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プロローグ 放浪者達の夜明け
もう何千年、何万年前の話だ。
数多くの大国、世界中の力ある強者達が「世界の意思」と呼ばれるものを巡って血を血で洗う、大地を空の薬莢で埋め尽くす程の大戦争が繰り広げられた。命は一発の銃弾より軽く、当時、最新鋭の技術であった人型兵器「強き心臓」が主軸を握ったこの惨禍の果てに人類は大きくその数を減らしていった。
海は赤く染まり、木々や森は黒く焼き焦がされ、灰色の空は変わる事なく淀んでいた。
闘い、闘い、闘い続けた果てには何も無かった。
しかし、全ての大国が突如として、その闘いを放棄した。
その日、名も知らぬ、たった一人の男が「世界の意思」に到達した。彼はこの大戦争の最中、人知れず、広大な世界を彷徨い続け、「世界の意思」を求め続け、遂にその悲願を果たしたのだ。
それから数千、数万年。
「原初の放浪者」と呼ばれた彼は、世界中に多くの遺産を遺し、この世を去った。世界中の人々に、自身の遺産と手にした叡智の存在を明かして。
人々は求めた。彼の遺産を。その叡智を。
強き心臓を駆り、彼と同じく、広大な世界を旅して。
放浪者の時代の夜明けである。