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刻印のオルク 継承の銀蝋  作者: 秋風才夏
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蠢く亡者

元々バルクの街では、絶えず争いの火種はあった。


帝国の食料供給を満たす為に、この帝国屈指の穀物庫には、各地の戦争や侵略で捕らえた大量の奴隷が労働力として使役されていたのだ。

その比率は、今や街に駐屯している帝国兵や領主私兵を合わせた守備兵力の半分以上に膨らんでいる。


さらに歴史的な弊害というのもあった。

バルクの街は半世紀以上前は帝国領ではなく、メルナ王国の領土の一部だったということだ。


半世紀前に制定されたオアタルタン協定。

メルナ王国がガイアナ帝国へと外交的に属国化された一連の外交協定である。


この際メルナ王国は国家自治や、宗主国へ納める税金の大幅な緩和という譲歩が認められたが、その見返りとして、帝国はこの重要拠点をメルナから切り取り自身へ編入したのだった。


つまりバルクの街には民族的にガイアナ民族ではなくメルナ民族の比率が高く、現に農奴のほとんどはメルナ民族で構成されている。


オルクはその軋轢と憎悪、さらに正統性を利用すると言っていた。

簡単に言えば彼等を焚き付けて騒ぎを起こそうと言うのだが、そう簡単にいくのかどうか疑問だった。


「どうやって煽動するんだ?暴動なんて今までだってたびたびあったが、すぐに鎮圧されてたじゃないか」


その疑問にオルクは幼い顔に似合わない冷笑を浮かべたのを思い出す。なんて悪い顔をするようになったのだろうかとライアンは今さらながら冷や汗をかいた。


「今までとは状況が違うからね。旧領を取り戻しにかつての君主が街を包囲しにくるんだ。メルナ民族からしたらどう思うかな?さらに言えば帝国領になってから農奴の生活はよくなったのかということ」


オルクは大げさに首を降る。


「答えは否だ。毎年納税の負担は増えているし、奴隷も大量に増えている。彼等の報酬は増えるどころか減っているんだ。そこに領主が私腹を肥やす為に、帝国へ献上する品々を横流ししていたのが発覚したら?今までの苦労を貴族達が不当に搾取していたと思うんじゃないかな」


「横流しは主人がやってる事だろう。領主もやっていたのか?」


ライアンの疑問は益々大きくなる。先程まで話していた会話と明らかに矛盾があるからだ。


「いや、僕の知る限りバルク領主は真面目な人物だし、帝国の忠誠心も高いからそんな不誠実な行為はしないんじゃないかな」


訳がわからなくなってきた。領主が横流ししていたとオルクは言ったばかりだったが、その件すら即座に否定するのだ。


領主は横流しをしていなかったが、実は加担していて?えーと、とライアンは眉間にシワを寄せ俯く。頭の上にはクエスチョンマークが映っているようだった。


オルクはそんなライアンを見ながらまるで我が子を見るように優しく微笑む。


「ライアンは本当に正直だね。そんな所も好きだよ。つまり…本当と嘘を混ぜるのさ」


オルクは指先をくるくると回す。


「横流しは主人がやっていた本当の行為だが、それを領主がやっていたという嘘を混ぜるてことかな」


あぁそういう事かとライアンはやっと納得し、頭の上にあったマークも綺麗に消えた。それと同時に、そんなさらっと好きとか言うなよと呟きまた俯いてしまった。

オルクは気にせず話しを進める。


「幸い主人は1つ過ちをしていて、足のついてしまうご禁制の品をたまに商人に売っていたんだ。かなりの利益がでるから、欲がでたんだろうね。帝国領内ではそれは売れないから、商人の蔵にそれはまだあると思うよ」


ご禁制の品というのは帝国本家しか扱うことが許されていない特別な品のことをいう。


バルクの街では様々な作物がとれるが、その作物の中にライガ草という作物があった。

このライガ草は毒草として長年扱われてきたが、十数年前より特殊な加工法が開発され、一躍貴族達の注目を集めた。


加工し乾燥させたライガ草を吸引すると、精神が向上し高揚感や多幸感を覚える。さらに強い依存作用もあった。つまり麻薬である。


帝国もこの薬物の危険性をわかっており、領内での取引を禁じ、ご禁制に指定しているのだ。

そして帝国本家ではこれを海外に販売し、莫大な利益を手にしていた。


今までのやり取りをライアンは思いだしながら、自分が理解できるようにそれを言葉へと変換していく。


「つまり横流しの噂話を街中に流し、農奴を焚き付ける。焚き付けられた農奴が商人の蔵を暴き、そしてあるはずないご禁制の品が見つかる…それが領主が私欲の為に流していたとなり、農奴は今までの悪政と不正に怒り、さらに自分達の民族を解放しにメルナがやってくるんだ。もうこれは噂話じゃ…」


「それは噂話ではなくなるね。勿論領主は関係ないが、そんな事も関係なくなるさ。”あるはずのないものが、あるはずのない場所から見つかるんだから” 」


ストーリーは続いた。

この農奴の騒ぎに誘発されてほどなく街の過半数を占める奴隷達も騒ぎをおこしだす。間違いなく領主はそれを武力で制圧しようとするが、現在の守備兵力ではそれを上回る数の農奴と奴隷の暴動をメルナがくるまで鎮圧するのは困難だろう。逆に火に油を注ぐ形となる。


そしてそこにメルナ軍が街を包囲しだす。

メルナ軍は包囲戦は長引かせないはずだとオルクは言っていた。


確かに逃走するとなれば、包囲されている街からでるのは無理だろう。間違いなく蟻一匹でられない。だが包囲は長引ないとオルクは断言した。


「大量に運び入れられてる物資は籠城戦用だろうね。守備兵が少ないと言ってもバルクの街は堅牢だ。メルナ軍もそれはわかってると思うよ。だけどもたもたしていたら帝国の精鋭が援軍として到着する。メルナもそうなる前に陥落させようと無理をしても強行してくるはずだ」


その強行を成功させる為の暴動だと言う。

外から堅牢なバルクの街も、内からの暴動と外からの強行軍、2つを相手するのは難しい。


オルクの狙いは市街地戦だった。

門が陥落してメルナ軍がバルクの街に津波のようになだれ込んだ時が、”メルナ軍の包囲が弱まり、帝国兵が暴動勢力に構ってられなくなる時”だと説明していた。


計画の全貌を話し終えた後、オルクはさらにあと1つだけ確認してほしことがあるとライアンに言ってきた。

確認してほしいものは旧市街地にあるらしいのだが、オルクは貴族邸宅からは離れられないのでこれもライアンのやるべき事となった。


この逃走に一番重要な事、それは市街地戦が始まった後に戦いに巻き込まれず、街の外へと見つからないように脱出できる経路の確認の事だった。



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