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Wanderer’s Steel Heart  作者: 蒼波
一章 放浪者達の夜明け
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白亜のレイアルフ 後編

ブロロォン!ブロロロロォォ…!


2気筒から唸りを上げ、棚引く白煙を吐くマシン。

舗装の無い、砂利だらけの悪路から漸く舗装された路面に入って、体に伝わるガタガタという凄まじい揺れは漸く収まった。


防塵用に身に着けていたアビエイターゴーグルと口元のスカーフを下ろすと、ミルフェイスの街並みが飛び込んできた。街の中心である、放浪者(ワンダラー)の旅立ちを祝福する鐘楼は今日も鳴り響く。

ふと、マハトガとあの鐘楼の祝福を受けた日の事を思い出し、懐かしさが胸に去来するが、今はこの道を進むと決め、その心を振り切ってアクセルを回す。


この一直線を20分程走り続けると、左に15m程の灰色のコンクリート壁が見えてきた。2000平方メートルの敷地面積を有するM2JB重工の強き心臓(ストレングス・ハート)の機体群が格納されているハンガー、その外壁だ。


ズシリ、ズシリという大地を踏みしめるような足取りでハンガー内部へと向かうのは、パーティクル・スコード…通称、psシリーズと呼ばれる系列機の一つで、両腕に円形の巨大な掘削用ドリルを有する、ps-Y-Xylocopa(ザイロコーパ)だ。作業員が腕を振って、この剛腕の巨人をハンガーへと誘導しているのが横からチラリと見える。


そこから角を左へ曲がると、M2JB重工の出入工ゲートだ。角を曲がり、バイクを止め、エンジンを切って押しながら出入工のゲートの前へ立つ。ゲート前の監視カメラが俺を見つめる。


ピピッという電子音の後に、


「当工への来客者を確認。どうぞお入りください。駐輪スペースは直ぐ右側でございます。」


監視カメラからのアナウンスと共にゲートが開いた。

アナウンスに従い、レンタルバイクを駐輪スペースに駐めると、ポーチの中のMISTが振動していた。

取り出し、起動させると新規の電子メールが届いていた。


「バラッジからか…?」


とメールを開くと、


《ウェイド・ブラックスミス様、当工の元認定整備店

APAS(アーパス)」代表のルーカス・レナード氏から事前に御紹介を受けています。お手数ですが、ハンガーから右手側の受付棟一階・来客者様受付までお越し下さい。》


という文面であり、バラッジからではなく、重工関係者からと思われるメッセージだった。アドレスは彼の本名である、ルーカス・レナードの名から察するに、バラッジが重工へ連絡を付けていたのだろうか。指示に従い、黒い正面の自動ドアが見える、やや広い二階建ての受付棟へと向かった。


自動ドアを超えると、マハトガと出会った日と同じ光景が広がっていた。あの日と同じ、シンプルながら端正さや何処か高級感のある黒と薄いベージュの内装で整えられた、広めのカウンターとあの日と同じ、長髪を後ろで結んだポニーテールの黒いスーツを着た黒髪の女性が出迎えた。

彼女は腰の当たりにある出入り用の小さいスイングドアから、こちらへ向かうと、深く一礼して告げる。


「ブラックスミス様ですね。当支部でマハトガをご購入された日以来でしょうか、お久しぶりでございます。」


そう告げながら懐から名刺入れを取り出し、名刺を一枚引くと、


「レナード様から御紹介を頂きました。改めまして、事務・顧客管理担当のナナセ・ツジと申します。」


と名刺を渡された。

裏には「最高の愛機をお客様に」という言葉と重工の工章と思われるマークが描かれていた。丁度、依頼人(クライアント)からの名刺の保管用に名刺ケースを持っていたのでそちらへ収め、


「…聞きたいことが有ると言いたい所だが、もう全部お見通しってか?」


目を細めながら彼女に訊ねた。

彼女は神妙な面持ちで


「…その節は、遺憾の限りでこざいます。内部からの破壊工作という不測の事態に対して、対策が不十分であった事、また、私共からブラックスミス様へ御連絡する事が出来なかった事を謹んでお詫び申し上げます。」


と謝罪し、再び深く一礼した。


「…破壊工作に対して…という事は、バラッジ…レナードが出した、あのマハトガの解析結果に間違いは無い、と?」


「―――僭越ながら、結論を申し上げます。レナード氏の解析結果に間違いはございません。本来であれば、いち早く正確な分析を行うはずのミルフェイスのガードが虚偽の報告をしたと我々は認識しています。」


「じゃあそれはどういう…!」


と憤りのまま、ツジを問い詰めようとした矢先、


「―――ツジ君、御苦労様です。」


と彼女の後ろから、かなり落ち着いた様子の白いコートを羽織った男が声を掛けた。背丈はツジより高く、俺と同じ170cm後半台、体格は中肉中背というところだろうか。


「後は私から。業務に戻って構いません。後程、この件に関しては書類を纏めておきます。」


と彼は部下であろうツジを気遣い、この件を引き継くと申し出た。


「支部長…!宜しいのですか?」


「ええ。彼と話をしなければなりませんのでね。」


支部長と呼ばれたこの男の指示に戸惑いながらも俺と支部長に向かって一礼すると、ツジは奥へと下がった。

彼は彼女を見送ると、こちらに踵を返し、頭を下げ、口を開いた。


「申し遅れました、私がM2JB重工・ミルフェイス支部代表の《繧ッ繝ュ繝シ繝弱?繧ィ繧ッ繧ケ繝槭く繝…》」


「!!?」


何だ、この男は…!?

肩書までは聞き取れたが、後半…流れから察するに名を名乗ったのだろうが、酷いノイズが掛かった様に聞こえ、到底、同じ言語とは考えにくい程、理解が及ばない。


「ああ、失礼…こちらの言語チャネルでは私の言葉との同期が取れない事を失念しておりました。」と呟きながら、咳払いをすると


「改めまして、私がM2JB重工・ミルフェイス支部代表のクローノ・エクスマキナと申します。」


再び、名を名乗った。

しかし、先程のこの男の言葉、「言語チャネル」という意味がこの男の異質さを際立たせ、恐怖が混じった違和感が拭えない。俺は固唾を飲み、彼に問う。


「何なんだ、あんた…《人間》なのか…?」


彼は「ふむ…」と左手に顎を添えるような素振りを見せた後、こう答えた。


「…何れ、ご説明しますが、今はその時ではございません。厳密には異なりますが、元は貴方方同様、《人間だった》とお答えしておきましょう。」


支部長・クローノは不可解な回答を提示すると、再び、頭を下げ、謝罪と遺憾の意を述べた。


「この度は、お客様が所有していたマハトガの大破という《事件》に見舞われました事に深い遺憾の意を表すると共に、当工からの御連絡が遅れました事、謹んでお詫び致します。」


クローノは深く一礼し、頭を上げると、


「つきましては、ブラックスミス様にご提案したい事がございます。ご案内させて頂きたいのですが、お時間宜しいでしょうか?」


とクローノは俺に訊ねた。

新しい機体の宣伝だろうか。だとするなら抜目のない男で図太い男だが…

だとしても、予算的に厳しいとはいえ、マハトガが使えない以上、新たな機体を調達する他無い。


「…続けてくれ。」と俺はクローノに促した。


クローノは「付いてきて頂けますか?」と言うと正面のドアから受付棟の外へと出た。俺は隣接するハンガーへと向かう彼の後に続いた。


クローノは巨大なゲートが開かれたハンガー内部へと入っていく。機体整備をしているのだろうか、至る所で工具の駆動音と金属音がする。


右手には、先程のザイロコーパと更に2機、奥から、巨大な砲門を両腕に持つ赤と黒の、背部に飛行用と思われるプロペラを背負い、左腕をレールガン、右腕を二連のマシンガンと一体化させている青と黒の機体が並ぶ。

それぞれ、パーティクルスコードのps-R-KOBOLD(コボルド)、ps-B-Löwenzahn(レーヴェンツァーン)だ。


これらも彼ら、重工によって復元・製造された機体であり、汎用性の高さから、固定層からの人気を得ており、戦場でもしばしば見かける事が有る。


左奥にはマハトガに似た黒と赤を基調とするカラーリングと左右二門の中性粒子レーザー砲と城塞すら崩すと評されるバズーカを備えた、VACEという機体が見える。こちらは最初期に重工が発掘、復元したという機体で、このVACEやマハトガと云った高い性能を持つ機体とその評価から重工は今日に至る業界での地位の基盤を築いた。


ハンガーの中央の方でツナギの上着を腰に巻いた若い男の大きい声がする。


「psのメンテナンス、今日中に終わらせるぞ!トリリオンも購入検討してる客が居る!フライトユニットに不備は無いな!?」 


彼は威勢よく作業員達に訊ね、


「はい!整備長!」


と作業員達も声を張り上げ、彼に答える。

彼は踵を返し、持っていたクリップボードを見返している。どうやら依頼内容の確認だろうか。


クローノは彼を呼ぶ。


「整備長、お時間宜しいですか?」


整備長と呼ばれた彼は


「ああ、支部長。どうされました?」


とクリップボードを小脇に抱え、彼に問い返す。

クローノは彼にこう告げた。


「――《白き鬼神(ホワイト・デモン)》を出します。」


クローノのその言葉に整備長は一瞬、呆気に取られた様子だが、我に返ると、近づき、クローノに耳打ちすると


「(…宜しいのですか!?アレは我が支部内でも秘匿機体のハズですが…)」と小声で戸惑いを隠せない様子を見せる。


クローノは至って平然と、


「構いませんよ、彼には可能性が有る。もしかすると我々が追っている謎の鍵になっているかもしれません。」と、答えた。


クローノの答えを聞いた整備長の若い男はこちらを暫く見つめた後、首を傾げながらも、


「…分かりました。ご案内します。」


と整備長は先程のVACEの方へと向かった。

彼はVACEの背後に回り、しゃがみ込むと何やら、アスファルトの地面を探り始め、呟いている。


「確か…この辺りで…これだ。」


舗装にカモフラージュされたカバーを外すと、横向きの黒いグリップが現れ、整備長がそれを左へ90度回した。

すると、地面から歯車の回転音や機械の駆動音が鳴り響きだす。最後にゴゴ…ンという沈み込むような音が鳴ると、音は止まった。


整備長が首に下げていたカードを地面に翳すと、アスファルトの一部になっていたハッチが開き、両側の照明が照らされていき、その奥に長い階段が見えた。


「こちらです。」


とそう告げると、整備長は階段を下っていった。

支部長・クローノも彼の後に続いた為、訝しみながらも、45口径(フォーティファイブ)の拳銃を収めていた腰のホルスターをスリングバッグの様に胸元に下げ、何時でも引き抜けるようにし、後を追った。


十数段降ると、折り返しが有り、それが5回ほど続き、折り始めて3分ほどすると、連続していた両側の照明がなくなると共に、漸く段差の無い地面に着いた。しかし、辺りは辛うじてモノの輪郭が見える暗闇だった。だが、かなり広い空間らしく、奥の方はまるで見えない。


(やはり、口止めの為にこの暗闇で俺を始末する気か…?)


と右手でホルスターの45口径(フォーティファイブ)のグリップを握り、安全装置(セーフティ)を外そうと指を掛ける。


その時、カッとこの広い空間に高輝度の灯火が照らした。


その奥には、両肩に刀らしき武装と、盾を掲げた鬼神を想起させる様な細身ながら内に秘める逞しさを感じさせる、白亜の装甲を持つ強き心臓(ストレングス・ハート)が左膝をつき、右膝に腕を置いた姿勢で眠りに就いている様に鎮座していた。


この鬼神の放つ静かな風格が、彼自身の異彩さを物語る。


俺は呆気にとられ、気付けば45口径(フォーティファイブ)のグリップから手が離れていた。


クローノは笑いながら、告げる。


「ふふふ、如何ですか?これが当工が誇る最上位(フラッグシップ)機体の一つ、「レイアルフ」、その最初期復元機。《彼》を我々はこう呼称しています。「白き鬼神(ホワイト・デモン)」と。」



漸く出せました…

M2JB重工にて秘匿された未知なる機体、レイアルフ!その初期ロットの一つとして、小説オリジナルで登場させて頂きました!M2JB重工さんのご厚意に感謝!

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