が現れた。
池原は何事かと立ち上がった。
「虫の息だのう。守護者の娘よ」
男は池原なんて見えていないような口ぶりだった。
守護者の娘ことゆきは未だ苦しそうにしていて、何も応えない。
「何なんだお前」
男は池原の質問に、反応すら返さない。
ゆきをどうするべきか、考えたくてもパニックで頭が働かない。
「わざわざ結界の外に出るからだ」
その男の言葉を受けて、ようやく池原の頭に仮説が浮かんだ。
裏を返せば、結界内に戻ればゆきの体調も良くなるということだろうか。
ゆきがよろよろと立ち上がった。だが、また倒れそうになるので、慌てて身体を支える。
「池原は神社に戻って……」
ゆきは額に冷や汗を浮かべて目も半開きの状態でそう言った。
「置いてけるわけないだろ。ラグビー部なめんなよ」
そうだ、日々の筋トレの成果、今見せずしていつ見せる。
それは試合のときだろうと内心ツッコミを入れながら、ゆきを抱きかかえて左肩に背負った。
「えっ嘘っ」
ゆきは戸惑っていたが反抗する力が無かったので、簡単に背負えた。