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ときには泣きたい  作者: たちかぜ
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ときには泣きたい

中にリュックを背負い、そっと家から脱出した。

そのはずなのに数メートルも行かないうちに

「おい!」と声がする。

走り出せばいいものの、

ギクリと立ち止まった俺の前に高幸たかゆき

タタタと回り込む。

「オレ一人で留守番させる気かよ」

「いや・・・・・・だって、ほら、ね」

 理由にも何もなっていないことを言っている俺を

弟高幸はじっと睨みつけてくる。

 弟・・・・・・といっても血の繋がりはない。

最近親父が籍を入れた女性の子ども。

そんなわけで兄弟になり、

俺に懐いてくれているのは嬉しいけれど、

俺・大学1年、弟・小学1年。

奴のパワーには正直ついていけない。

よく我慢してるよ、と事情を知っている奴はいうけど、

親父の結婚相手が俺より年上で

一応何とか(呼ばないだろうけれど)

母さんと呼べそうな歳なのでそれが救いになっている。

「どうしても出かけるんなら、オレも行くからなっ!!」

 一人で留守番できる奴なのに・・・・・・。

しかも、俺これからデートなんだけれど・・・・・・。

「高幸、友達と遊ぶ方が楽しいだろう?」

「へっ、そんなこと言ってオレ追い返そうと思ってんだろ? オレはなー、母さんと父さんに頼まれたんだゾ。亮平見張ってろって」

常識がないのか親父と高幸の母は、新婚旅行に行き

その間高幸を俺の下宿先に送り込んできたのだ。

本当に何考えてんだ。まったく。

 彼女に断りの電話をいれようかと思ったが、

つい最近も同じことがあったと思い出し・・・・・・行くことにした。

「わかったよ。・・・・・・って、おい! 何勝手に歩いてるんだよ」

「こうしないと、亮平オレのこと置いていくだろ? 早く鍵閉めてきなよ」

 小1のクセに頭が良い。

一緒にアパートまでついて来たら、

そのままダッシュして置いて行ってやろうと思ったのに。

俺は観念した。


亮平……誰?」

 高幸を見て、予想通りの美里の反応。

「……親戚の子ども。実は面倒みろって頼まれてさ」

 弟っていうのは気が引けて、とっさに嘘を付く。

高幸はじろりと俺を見たが何も言わなかった。

高幸、感謝。

「ふぅん。しょうがないか。ボク、名前は?」

「・…………高幸」

 5秒後に答え。

頼む、お前がクソ生意気なのはわかっている。

が、少しは協力してくれ!

 

 ファミレスへ行って、ここでももう最悪。

 やっぱり連れてくるんじゃなかったよ……。

「若い夫婦ねって、さっきすれ違った人に言われちゃった。なんか、嬉しいな」

 美里のそんなセリフに、

こっちまで嬉しいような照れ臭い気分になる。

 高幸が息子ということになると、

かなり若い父親・・・・・・というのか、犯罪になってしまうが。

 高幸もにっこり笑う。ほのぼのとした光景だろうね。

 俺もそうだと思ったんだよ。ここまでは。

「お姉さん、料理できる?」

「何、なんか作ってほしいの?」

「冗談。あんたができないってガキでもわかる。というか、父さん。よくこんな何もできなさそうな人と付き合ってるね。正気?」

 一瞬キョトーンとした後、バシーンと巨大な一発を

俺の頬に美里はお見舞いしてくれた。

「亮平、あんた最低! しかも子どもいるのに私と付き合ってたなんて……さよなら!!」

 え? 何、何が起きた?

おい、高幸、平然とジュース飲んでいるなよ・・・・・・。

「あの女、バカ。オレと亮平が親子なわけないじゃん」

「あの……な。何考えてんだよ!」

 視線に耐えられなくて、ほとんど何も食わず

ファミレスの外に高幸をひっぱりだして訊いた。

「亮平、人見る目なさすぎ。自分が料理できるからって、女の人に求めないのは違うぞ。それに香水つけすぎだよ、あいつ」

「あいつじゃなくて、美里」

 そう言いながら、携帯に電話をかけ釈明しようとしたら

「二度とかけてくんな、バーカ」と言ってきれた・・・・・・。

高幸にも聞こえたようで、ほらなと得意顔。

――――頼む、親父。そしてカッコ付きお袋。

 早く帰って来て、こいつを連れ帰ってくれ……。

 俺は人生で初めて真剣に願った。<了>

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