表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ときには泣きたい  作者: たちかぜ
3/3

ときには泣きたい Future

俺は泣かなかった。最後まで。

 高幸も泣かなかった。

 泣けない俺らは似た者同士で、

血の繋がりはなくても「兄弟」なのかもしれない。

 その知らせを聞いた時、俺は何をしていただろう。

 大学で、くだらない話で盛り上がっていた気がする。

 そこに、大学の事務室からの電話。

 ハイテンションで「もしもし~」なんて言う俺に

飛び込んできた言葉。

俺は一瞬新手のギャグかと思ってしまった。

 どうやって高幸と会い、

 どうやって病院に行ったのか覚えていない。

本人確認をし、間違いありませんと答えた自分の声を

どこか遠くで聞いたことは覚えている。


親父と・・・・・・カッコ付きお袋が死んだ。

 新婚旅行から帰ってきた後も、2人、もしくは3人、

俺も強制参加で4人…と、旅行へ行っていた。

 今回もそんな旅行中の事故死。

 あっけなさすぎて、実感が中々沸かなかった。

 俺がそうなんだから、高幸もそうだろう。

 葬式を何とか済ませた。

 俺が喪主。

 高幸と2人で訪れる弔問客に頭を下げた。

 何とか終わり、息付く間もなく、親族会議が待っていた。

 親父の父母に、親父の弟。

 高幸の方は、高幸の母の姉。

「高幸君。お外で遊ぼうか」

 ばあさんのそんな誘いを高幸は頑なに無視。

主に高幸をどうしようかという話だから、

高幸のいない場所で話したい。

それを高幸もわかっているせいか、意地でも動かない。

「オレをどうするつもりなんだよ」

 俺の横で挑戦的に言う。

 小2のセリフじゃない。

 前々から思っていたけど、歳相応な言葉じゃない。

高幸の言葉は。

「どうするって・・・・・・どうすれば高幸にとって一番良いのか皆で考えるのよ」

 猫なで声で高幸のおばに当たる人が言う。

 俺は知らなかったね。カッコ付きお袋の姉なんて。

「亮平、おまえは当分生活は変わらないだろう? 高幸君を連れて少し出かけてきなさい」

 じいさんが言う。

「嫌だ!!」

 高幸が叫んだ。


「オレ抜きで勝手に決めて、オレの幸せなんておかしいって、母さんよく言ってた。オレは亮平と暮らす!!」

 そう言って俺にしがみついた。全身で。

 今考えると、俺の幸せは? ってツッコミいれたくなるけど、

その時は驚きで何も言えなかった。

俺を含め、そこにいる全員が。

 俺は良い兄貴じゃなかった。

親同士が結婚し、兄弟になったといえど。

俺は離れて暮らしているし、呼び出しがかかったり

夏休みとか長い休暇になると帰るといった程度で、

せがまれれば相手はしたが、それも時々せず、

逃げ出したこともある。

捕まったこともあるけどね・・・・・・。

 大体この親族会議に揃っているのも、

高幸の身内(純粋に血の繋がりのある)は、

カッコ付きお袋と似ても似つかない姉だけ。

 確かじいさん生きているんだろう?

後もう一人くらい兄弟いなかったか?

 詳しいことはよく知らない。

 でも、多分このおばとかに引き取られても、

幸せじゃないんだろうな・・・・・・。

親父の身内は、俺にとっては良い人だけど、

高幸からみたらまったく赤の他人。

俺もそうだけど、短いけど一応家族で一応兄弟だったもんな。

 カッコ付きお袋の高幸をよろしくねって言葉、思い出した。

「高幸もこう言っているし、俺が面倒見るよ」

「でもあなた学生でしょう?」

 高幸のおばが言う。

「学生だけど、二十歳になったから保護者できるし」

「でも、この家からだと大学通えないのよね」

 ばあさんが心配そうに言う。

「アパートじゃ手狭だし・・・・・・。もう少し広いアパートかマンションに越すよ。高幸には、また転校ってことになるけど・・・・・・」

「それでいい!」

 大声で言うと、さらに高幸はギュッと力を入れ抱きついてきた。


あなたそれでいいの?」

 苦虫を噛み潰したような顔で、おばが言う。

はっきりとは言わないが、高幸の遺産云々使う気かって思いが

モロ見える。

「別にいいですよ。実母が遺した俺名義の金があるし、他の学生よりは持ってます」

 それに手付けたこと今までに一度もないけどな。

「足りなかったら、この家売っても良いし。というか、相続税払う為に売らなきゃいけないかもだし。弁護士もツテがある。高幸の後見人も俺がやる。無理なら弁護士と相談して最善策、考える」

「学生のあなたに何ができるって言うの?」

 嫌だね、こういう不毛な話題。

 あんた、高幸預かる気あるの?

 狙っているのはそのバックにある金だろう?

 たいしてないけど、それなりにまとまった額だしね。

「何ができるって・・・・・・今あげただけじゃ不満ですか?」

「掃除、洗濯、食事の準備…。小学校の保護者会とか家庭訪問もあるでしょ? 世間体を考えると・・・・・・」

「家事全般、俺できますよ。保護者会行こうと思えば行けるし。世間体? 健気な兄弟に同情が集まるに一票」

 親父の弟がぷっと吹き出した。

「勝手にしたらいいわっ。さすが、あの子が選んだ奴の息子よねっ」

 捨て台詞を残し、おばちゃん退場。

「亮平、編入してじいちゃんの家にくるって手もあるんだぞ」

 そうしなくとも孫2人くらい見る余裕はあると言う。

「俺も手伝うぞ。いざとなったらカミさん貸す」

 その「カミさん」は、葬式の手助けをかなりしてくれ、

今も事後処理をしてくれている。

 高幸君さえ良ければ家の子に。娘も賛成しているわ、

という言葉も聞いている。

――俺の方は本当に良い人ばっかりだ。


「じいさん、二十歳越えたら大人だろう? 色々頼るかもしれないけど、できることはなるべく自分たちでやるよ。おじさんも、ありがとう。色々と助かった」

 無理するな、辛くなったらいつでも言え、等々

色々言いながらも俺の意見を通してくれた。

 おじ以外の人が帰ったのは夜8時頃。

どうにも心配らしく、おじは泊まることにしたらしい。

「何だか信じられないな」

 おじの言葉に、俺も高幸も頷く。

そんな高幸の頭をなで、おじは訊いてきた。

「義姉さんが亡くなった時も、お前は泣かなかった。今回も。平気か? 泣ける時に泣けよ。じゃないと高幸も泣けない」

「俺が泣かないと、高幸も泣けないって変だよ」

「・・・・・・無理矢理にでもあの時泣かしておくべきだったかな」

 おじの答えは、答えになっていなかった。

 

 寝るために各自部屋に別れ、

しばらくベッドでボーっとしていると高幸が入ってきた。

「これ、母さんから」

 白い紙を受け取る。

 そこには、高幸の実の父親のことから、

今までの家庭環境のことがびっしりと書かれていた。

 俺は、母親を幼稚園の時亡くした。

 記憶は曖昧だが、家族仲は良かった。

今でも母方の実家と付き合いがある。

「・・・・・・これ、いつ受け取った?」

「一年前くらい。母さん、酔ったりすると、こういうの書いて、いざとなったら……ってくれるんだ。オレには読むなって」

「読んだことないのか?」

「あるよ」

 無表情で答える高幸は、とても小学生とは思えない。

「気になって。母さん・・・・・・…………」

「泣いてもいいんだぜ」


「亮平、泣いてない」

 おいおい、まさか俺が泣かなきゃ泣かないっていうつもりか?

おじさん、高幸の前で余計なこと言ってくれたよな・・・・・・。

「俺はな、心ン中で泣いてるよ

「幼稚園の時も?」

「あン時は理解していなかったな。死んでからもしばらくは母さんがいる気してたし」

「オレ、わかてるけど、母さんも父さんもいないってわかってるけど・・・・・・」

 我慢が当たり前の生活だったんだよな。

 実父の暴力、身内の冷たさ、

それが当たり前だったんだよな・・・・・・。

「俺は今、ぽっかり穴が開いた気分だよ。父一人、母親2人亡くしたんだからな・・・・・・」

 祖父母やおじがいなかったら、天涯孤独。

「オレの母さん、嫌いじゃなかった?」

「親父にはもったいないくらい良い人だったよ。嫌いだったら母2人なんて言わないね」

 鼻の奥がツンとした。

「母さん」とは呼べなかったけど、

明るくて元気で父子家庭にはなかった華やかさがあった。

 なァ、事故なんて嘘だろう?

タチの悪い冗談を二人でしているだけだよな?

心臓に悪ィよ。

早く玄関から、土産手にいっぱい持って帰ってこいよ・・・・・・。

 アツイもんが込み上げてきた。

「わりっ」

 泣くつもりはなかったのに、目元がアツい。

 鼻をすする。

高幸がティッシュを取ってくれる。

 どっちが年上だよ、まったく。

「オレ嫌だよ。母さんの手紙なんて捨てれば良かったのに・・・・・・」

 高幸も顔をグチャグチャにして泣き出した。


 俺たち親子にしては年齢差が階段みたいだったけど

俺は離れて暮らしていたけど、

下手な家族よりは仲良かったよな・・・・・・。

 大泣きって程じゃないけど、

数分2人で鼻をすすりあった。

「ま、これからもよろしくな」

「うん。オレご飯の支度とかまだできないけどやるし、なるべく亮平に迷惑かけないようにするから」

「バーカ」

 小2のセリフかよ。ったく。

「なんでバカなんだよっ」

「小ガキ生はガキだから余計な心配しなくていいの。生活関連に関しては、俺ほぼ完璧よ。食事なんて一人分も二人分も変わんねェし。勉強だって小ガキ生くらいならみてやれるよ」

 俺、こうしてみるとマメだね、色々と。

「小ガキ生って言うなっ、前から言ってるだろう!」

 うん、その怒っている顔、ガキっぽくっていいぞ。

ますます怒るから言わないけどな。

「はいはい。それじゃとりあえず、明日俺の母親の実家に挨拶、一緒に行くか。死んで15年経ってンのに正月とか盆には必ず行ったり来たりしていた所。会ったことあるだろう? 俺よりおまえの方を猫かわいがりしてた、じいさんとばあさん」

 なにしろ、俺の歳の離れた弟で、

血の繋がりはないのに

娘がいた頃の懐かしい気持ちを思い出すらしいから。<了>



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ