二人の女
大学生 新開茜 十一月二三日
私、新開茜は車の中で、先輩に会うのも久しぶりだとぼんやり考えた。
無事に大学を卒業できることがほぼ確定し、会社の内定が決定。ということで、就職祝いを兼ねての東京旅行を、わざわざ先輩が企画してくれた。先輩と私ともう一人同級生の女三人で三泊四日、東京に繰り出す。
先輩の家が近づく。木村という表札を見つけ、名字が変わっていることを改めて実感する。先輩が大学を卒業してすぐに結婚した時は驚いたものだ。相手は年上の会社員で、結婚式に参加したときに姿を見ただけだが、人の良さそうな感じだった。二十後半にして一軒家を構えているのは、いい会社に勤めている優秀な人物なのではないかと想像する。
車を止めるような所がないので、近くにあったコンビニに停める。朝早いからだろうか、一台も車は止まっていない。寒さに震える手を擦りながら、急いで家へと向かう。
インターホンを押して数分後、玄関の扉が勢いよく開き、眠そうな目をこすりながら先輩が現れた。
「ごめん、まだ準備できてないんだ……。家の中ちょっとすごい状態だけど、とりあえず中に入って」
中に入ると、いつもの鞄が置かれている。私は服や鞄にはさほど詳しくはないが、お高い鞄であることは分かる。着替えなどは全て向こうのホテルに送ってあるので、おそらく荷物はこれだけだろう。
「準備すぐ終わらせるから、ごめんけど玄関で待っていてくれるかな」
先輩は玄関横の階段を上っていった。玄関からまっすぐ先のリビングへの扉が開けっ放しになっている。きれいに掃除されているのが遠目でも分かった。すごい状態と言っていたが、見たところいつも通りきれいである。むしろ、下駄箱にあった変な置物がなくなりすっきりしているように思える。さらに、何だかいいにおいまでする。
数十秒後慌てた様子で先輩は二階から降りてきた。
「ごめん、玄関なんかで待たせちゃって」
「いえ、大丈夫ですよ。私もちょっと早く来すぎたなと思ってたんで。まだ眠そうですけど大丈夫ですか」
「うっ、いや、まぁ、それは……。遠足前に緊張で眠れなくなるあれで」
「先輩は小学生ですか」
全く可愛い人である。なんだか抜けてはいるが、憎めない。
「もう、じゃあ、さっさと行こう。朝食は、向こうで買って食べることにするわ」
先輩は外に私を押し出す。
「はいはい、ちゃんと戸締まりとかもしてくださいね」
先輩がしっかりと戸締まりをしていることを確認し、急ぐ時間でもないが、小走りで車へと向かう。
福岡空港に到着した。時間には余裕がある。もう一人の旅行の同行人は相田祥子。私の中学時代からの友達で、大学も一緒の、いわゆる腐れ縁だ。
今回の旅行は私と先輩だけでなく、祥子も誘おうと先輩が提案した。
「祥ちゃんは、まだみたいね……」
車に少し酔ったのだろう。弱々しく話した。先輩は祥子のことを祥ちゃんと呼ぶが、私はどうにも慣れない。
「ちょっと予定より早く来ちゃいましたからね。先輩、何か忘れ物してないですか?」
何かと抜けている先輩に一応尋ねる。
「ん……。多分、大丈夫。携帯もあるし、券もあるし……」
先輩はごそごそと鞄をあさる。
「あっ……。ごめん、茜ちゃんの車に財布忘れたみたいだから、ちょっと取りに行ってきていいかな。」
「いいですよ。先輩。鍵はこれです」
「あぁ、うん。ありがと。急いで取ってくるね」
先輩は駐車場に急ぎ足で向かった。車ではなく、家に忘れていたというオチでなければ良いが。そんな先輩と入れ違いで祥子がこちらに気がついてやって来た。
「茜。お久しぶり。先輩も一緒じゃなかったの」
「先輩と一緒に来たよ」
祥子は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにうれしそうに顔をほころばせた。
「先輩はいまどこ?」
「今は車に忘れ物取りに行ってる」
「そうなんだ……。家に忘れたという事でなければいいんだけど」
そうでないことを願いつつ二人で先輩を待つ。数分後、先輩は焦った様子で走って戻って来た。
「はぁ、はあ、ごめん。ちょっと道に迷ってた」
「忘れ物はちゃんと車にあったんですか」
「あったよ」
先輩は当たり前のように答える。杞憂だったようだ。
「さぁ、行きましょうか」
祥子が早く行きたそうに言った。
大学生 新開茜 十一月二六日
楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、福岡へ戻る日となっていた。
思わずため息をつく。これから先は会社勤めが待っている。今後、このメンバーで旅行は行けないだろう。
「どうしたの、茜。ため息なんかついて」
「いや、これから会社勤めが始まると考えると……色々と複雑な気持ちに」
まだまだ学生気分が抜け切れていない。いや、まだ一応学生だけれども。
「茜ちゃんなら、何とかなるわよ。それに、結婚したとしてもいろいろと大変よ」
飛び立つ前から何故か酔いそうになっている先輩が、弱々しく言った。
「今の先輩に言われても説得力ないですよ。相変わらず、乗り物弱いですね。新幹線の方が良かったんじゃないですか」
この人は飛行機や船が嫌で新婚旅行も国内で済ませるような人である。
「人生で一度くらい飛行機に乗ってみたくてね。……この旅行を逃したら、もう乗る機会はないだろうし」
その一度を新婚旅行で使ってあげれば良かったのにと思うが、新婚旅行を台無しにはしたくなかったのだろう。
「ごめんね。また、迷惑かける……」
そんな時、離陸を知らせるアナウンスが聞こえた。二時間後には福岡の地に立っているだろう。
午後七時ごろ、福岡にやっと帰ってきたが、先輩はそれどころではないようだ。
「ごめんね。本当に」
今車に乗ったら確実に吐くという先輩を車に乗せるわけにもいけなので、喫茶店で座って休憩する。祥子は用事があるとかで帰ってしまった。
「もう大丈夫。これ以上迷惑かけるわけにはいかないし。」
数分後、少し顔色が良くなった先輩はそう言った。そんな先輩の言葉を信じて、車に乗せて家まで送ることにする。
あまり車の掃除はしたことがない。というよりも面倒くさいのだが、吐かれたら掃除が大変そうだなといつも以上に安全運転を心がけた。
先輩の家はわりと福岡空港に近いおかげで、先輩が完全にダウンする前に家にたどり着いた。
「先輩、家に着きましたよ」
「茜ちゃん、今日はありがと。……ちょっと家上がってく?智史はまだいないと思うけど」
智史とは先輩の夫のことだ。
「そうですね。先輩が大丈夫なら」
特に予定もないので、断る理由もない。車を駐車場に停め、玄関へと向かう。
「さて、鍵は……と」
鍵を取り出し、ガチャガチャと回す。
「あれ……開いてる。智史戻って来てるのかな」
先輩はゆっくりと扉を開けた。返事も物音の一つもない。明かりを付けると、リビングの扉のところで人が倒れているのが見えた
「智史? どうしたの」
先輩は急いで靴を脱いで、その人物に駆け寄る。そして、手を触れた瞬間、悲鳴をあげ尻餅をついたまま動かない。私も急いで靴を脱ぎ近寄る。上体をねじったようなぐにゃりとした倒れ方をした小柄な男だった。
「先輩は、救急車を一応呼んで。私は警察に連絡するから」
私は急いで一一〇番通報した。
刑事 中村伸也|<なかむらしんや> 十月二十六日
事件現場は閑静な住宅街の一角の家である。玄関に入って正面に見えるリビングで死体は発見された。
被害者は、木村智史。二八歳。福岡のIT系の企業の技術職員である。
司法解剖はまだ行われていないが、死後硬直が完全にとけていることから、死後二日以上経過しているのは確実だと思われる。
被害者の部屋がひどく荒らされており、何かを探していたと思われる。また、被害者の部屋のみが荒らされていたことや、扉や窓に無理矢理こじ開けた後がないことから、被害者の知り合いが犯人である可能性が高い。
被害者は、二十二日から大阪に出張しており、同僚に対して大阪の観光をしてから、二十四日の昼に新幹線で帰ると証言している。二十三日の午後七時過ぎに同僚と別れ、その後の足取りが不明。しかし、二四日の夜、同僚にメールの返信をしており、その時は生きていたと思われる。
殺害方法は、鈍器のような物による頭部の殴打。凶器はまだ見つかっていない。また、被害者の財布や携帯も見つかっていない。
玄関から短い廊下のまっすぐ進むとある扉の向こう側に倒れていた。扉から入って正面の壁は一面窓となっており、死体発見時はカーテンが閉められていた。右手は一面本棚となっており被害者とその妻の趣味の本がぎっしりと詰まっている。また、本棚の中央にテレビがはめ込まれ、端っこに電話が備え付けられている。左手は、ダイニングキッチンとなっている。扉側の壁には、扉の上の両側にそれぞれ、作り付けの丈夫そうな棚が付けられている。だが、上には何も乗っていなかった。最初上に乗っている物が盗られたのではないかと思われたが、最初から何も乗っていなかったそうだ。
被害者と妻の寝室と夫の仕事部屋はともに二階にあり、階段は玄関入ってすぐ左手にある。
今回の事件の不明な点をいくつかあげると、犯人の目的がはっきりしないという点、被害者がいつ殺されたのかはっきりしていない点、被害者の携帯と利用された凶器が見つかっていない点などこれらがあげられる。
さて、どうしたものか。
被害者の妻である高木文美<たかぎふみ>に話を聞きたいところではあるが、ショックで話を聞ける状態ではなかった。一緒に死体を発見した彼女の後輩である新開茜の家に泊まることにしているようだ。早い内に話を聞きに行かなければいけない。
とりあえず、被害者の周辺を洗おうか。
刑事 中村伸也 十一月二十七日
福岡某所で女性の死体が発見された。
「凶器は、この金属製の置物です」
写真を見たところモチーフはさっぱり分からない。結構な重量があるとのことだ。女性の力でも当てることができれば殺すことは簡単だろう。だが、何故私が呼ばれたのだろうか。
「この凶器には二人分の血が付いているようなんです」
「二人?」
木村智史殺害の凶器が見つかっていないことを思い出す。
「被害者ともう一人の血のDNAは木村智史のものと一致しました」
「そうか、つまり連続殺人か」
凶器が見つかっているということは、これ以上犯行は起こさないという意思表示だろうか。
「それで、被害者の身元は分かったのか」
「遺留品の学生証より被害者の名前は相田祥子という大学生。これから、家族に確認を取ってもらうところです」
どういうことだ。
相田祥子と木村智史の二人が同じ凶器で殺された。つまり、二つの事件の犯人は同じだろう。二人に関わりがある人物と言うことか。相田祥子、新開茜、木村文美の三人で東京旅行に行っていたという話を思い出す。
木村文美……。しかし、彼女には完璧なアリバイがある。後輩の新開茜の証言で、十一月二十三日には、死体がなかったことが分かっている。そして、死体が発見される昨日まで東京に行っていた。
それ以前の問題もある。被害者本人は午後七時頃大阪で、同僚と別れている。そして、二十四日の夜にメールの返信をしている。もちろん、犯人が送ったという可能性もある。携帯も見つかっていない。
しかし、だとすると被害者は戻る日に関して嘘をついていたことになる。
まだ、なにも解決していない。とにかく、木村文美に話を聞かなければいけない。私は新開茜の家へと向かうことにした。
車の運転中、携帯がなった。思わず舌打ちをうつ。急ぎたいところだが、また新しい情報かも知れない。近くのコンビニに車を停め、電話に出る。
「なんだ。何か新しいことでも分かったか」
「単刀直入に言います。木村文美がいなくなりました」
私は耳を疑った。電話を切って、ため息をついた。
大学生 新開茜 十一月二十六日
先輩はまともに話すことができていなかった。必死に警察の質問に答えようとしているが、うまく伝えることができない。発言は支離滅裂で、時折こぼれる涙で言葉が詰まる。そんな先輩は、今日の所は私の実家に泊めることになった。
実家に到着し、家にいない親に電話で事情を伝える。明日の昼前には戻ってくるそうだ。
私は、先輩にかけるべき言葉を探した。しかし、思いつかない。私たちは、ただ黙って過ごした。
「ごめん、浴室はどこかな」
そんな沈黙を破ったのは先輩だった。
「あっ、こっちです」
先輩を浴室に案内するが、それ以上会話は続かない。気づけば、十一時を過ぎようとしていた。お客様用の布団をとりだし、一緒の部屋で寝る。私は一人で眠ることが怖かったのだ。
十二時頃、玄関の音で目を覚ました。ふと先輩の眠っている方を見ると、誰もいない。もしかしてと思い、急いで玄関へと向かう。
先輩の靴が消えていた。
私も急いで、外へ飛び出した。
しかし見つけられず、家で待つことにしたが、結局戻ってくることはなかった。
主婦 木村文美 十一月二十二日
明日は待ちに待った東京旅行。眠ろうにも緊張で眠れない。また、茜に小学生みたいですねと笑われてしまう。
夜の十時頃。いつもは寝ている時間だ。ホットミルクでも飲もうかと暗闇の中一階に降り、キッチンへと向かう。リビングに入り明かりをつけようと、スイッチに手を伸ばす。
そんな時だった。玄関が開く音がした。
最初は智史が帰ってきたのかと思ってが、今日から大阪に行っているはずである。不審に思っているとその人物は、音が鳴らないようにゆっくりと二階に上って行った。私は下駄箱に置いてある置物をとっさに手に取って上へと向かう。
その人物はまっすぐ寝室へと入っていった。私は勇気を振り絞り、中に入る。
「誰ですか! 警察呼びますよ!」
暗闇の中、覆面を被ったその人物はこちらに気づいてゆっくりと歩いてくる。手に何かを持っているようだ。思わず後ずさりし、一階にある電話へと向かう。
あまりの恐怖に悲鳴を上げることも忘れ、電話へと向かう。電話にたどり着き、受話器を手に取ろうとした時、肩をつかまれた。とっさに振った金属製の置物が何かに当たったような感触とにぶい音とともに手は離された。
急いで、明かりのスイッチをつける。
そこにはナイフを持った小柄な男が頭から血を流し倒れていた。見た瞬間、いやな想像が頭をよぎる。いや、まさかそんなはずは。
覆面をはぎとると、そこには見慣れた夫の顔があった。
救急車を呼べば助かっていたかもしれない。
だが、私は呼ばなかった。彼のポケットに入った最新式のiPhoneの指紋認証をまだ生暖かい死体の指を使って開く。
「やっぱり」
彼は頻繁にメールのやり取りを行う親しい女性がいたようだ。その女性と結婚の約束までしている。
結婚生活はいつからか冷えきっていた。だが、離婚だけはしたくなかった。今のこの生活を捨てたくはなかったし、第一に私は彼を愛していた。
だが、もう愛も未練も存在しない。
浮気相手はおそらく誰か分かっている。後輩の友達である祥子だ。だが、確定ではない。私が明日現れたときに驚いた表情であればクロだ。
「この死体はどうしようかしら」
死体を眺めながらゆっくりと考え始めた。
主婦 木村文美 十一月二十三日
今日死体がなかった場所に、戻って来た時に死体が現れれば、私は疑われない。私には東京に行っているという完璧なアリバイが存在することになるからだ。家の鍵も私が開いてたように演技すれば、私以外の誰かが殺したと誰もが思うだろう。
朝八時。死体の死後硬直が進んでいることを確認する。彼の身長が低いことに今は感謝しておこう。時間をかけテーブルや椅子を駆使し持ち上げ、扉の上をまたいで彼が作った棚の上に置く。
茜がやってくる予定の時間は九時半頃だったか。彼女が来る前に一眠りしておきたかったのだが。
血の付いた服や、彼の覆面ははさみで切り刻んで袋に入れておいた。これらは東京で処理すればいい。
問題は凶器だ。東京まで持って行くわけにも行かない。まだ、茜が来るまで二十……いや、十五分ある。
そんな時、チャイムの音が鳴った。凶器をとっさに自分の鞄に入れる。もしかして、茜か。ちょっと早すぎないか。頭の中で自分のやるべき事をまとめる。リビングの前の扉は開いて、死体がないという事をしっかりと見せておかなければいけない。そして、私はいつも通りにすればいい。
私は、勢いよく扉を開いた。
まずいことになった。茜の車で揺られながら、必死に解決策を考える。
凶器が鞄の中に入れっぱなしだ。東京まで持って行って処分したいが、飛行機に
乗る前に見つかってしまう。どこか、だれにも見つからない場所はないだろうか。思わず、茜の車を見渡す。
そういえば、この旅行の間は駐車場に停めておくことになる。その間なら絶対誰にも見つからない。見たところ、掃除はほとんどされていない。福岡に戻ってきてからすぐ見つかるという事もないだろう。隙を見て、回収しに来ればいい。警察が茜の車を捜査することがあったりすれば怖いが、茜と彼が会ったことは私の知る限りない。茜が疑われることはないだろう。
駅に到着し、忘れ物があるから取りに行くといって鍵を受け取る。そして、車に凶器を隠しに行った。隠すとは言っても、ちょっと周りから見えなければいい。
隠し終わって、戻ってみると祥子も到着していた。さぁ、どうだ。
「さぁ、行きましょうか」
彼女はあっさりそう言った。
主婦 木村文美 十一月二十七日
相田祥子では、なかったのだろうか。茜の家へと向かう車の中で考える。相手の女は私の知らない女なのだろうか。私を見ても、顔色一つ変えなかったことが思い出される。
今日の十二時待ってる。
相手の女に待ち合わせのメールを自分から閉じない限りロック画面にならないように設定した彼の携帯から送っておいた。場所は、新開茜の家の近くを指定した。しかしこれは、賭だった。女は来るだろうか。
十二時までとても長く感じた。車の鍵の場所を把握し、あとは向かうだけだ。十一時すぎ茜が眠っていることを確認する。
盗った鍵を使って、車から凶器を取り出す。寒さなんて気にならなかった。急いで、待ち合わせの場所へと向かう。
その場所には、もうすでに誰かが立っていた。
「祥子……やっぱり、あなただったのね」
私は不敵な笑みを浮かべた。私に気づき、彼女はきょろきょろと辺りを見回した。
「……智史はどうしたんです?」
「あなたには、連絡が行っていないのかしら。まぁ、好都合だったわ」
血がこびりついた凶器を掲げる。
「私が殺したわ」
動くことができず、ただ立ち尽くす彼女を私は殺した。
これから、どうしようか。もう、目的は果たした。帰る場所も私にはない。こんな時に思い浮かぶ顔は、私が殺した男の顔であった。
あぁ、そうか。
私はまだ、彼のことを……。
刑事 中村伸也 十一月二十七日
木村文美は自殺した。血で汚れた彼女の服からは、相田祥子の血も検出された。相田祥子を殺した後、自殺したのだろう。
鑑識によると、普通は苦痛でゆがむはずの顔がきれいな顔であったという。
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