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Wanderer’s Steel Heart  作者: 蒼波
一章 放浪者達の夜明け
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酒場の妖精

明け方、依頼内容のZ.A.K.O.5機の始末を終えた俺は、作戦領域から東南東へ200km以上、マハトガの推進器を吹かせて3時間近くの道程を越えた。

目の前には多くの人でごった返し、ストレングス・ハートの姿も見える、大きな都に辿り着いた。


始都・ミルフェイス。

この広大な世界を旅する放浪者(ワンダラー)達の拠点であり、この世界で最も大きいとされる都市。伝説の存在にして、この世界の全てに触れたという原初の(プリミティブ)放浪者(ワンダラー)の生誕の地。偉大な存在、伝説の存在と呼ばれているが、彼を称えるようなモニュメント等の類は無い。書物にもその存在が記されて居るが、世界情勢すら捻じ曲げかねない出鱈目な強さを誇ったが故に、相対した者は皆、例外なくこの世を去ったという。

ミルフェイスの中心には鐘楼があり、放浪者(ワンダラー)となった者の旅への出立を、新たな門出を祝うように鳴り響く。依頼人はこの付近にある「ユニス酒場」という酒場を合流場所として指定していたが、このままマハトガに乗っていく訳にも行かないので、一度、共有地下格納設備にハンガーのレンタル代を払って、マハトガをハンガーに格納した後、合流場所に向かった。


妖精の翅の様な造形のネオンサインが目を引く、やや年季が入った木造のサルーン。男達の笑い声とその賑やかさが外からも伝わってくる。常連客らしき数人の男女が談笑しながら、ウェスタン扉の奥へ吸い込まれていく。


「―――変わらず、賑やかだな。」


俺は、そのまま彼らの後に続いた。この酒場は豪快な性格の店主とハーフエルフの女将が20年間夫婦で切り盛りし、サービスの良さから、この街でもかなり有名な酒場だ。


店内は多くの人が酒を酌み交わしており、縦置きした樽で何やら賭けをしている者、酒の飲み比べをしている者、商談をしている者…

店の奥に見えるカウンターには店主の白くきめ細やかな髪をなびかせる碧眼の麗人がブラウンのコートを羽織った男に酒を振る舞っていた。この男が依頼人だ。


俺は一席開けて男の横に座りカウンターに腕をつくと、オーダーを伝える。


「女将さん、コープスリバイバーをベルモット強めで。」


「お客さん、昼間から強いのキメちゃって大丈夫かい?そんで…何やら辛気臭いけど?」


「ああ、明け方まで依頼人(クライアント)からの仕事で疲れてて。慰めが必要なのさ。」


「無理はいけないよ。まだ若いんだしさ。」


「それを俺よりも長生きしてるハーフエルフの美人さんが言うかい…」


ハッハッハ!と笑うと女将は奥にいる客の方へ行った。

それを見送るとコートの男が訊ねてきた。


「仕事は?」


「Z.A.K.O.5機の始末だろ?終わったよ。残骸の一つは牽引して途中のジャンク屋に売っ払ったが、残骸の処分についての特記事項もない。ならジャンクの掃除は契約違反じゃない、だろ?」


「…ふん。駄賃稼ぎについてまで煩く口出す気はない。掃除が済んだのなら構わん。」


男はそう言い、グラスに注がれたハイボールを飲むと、やや重みのある古ぼけた袋を差し出した。


俺はそれを受け取り、中身を確認する。

金貨が3枚、銀貨20数枚。仕事内容の割には、やけに報酬が弾んでいる。多くても金貨一枚と銀貨5枚か、酷ければ銀貨10枚くらいで収支が少しプラスに傾く程度が相場だと思うのだが。


「あんた、やけに報酬が弾むな。相場の3倍ちょっとだぞ、コレ。」


俺は、少しこの男を訝しんだが、男は


「違約金込みだ。こちらが受け取っていた情報と違う機体が居たんでな。あの小隊と戦った時、1機だけ自爆した機体が居ただろ?」

と変わらぬトーンで淡々と話す。


「ああ、その事も聞こうと思ってた。」


「あれはこちらでも預かり知らぬ機体だ。こちらの拠点に進攻中だったようだが、話では「通常型」のZ.A.K.O.5機のハズだった。自爆型が居たという報告は受けていない。」


「そうか。騙し討でも食らったのかと少し勘ぐった。」


「すまないな。しかし、仕事の手際が良くて助かる。次も依頼する事があるだろう。その時は宜しく頼む。」


そういうと、何やらチップが複数個埋め込まれた15cm程の四角柱状のクリスタルらしきモノを置いて去っていった。

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