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第一章

多少グロテスクな表現を致します

いつもとおなじ


まったくじゃないけど大してかわらない日だった


これからありえないことが起こるのに……



この話はこの約一時間前にさかのぼる…



母『行ってらっしゃい』

『おー』

俺は水沢光也、何処にでもいるまったく普通の高校一年生

成績オール3

身長真ん中より二人分後ろ

彼女できたことない

部活は書道部



とてつもなく普通でつまらない男…


まぁクラスの女子からすれば苗字しか覚えられない位の存在…



そんな俺だった…




それは学校に行く途中…



なんらかわらないいつもと同じの通学路のはずだった


そう…もちろん今日は違う


電信柱から尻がみえてる……


家の高校の制服だ…


自慢じゃないが好奇心旺盛な俺が見て見ぬフリをするわけがない


『ど、どうかしたの?』


女の子『あ〜あのね、なんか釣り針に袖が引っかかっちゃったみたいなの…』

はい!皆の期待どおり!かぁ〜わぁいい〜


いいねぇいいねぇこんな所でロマンスかよ!

三次元での萌え?


あり得ないものだとおもってたよ!


『ちょ、ちょっと貸してみて』


昔から釣り好きな親父が散らかした釣り針のおかげでこの手の作業はお手のもの



『はい!取れたよ』


女の子『わぁ〜ありがとう』


『いいよ(^o^)気にしなくても(^-^)困ったときはお互い様だしね』

決まったぁ〜〜カッケー俺!自分で自分に惚れるわマジで!


『それじゃあ俺は行くね!また学校で!』


女の子『あ、ありがとね!ホントに!』


『いいっていいって(^o^)それじゃあ』


俺の脳内トレーニングの完全勝利だった…


ちなみに俺の頭じゃこれからのシュミレーションも完璧に構成されている…



まずあの子のリボンは黄色だ…これはあの子が一年生だということをあらわす↓



次にスカートの折り目が完璧だ…この事から編入生だと言うことは間違いない↓



そして昨日のHRでの担任の大切なお言葉…


担任『明日から編入生が二人くる、そしてなんと…その内の一人がうちのクラスだぞ』↓


完っっっ璧!!!



学校が楽しみだなぁ……


完璧なシュミレーションを脳内で構築しているといつもより速く学校についた…


『お〜い光ちゃん』


ん?この声は拓海か…

拓海『よぉ』


『うぅ〜す』


拓海『さっきよぉ…無茶苦茶可愛い子がいてな……』


あぁ…あの子だろうな…



『ほぅ?』


ここはあえて知らぬふりをしておこう…そのほうがいい…うん


拓海『その子がお前を探してたぞ』

『へぇ〜………!!!!…えっ!?』



拓海『だからお前をさがしてたんだって!』



『いやいや人違いだろ!』



拓海『ホントだって!名前言われたし…』


『俺の名前!?』


拓海『他に誰がいんだよ?』

『だよなぁ…』


ひゃっほぅ(`▽´)


春だな!?こりゃあ春だな!?


いやいやまてまて!!!


現実はそう甘くない!!今まで苦い想いをしてきたじゃないか!!焦るんじゃない!!集中だ!!丁寧に、慎重にだぞ!!わかったか?俺!?



『まぁどうでもいいや、さっさと上いこうよ』


拓海『んだよ…冷めてんなぁ…』『お前もどうせ課題してないだろ?』


拓海『お前もってことは……まさか!?』


『俺もだよ』


拓海『オイオイ頼むよ光ちゃぁん!!』


『また俺のをうつすきだったのか?』


拓海『当然!!』


『威張るな!』


頭を叩く


拓海『ってぇ…』


『わりぃ大丈夫か?』


拓海『うん!』


『元気じゃねぇか!!!!』


拓海『まあな!!』


『だから威張るな!!』頭を叩く……が、スウェーバックでかわされ俺の手が誰かに当たった



???『きゃっ…』



『あぁ…ごめ…』


『あっ…』


女の子『あっ!さっきの人だぁ!』



わぁさっきの女の子だぁ(^o^)


なぁんて言ってる場合じゃあない…


いま俺の手が当たった場所……


そう…この小柄な体のこの子の小さいが形の良い胸……


この子の様子からすると気づいていないようだ……


ホッと一息つく暇もなく後ろの視線に気付いた


拓海がニヤニヤしている………


アイコタクトで俺は言ってみた……


(…みてた?)


拓海(当たり前だろ、真っ正面だしな)


(なにが望みだ?)


拓海(課題( ̄▽ ̄)…嫌とは言わないよな?)


(交渉成立だな)


俺と拓海は心の握手をかわした


そしてまた後ろの視線に気が付き、回れ右



この二人は俺にホッと一息つかせるつもりはないとみえる


女の子『…お〜い?』

『あぁ、ごめんごめん』


(それじゃ分かってるな?拓海?)


拓海(おぅ、所で物はどこにある?)


(このバックの中だ。ただし数学しかしてねぇからな)


拓海(上出来だ。これで契約完了だ)


(んじゃ、そういうことでな)


拓海(おぅ、達者でな)


(そっちもな)


『えぇと……編入生だよね?』


(お互いの健闘を祈る)


拓海うけたまわった


俺と拓海はお互い別々の道を歩みだした…


女の子『そうだよ!良くわかったね』


『見覚えがなかったからね。それよりさっきいた奴が言ってたんだけど…』



女の子『うん♪なぁに?』


『俺の事探してたってホント?』


女の子『あたしは水沢光也って人さがしてたんだけどもしかして君?』


『あぁ、うん一応ね』


女の子『やっぱり君だったのかぁ〜』


『やっぱり?』


女の子『うん♪叔母さんからきいたとおりだったからね☆さっき会ったときからそうだと思ってたんだぁ』



『叔母さんって?』


『水沢千鶴さん、君のお母さんだよ♪』



『ちょっとまって……叔母さんってことは…………』



女の子『改めて自己紹介するね♪あたしの名前は水沢麻由

久しぶりだね、光ちゃん☆』



『麻由って………ちょっとまてよ!!!!!お前あの麻由か!?』



麻由『あの麻由って…酷いなぁ…今も昔も変わらない可愛いイトコの麻由ちゃんじゃん』


『マジかよ…』約10年前……


俺の家には母親、父親、俺、そして麻由マユカイの五人で住んでいた


麻由と快は双子で、両親は多大な借金を抱えて蒸発していてた


親戚はいるものの、ほぼ全員から多かれ少なかれ金を借りて、その金を踏み倒した夫婦の子供を誰も引き取ろうとはしなかった


そんな二人を俺の両親が引き取り、一年という短い期間だが本当の家族のような毎日をおくっていた



しかし



麻由はいつも笑ってなどいなかった


俺が知っている麻由はいつもうつ向いていて、泣いているわけではないが笑顔をみせることもない…



まだ幼かった俺は別に気に止めたこともなかったが、今となれば大きな問題だったと思う


そんな麻由を俺の両親はとても心配に思い、全力をあげて麻由の両親を探しあてた



しかし



見つかったのは母親だけで父親はもうこの世にはいなかった



父親は高層ビルの屋上から身を投げた…



その身に莫大な生命保険をかえて……



そのおかげで見事借金返済は完了し、あとは二人を引き取るだけという状況にあったが…



行けなかった、自分達の勝手で二人を押し付けて、二人は自分の事を恨んでいるのではないのかという不安で、なかなか踏み出せないでいた



しかし今度は逆に俺の両親が麻由と快と一緒に暮らして欲しいと言うふうに頼み込んだのだ



この言葉は二人の子供を押し付けたことを許してくれるという気持ちと、それと同時に二人の子供は自分の事を恨んではいないことをしめしていた…



これが俺の10年前、忘れてかけていた記憶の一ページ終了だその記憶の一ページにのっている麻由といま俺の目の前にいる麻由は全くの別人だ



いったいなにがあったのか聞くのはタブーだろう…ここはあえて聞かないほうがいいな…うん


『じゃあ職員室教えるから』


麻由『うん♪ありがと☆』


『こっちだよ』

職員室に行くまでの間麻由は休む事なく話続けた


昔は話すどころか声すら聞いたことのなかった麻由がこんなに喋るとはな…



そんなこんなで適当にあいづちうっているうちに職員室につき、麻由を送り出した



『それじゃあ俺、教室行くからな』


麻由『え〜一緒にきてよぉ』


冗談じゃない!!ここまで来るのにいったい何人の視線を浴びて来たか…


『いや、俺も課題とかあるし…』


麻由『ちぇ〜』


『それじゃあね』

麻由『うん♪またね☆』


俺は教室に向かう途中ある異変に気付いた…


それは



周辺のギャラリー(男子)の視線が違う!


恨みや妬みなどとは少し違うが、なんだろう…こう…なんというか…とても興味深そうな視線…



心当たりはさっき職員室においてきたから大丈夫だ



でも皆興味はあるんだな…



キーンコーンカーンコーン



五分前か…急ご…




あっ課題!!!!



あぁ…教室に戻ってみたら待ってましたと言わんばかりに拓海がつめよってきた



拓海『さっ!ボクゥ?お話をきこうか?』


『なにもないよ、そしてやめろよその口調』

(中学の時に補導されたのを思い出すから)

拓海(わりぃわりぃ、あんときはやばかったな)


担任『おぉい、席つけー』


拓海『おぉっと!じゃあまた後でな』


『ったく』


担任『じゃあHR始めるまえに昨日も言ったけど、今日から編入生が来るぞ〜!じゃ、入って』


拓海きたきた


(ったく、冷やかさないでくれよ)


俺はうつ向き心の中で祈った

(なにもしなければいいけど…)


ガラッ



クラスの空気がざわめく…


拓海が俺にアイコタクトで必死に訴える


拓海(おぃ!どういうことだよ!?)


(なにがだ…!)


俺が顔を上げて前を見ると黒板に名前を書く少女の姿があった


麻由と同じ黒髪


身長も同じくらい


しかしセミロングだった麻由に比べてボーイッシュな感じのショートヘアー


振り返ったその目は怒っているようにしかめっ面


そして転校初日とは思えない強気な口調で自己紹介した


『水沢 快ですよろしくお願いします』


呆然とする俺と拓海…

その時隣のクラスからざわめきが聞こえた


俺&拓海『そうきたか…』担任『ん〜と、それじゃあ…』


担任の目があいている席を探しているのがわかる…


空いている席は……俺は右の空席をみた……

ここしかないよな…



拓海も全く同じ事をしていた


クラスに二人分のため息が響いた…


担任『光也か拓海は水沢さんに教科書みせてやってくれ』


俺&拓海『う〜い』

担任『あっちゃぁ〜、HRの時間なくなっちゃったなぁ〜。まぁいいか、お前ら一時間目遅れんなよ!そんじゃ終わりっ!解散!』


俺はすぐさま拓海を連れて便所に直行!お互い妙に真剣な顔で


拓海『予想の範囲外だな…』


『…お前が教科書見せてやってくれよな………』


拓海『は!?お前は見せねぇのかよ!?』


『……お願いだから…な?俺とお前の仲じゃないか?』


拓海『なんかあったのか?』


『あいつ…とてつもなく怖いんだ…』


拓海『なにがあったか言ってくれ』


『む…昔俺がイタズラでアイツの布団にゴムでできたゴキブリを入れて驚かそうとしたんだ…』



拓海『あ…あぁ…それで?』


『俺の予想ではおもちゃゴキブリに驚いて追いかけ回されて終わり位だったんだけど、あいつ本気で驚いて…マジギレになって追いかけ回されてるだけじゃなく、ほぼリンチ状態にまで殺られ病院送り……俺が入院している間に引っ越したんだ…』


拓海『あの子がその事を根に持っていたとしたら………』


『ああああ!!!!!止めてくれ!!それ以上言わないでくれ!!!』


拓海『わ…わかったから落ち着け、俺が教科書見せるから…』


『あ…ありがとう…ありがとう…』


拓海『よせよ…俺達の仲じゃないか』


『た…拓海…』


拓海『困ったときはお互い様よ!』


『お前を友にもった事を誇りに思うよ』


拓海『よせやい、ほれ、授業始まっちまう』

『そうだな…急ごう』俺達が教室に戻ってみるとすでに授業は始まっていて、静まりかえった皆の視線は元気よく入ってきた俺達二人にあった


『……トイレにいっていました…』


先生『…わかった…座れ』


『…はい』


この先生は空気が読めるタイプでよかった


俺はそのまま拓海に視線を送ってみるとあいつは何やら机の中や鞄の中をゴソゴソやっている



おい…



まさかてめぇ…



拓海『先生教科書忘れました…』


先生『またかお前!ったく…』



ヴォォォイ!!!!こら拓海ィィィィ!!!!!?


拓海はこっちを見るとジェスチャーでこう俺に訴えた


[わりぃ]


(わりぃって!!てめぇふざけんなよ!!!さっきまでトイレで熱い友情を交わてたじゃねぇか!!!!おい!?あれどこいったんだよ!?)


快『………ねぇ?』


拓海(そんなこと言ったってしょうがねぇじゃねぇか!?間違えて明日の時間割りしてきちまったんだ!!)


(明日の時間割りって言うと……今日が国語、理科、保健、保健、数学、社会だから…明日は……体育、体育、美術、英語、選択、選択だから………こんの馬鹿野郎!!!!!!!!ダメダメじゃねぇか!!だいたいお前はいつも……)


快『ねぇったら!!』


『うわぁ!!!』


皆が俺に視線を送る


先生『水沢ぁ〜職員室行きたいか?』


『いや、それは困ります…』


クラスの雰囲気が一旦和やかになる


空気が読めるタイプの先生は助かる


快『いきなり大きな声出さないでよ!恥ずかしい』



『あぁ…ごめん』


快『まぁいいわ、今日の放課後話あるから時間空けといて』


『あぁ……えぇ!?!?』

先生『水沢ぁ〜お前後で職員室な』



気が付くと皆がまた俺に視線を送っていた……拓海まで!!

拓海の表情が……………ニヤニヤすんな拓海ィィィィ!!!


拓海(楽しそうにしてるね〜)


(どこがだよ!?)


拓海(わりぃわりぃ…カツサンド奢るからよ)


(うっ……わ…わかった…もういいよ…)


拓海わかりゃあいいんだ


(ったく…)


先生『お……おい水沢…職員室の話は冗談だからそんな落ち込むなよ?……な?』


『あ………あぁ…すみません…』



先生『ホントしっかりしてくれよ……本気で心配したじゃねぇか……』


『す…すみません』


俺は立ったままでいたため冷たい視線はずっと俺に串刺しだった



俺と先生の会話を聞いてクスリとも笑わないなんて相変わらず冷たいクラスだ…


俺嫌われてんのかな?そんなこんなで待ちに待ったお昼ご飯の時間

『カッツサァンド、カッツサァンド、カッツサァンド、カッツサァンド』



拓海『わかった、わかったから』


そこでなぜかクラスの皆があつまってきた


クラスの皆『カッツサァンド、カッツサァンド、カッツサァンド、カッツサァンド、カッツサァンド』



あぁ…拓海の顔がみるみるうちに青ざめていく。つかなんだこの微妙なノリは!?逆に怖ぇ…


あっ!拓海がそろそろヤバい……


クラスの皆『……フッ…』



あぁ…もう十分に楽しんだんだな…皆帰ってく…


拓海はしばらく立ちすくみ、浮かない顔で俺にカツサンドをおごった


拓海『んで、どうなったわけよ?』


拓海は気をとりなおしてはなしはじめたが、いつもの元気はもちろんない



『今日の放課後話があるんだとよ』



拓海『ふぅ〜ん』


食い付いてこない……

拓海『まぁ殺られないようにしとけよ』


『え…えんぎでもないこと言うなよ』


拓海『ハハハ冗談だよ』


『…………はぁ』


拓海『どした?』


『俺……どうなるんだろ…』


拓海『なぁに気にすんなって!ボコボコされたって言ってたけど、それ何年も昔だろ?』

『ま……まぁな』


拓海『だから大丈夫だって!な?とりあえず今はカツサンドでも食って楽しくいこうぜ』

『そ……そうだよな』

拓海『そうだそうだ』


『サンキュー!なんか元気でてきた』


拓海『いざとなってもお前、そこらの奴には負けないしな』


『そんなことないよ』


こうして昼休みの時間は終わって行ったそして時はゆっくりと、しかし確実に進み、とうとう約束の放課後一歩手前にあたるHR前の掃除に入っていた


『………はぁ』


男子用便器を見つめて俺はため息をついた


すでに脳内では考えられるシチュエーションを完璧にファイルアップしていた


しかし


不安で仕方ない俺のため息は止まる事を知らなかった


『……はぁ』


クラスで目立たない女子『あの…水沢君…』

『ん?なに?』


クラスで目立たない女子『水沢君を呼んでる子がいるんだけど…名前…わからなくて…』

ま……まさか…いや絶対そうだろうな…


『あ……あぁ…すぐに行くって伝えて』


クラスで目立たない女子『あ…うん』




さぁ覚悟を決めろ俺!!



『お待たせ…』


麻由『おそいよ♪』


!!!…なんだ麻由かぁ〜

緊張して損だよホント

麻由『あ〜なぁに?そのホッとした顔〜☆』

『えっ!?』


麻由『快ちゃんかと思った?』


『ん…んなことないよ』


麻由『それはそうと……はい、これ叔母さんから♪』


『ん?』


わたされたのは紙切れと五千円札だった


間違っても小遣いではないだろう。家の親はケチだ


さて問題は紙切れだ


なになに?


・卵一パック

・牛ロース×2

・豚ロース×2

・白菜

・春菊

・えのき

・醤油


お釣りはやる。頼んだ


といった内容だった


要するにお使いか


まぁお釣りはくれるって言うんだから別に悪い仕事じゃないな


麻由『じゃああたし行くね♪』



『ん…あぁ、ありがとな』



麻由は振り返って可愛らしい笑顔を見せて帰って行った



ホントに可愛らしいくなっちゃって…


さて、俺も行くかな

俺が教室に入ると全員の生徒と担任の視線が一気に俺に突き刺さった


時計を確認…


HRまであと五分ある…


拓海も座ってる


なにも心配することはないんだ!!俺は時間通りに教室に入って、普段どうりにしている………なのに………なんで皆俺が席に着いても目をそらさないんだよ!!!!



担任『よ〜しHRはじめるぞ!なぁ水沢!』

『えっ……はっ…はい』


担任『明日は時間割りの変更もないし俺、この後職員室会議だからこれで終わるぞ!あ〜い起立!解散!』



なんなんだ…?



拓海『かえるか?』


『あ…あぁ』


拓海『そういやぁ例の転校生さんとお話があったんじゃなかったか?』



『あ…あぁ…そうだけど』



『光也!!』


一瞬びくっとして振り向いたその先には


快『ちょっときて!!』



快だった………


(拓海ぃ〜)


拓海(ファイト!)


(う〜)


快『早く!』


『あ〜い……』


俺はお話の定番とも言える屋上に連れていかれた……快『左腕みせて』


『は?』


快『いいから!!』


『あ…あぁ…』


快『なんともなってないわよね?』


『別に変なところはないと思うけど…』


快『ふぅ〜よかったぁ』


『よかった?』


快『あんた昔あたしに左腕折られて入院したでしょ?まさかあたしも入院するとは思ってなかったから…しかも会えないまんま引っ越しちゃったし…結構心配してたのよ?』


『そ…そっか』


快『な…なによ!』


『別に』


快『もう!で、その……あ、あの時は…その…』


『ん?』


快『………めん』


『へ?』


快『なんでもないわよ!!そんだけ!!じゃね』


『あ…あぁ…』


快が屋上の扉を閉めたと同時に俺はへたりこんだ



(………ツンデレかぁ)


話が終わったのを嗅ぎ付けてか拓海がやって来た


拓海『どうだったよ?』


『なぁ拓海……』


拓海『ん?』


『ツンデレってどう思う?』


拓海『なんだいきなり?』


『いや………なんでもないよ…』


拓海『へんなやつ、まぁいいや!行くか』


『あぁ!スーパーが閉まっちまうしな』




…………疲れた拓海『スーパーって俺ん家のか?』


『おぅ』


拓海『高くつくぜ』


『さぁて…商店街の方にと…』


拓海『冗談冗談ほら!いこうぜ』


ご察しのとおりこいつの家はスーパーだ。そのよしみで安くていい品を提供してもらったことも何度もある。まぁ困ったときはお互い様って奴だ



『さぁて……まずは肉類と…』


拓海『お客さん……こちらなんか、いかがですかぃ?』


『お…お前…こいつぁ…』


拓海『へへ…お客さんもついてるねぇ…このスーパー開店以来人気No.1最高級、牛の詰め合わせだ…』


『驚くのはここじゃない………だろ?』


拓海『ハハハ……お客さん……あんた、ただ者じゃないね?』


『俺がその容器の破損を見落とすとでも思ったか?』


拓海『へっ……負けたよ…もとより処分するもの………普段は2500円のこの品…1000円で持って行きな』


『悪いがその品……3000円で貰い受ける』


拓海『あ…あんた正気か?』


『ただし!!』


拓海『うっ』


『豚肉、白菜、その他もろもろ準備しな』


拓海『お客さん…やっぱりあんたただ者じゃあねえょ…』


『利益は利益…お互い楽しんでいこうぜ…』

拓海『……へっ…完敗だよ…』拓海『ありがとうございました』


『じゃあな』


拓海『また明日な』


こうして拓海とも別れを告げ、俺は家路へと歩む道のりを選んだ



スーパーまで来てしまえば自宅までは一キロもない。次の角を曲がってまっすぐ行けば自宅だ



あ…



電柱の影から尻が見えてる………



近寄ってみたら俺の予想通りの展開がまっていた



『なにやってんの?』

快『………助けなさいよ』


快だった


『ったく…ちょっとどいて』


快『……ぅん』


こいつも釣り針に引っかかっていた


『なぁ…』


快『なによ?』


『お前ら姉妹人間に産まれてよかったな』


快『は?ちょっと!どういう意味よ!?それ!!』


『帰って麻由に聞いてみたら?』


快『麻由ねえがどうかしたの?』


『だから聞いてみれば?』


快『?』


『はい、取れたよ。じゃあね』


快『ああ!!ちょっとほつれてるじゃない!!待ちなさいよ!!』


俺は早足でその場を立ち去ろうとしたが自宅の前で追い付かれた


『何だよ』


快『なによ…そんなに冷たくしなくてもいいじゃない……』


!!!軽く泣き目になってやがる…


『……わるかったよ』

快はソッポをむく


人が謝ってるのに態度が悪いったらありゃしない


『じゃあね』


俺は快を置いて自宅に入った










はずだった


俺が自宅に入って三秒後



快『ただいまぁ』




…………………こら

『住むの?』


快『住むわよ』


…………はぁ…予想の範囲内だったから良かったもののどうしたことか……まさに最悪の事態だ


拓海にバレル位ならまだいい


あいつは口止めすればそうそう裏切るような奴じゃないし、逆手にとって攻めてくる奴でもない



問題はクラスの噂好きブス集団だ



奴らにこの事が知れれば学年中、いや学校中に……下手すれば町中にしれわたる事になる…それだけはなんとしても避けるべき事態だ…



快『叔母さぁん今帰りましたぁ』


母『あらお帰り快ちゃん。遅かったじゃない』


快『ちょっと帰り道で迷っちゃって』


快が一瞬こっちを睨む


睨むな


そういえば買い物袋を持ったままだった


『ほら』


母『あらお疲れさま。お釣りはどれぐらいだった?』


『2000円』


母親は少し驚いたようすをしたあと苦虫を噛んだような顔をした。おおよそメモ書きの内容を後悔しているのだろう


母『今日はすき焼きよ』


『買った物を見れば分かるよ』


母『あら、ほんとね』

『じゃあ俺部屋にいるから』


母『出来たら呼ぶからね』


『おぉ』




俺が部屋に入るとなんとも面白い出来事が俺を静かに待っていた扉を開けると廊下とは格段にちがう心地よい冷気が充満していた


エアコンがかかっている。しまった…消し忘れた



俺は学ランを脱ぎ捨てて、室内着に着替え、ベッドに横になった


夕食までの時間、少しの間眠るのも一日の中の小さな楽しみだ


俺は窓から見える雲をながめ、静かに眠りについた……ん?………


妙に暑い………


不快な暑さにあてられ俺は目を覚ました


エアコンをかけたはずなのになぜか暑い……


いや…



涼しいことは涼しい。だがしかしなんだろう?ベッドがなぜか蒸し暑い……



とくに体の左半分が…









………………







俺は目を疑った……



俺の左に小さな……いや、正確に言うとまだ幼い少女がすやすやと眠っているではないか!?


この少女はみるかぎり黒髪のロングヘアーに小さな体、それにパジャマというなんとも俺の心をそそる………………いやいやいや!!冷静になれ俺!!解説に入りたい気持ちもわかる!!わかるがしかし今はその時ではない!!落ち着いて周りを見渡せ!!ここは俺の部屋だな?よし!そのようだ…時計をみるかぎり夕食までに約10分の余裕がある!落ち着く時間はたっぷりとある!!まずは状況把握!俺は普段着のままだ!とくに乱れたようすはない。とりあえず最悪の事態は免れたようだ………いやいや俺に元からそんな趣味はない!!これは俺の魂に誓える!!よし!


冷静さを取り戻した!

うん!もう大丈夫だ!

さてこの子は誰なんだ?


俺が再度左を見ると


おや?いない…


試しに右を見てみた


いた……


ベッドから下りて俺の真下に正座してその大きく開かれた眼でじっとこっちを見ている


あまりの緊張感に俺も正座になる




沈黙が続く……




とりあえず……



誰か聞いてみようかと正座をとこうとしたとき沈黙は破られた



女の子『………ぉトイレ』


『へ?』


女の子『おトイレ行きたい』


『あぁトイレね…こっちこっち』


女の子『どこ?』


『まず廊下をまっすぐいって突き当たりのドアを右にいって………』



女の子『わかんない』

『じゃあ連れてってあげるから…』


女の子『だっこ!』


!?!?


抱っこ!?


マジ!?


女の子『漏れる……』

『ああ、わかったわかったほら!』


俺はこの子を抱っこしてトイレに連れていった


女の子『一人でできる!』


『あぁ』


よかった〜出来ないって言われたらどうしようかと思った



すると



しばらくして女の子は出てきた


女の子『終わった〜』

『おぉ』


俺がこの子と一緒に部屋に戻ろうとした時


母『光也ぁ〜ご飯〜』

『う〜い……じゃあ行こっか……』


女の子『うん!』母『あら?小乃ちゃんも一緒』


『小乃ちゃん?』


小乃『あたし』


『あぁね…』


母『じゃあご飯よ』


『ぉぉ』


小乃『ご飯〜』


小乃はトコトコと走って行った。遅れて俺が居間に行ってみると


麻由『光ちゃぁ〜ん』

快『遅い!!』


小乃『光ちゃんこっちぃ』


あ〜…………皆いるね…

ホントに住むんだ…

いや、まだ確定したわけじゃない一応聞いてみる、これも大切なことだよな、うん!

『なぁ快…』


快『…………』


………このやろう

『快』


快『ん?なに?』


『お前ら家に…』


俺は途中で言うのを止めた。理由は言うまでもない、何故ならすでに快の耳は俺の言葉を捕らえていないからだ……快の意識は俺ではなく完全にすき焼きに向かっての全力疾走真っ最中だった



うん…こいつは諦めよ…


小乃この『光ちゃん光ちゃん』


気付けば小乃が満面の笑みで俺の膝に座っていた



『ん?』


小乃『お腹すいた』


『あぁ…ちょっとまってな…もうすぐできるから』


小乃『むぅ……』


ふくれやがった


『なぁ麻由』


麻由『なぁに?光ちゃん?』


よかった……こいつは大丈夫だ…


『お前らって家に…』

麻由『住むよ』


即答かぁ〜


あいたぁ〜


やっぱりかぁ〜


母『はい!もう良いわよ。食べて食べて』


麻由『はぁ〜い』


快『いただきます』


俺が考えこんでいるうちに食事が始まったが、やはり先人をきったのは麻由&快だった



あぁ…肉が…俺が取ろうとしていた肉が…


俺はこいつらを完全に舐めていた、こいつらときたら完璧なフォーメーションで俺の食事を阻止しやがる



快の野郎は俺が取った肉を箸ではたきおとして奪いやがる



麻由はもっとたちが悪い、俺が取ろうとした肉を速攻奪いやがる



なんとか二人が食べている途中に取ろうとすると今度は小乃があれ食べたいこれ食べたいなどと言って俺に食わせてくんねぇ………




ちなみにこの日の俺の食事はご飯と白菜だけだった悪魔の三人がほぼ全ての肉を食い尽くしたのを見計らい俺は切り出した


『さて、本題に入るけど…』


麻由『へ?』


『なんでこの家に帰って来たの?』


麻由『ん〜あたし達はその事あんまりよくわかんないんだ』


快『一昨日いきなりこっちの家に行けって言われてね』


母『なんだかいろいろあるみたいね』


『ふぅ〜ん…じゃあ二人も詳しくは知らないんだな』


麻由『そゆこと』


『じゃあ次の質問だけどさ』


俺は膝の上で筋の肉と格闘している小乃を指差した


『だれ?』


快『妹』


『あ〜やっぱり、叔母さん結婚したの?』


母『あら?あんた知らなかったの?』


『あぁ』


母『そういえば結婚式のときあんた風邪ひいてたもんねぇ』


『あぁな』


母『旦那さんはお父さんの昔の同僚さんよ』


『へぇ』



聞きたいことは聞いて飯もおおかた食べ終わり俺が部屋に戻ろうとしたとき、俺の携帯の電話がなった


相手は……拓海か…


俺は居間を抜け玄関から外に出て通話ボタンを押した


『よぉ』


拓海『おぉ』


『なんかようか?』


拓海『相変わらず冷たいなぁ…まぁいいや。今から外、出れるか?』


『あぁ…大丈夫だけど…』


拓海『ホントか?助かった!いやぁなにしろチャリがイカれちまってよ、あれが治せんのはお前くらいだからな』


『おいおい誰もタダで治すなんて言ってねぇぞ』


拓海『あいあい、分かってるよ!300な』


『毎度あり』


拓海『んじゃ頼むな』

『おぅ』


約一時間後



俺が拓海のチャリを治し家に帰ろうとチャリをぶっとばしていた


時間はすでに夜の10時、深夜とまではいかないがなかなか遅い時間帯のため急がないと補導される



補導だけは勘弁してほしい………



俺は補導員に気をつけながらも途中にあるあの電信柱の前でチャリを止めた



ふと今日一日の事を思い出す…



はぁ…



ため息しか出ない



いつもと同じ、いつも通りの一日のはずだったのに……



俺は一息ついてまたチャリを漕ぎはじめた



そう…










いつもなんら変わりない一日はこの日が日本で最後の日だった……

俺は家についてすぐにこの疲れきった体を湯船につけ、体を洗い頭を洗った



あまりにも眠気が凄まじいため早めに風呂から上がり俺は床についた

ひんやりとした心地よい冷気


そのなかでも暖かい布団の中


いつまでも眠れてしまう位の心地よさ


こんなにもさわやかなお目覚めがいままでにあっただろうか?


しかしなぜだろう?


俺はこの状況を知っている


俺は布団の中をみた


小乃が寝ている……


なぜだ……


なぜこやつがここにいる?


よぉく思い出せ


昨夜…帰ってきて…風呂に入って…着替えて…布団に入って…………………布団に入って…小乃が枕を持ってきて…一緒に寝るって駄々こねて…許可……………………………………………あ


あちゃー


やっちった…


俺は小乃に視線を戻した…居ない


右をみた…いた


小乃『おト…』

『わかった!』


俺は小乃をおんぶしてトイレに向かった


小乃がトイレに入っている間俺は扉の前で待っていた


俺がふとトイレの右側の洗面所を見ると頭が大変な事になっている快がいた


『…はよ』


快『おはよ』


…………







…………




早く出てこい小乃!小乃『ひゃう〜』


『お〜終わったな、ほら早く姉ちゃんとこいけ』


小乃『はぁい』


『ふぅ』


小乃『快姉ちゃん、麻由姉ちゃんは?』


快『あ〜まだ寝てるね』


小乃『起こしてくるね〜』


快『よし!行ってこい!』


小乃『はぁ〜い』


小乃は一目散に俺の隣の部屋で寝ている麻由のもとに走っていった


快『なつかれちゃってるね』


『まぁな』


快『さぁて朝ごはん朝ごはん!ほら行くぞ光也』


『へいへい』


俺は快の異様に高いテンションに引きずり回されながら食卓に向かった……………疲れる


母『あら快ちゃんおはよう♪ずいぶんと早くのね光也にも見習って欲しいとこよ』


『いるよ』


母『あらホント』


俺の母親は明るく笑いながら台所に帰って行った。テーブルの上にはコーンフレークと牛乳が並べてあり、人数分のお皿がある



快『ふぅ〜ん…この家のシリアルも久しぶりね』


『だな』


快『食事中にテレビを見ない決まりもそのままよね』


『当たり前だ』


快『…変わってないね』


『まぁな』


この会話はこれで終了した。快はこのあと麻由が小乃に連れられてくるまでの約十分間なんだかぼー…っとしていた。しかし何というか…この家をゆっくりと見渡して柔らかい笑顔を浮かべているように俺は見えた…


こんな朝ごはんもいいかも知れない


そんな朝だった


なぁんてゆっくりする時間もそう長くは続かない


いつもは一人で食べるもんだからすぐ準備出来たのだがこの人数だ…無理がある


遅刻まで約十分


俺は自転車だからまだ大丈夫だ!しかし問題はこの二人…


この時間…三人そろって間に合うには手段がたった一つしかない


それは…




三人乗りだ!


通常自転車の多人数乗車は二人乗りが全国的にオーソドックスだ!しかし暗黙の自転車裏業界では限界を超えた荒業!三人乗りが実在した


これはまず一人が普通にハブにあしをかけ、前の人の肩を掴む基本的な乗りかただ


しかし三人乗りはその上、サドルにもう一人のせるのだ


これにより自転車の重心は三人の内の誰かにほぼランダムに片寄る、それゆえ危険性が高く、俺のように熟練したライダー級がやってはじめたものになる


学校に遅刻しない為にはこの方法しかない…


『快、麻由は俺のチャリに乗れ』


快『え〜三人乗りぃ?』


麻由『ちょっとキツくない?』


『運転するのは俺だし大丈夫』


快『もう時間ないし仕方ないね』


麻由『うぅ〜…』


快『ほら!麻由いくよ』


麻由『ふぁ〜い……』

俺達は早速チャリに乗り込んだ


快『光也もっとつめてよ!』


『っるせぇなこっちもきついんだぞ立ち漕ぎだし』


麻由『快もうごかないでよ〜』


『よし!お前らのったか?』


快『ギリギリね』


麻由『きついね〜やっぱり』


『じゃあ行くぞ』


俺は勢いをつけてクソ重いペダルを踏み込んだ


小乃『光ちゃんいってらっしゃぁ〜い』


小乃が元気良く手をふっていた


一人っ子の俺にとってなかなか嬉しい見送りだった、思わず顔がにやける


俺はいてもたってもいられず振り向いた




……もう家に入ってやがった



『とばすぞ!!』


恥ずかしさを紛らわすにはこうするしかなかった



俺は自転車のギアを一段階上げて一気にスピードをあげ、学校を目指した俺の力作である改造ギアのおかげで自転車はほぼ車と同じ位のスピードがでる



当然運転の難易度は高くなるのだがこの俺がそんなところの訓練を怠るわけがない


この自転車のギアは50段階までありだいたい10辺りが普通の自転車の速度となる


ギア1で登れない坂はないし、ギア50では時速250kmで走ることができる超ハイテク自転車だ


もちろんだが一般人に乗れる訳もなく俺が2年間修行してやっとのりこなした



ってなことを言っているうちに学校に着いた


まだあと五分も時間があまっている



俺は自転車を駐輪場にとめ、快と麻由と三人で教室を目指した


教室に向かうにはグラウンドを横切らなければ行けないが今日は少しグラウンドの……いや、学校そのものの様子がおかしい



何故だろう?



後五分でHRが始まるというのに沢山の生徒がグラウンドでサッカーやテニス、バレーなどをして一向に教室へ向かう気配がない



ふと教室まで目線を変えてみた



数々の生徒が窓際でお喋りをしていたり教室の中を走り回っていたりしている



そう…まるで休み時間や昼休みのような自由な時間………そんな感じだ



キーンコーンカーンコーン



よれいがなった、これでは流石に皆教室に戻るだろうと思ったがやはりそうは行かなかった



誰もがよれいを全く気にせず自分達の時間を楽しんでいた



『どういうことだ?』


快『なんか変だね』


麻由『まぁいいじゃん♪皆気にしてないみたいだし☆ゆっくりいこ〜♪』



『そ…そうだな』



よくよく考えてみればこうなったのも何らかの理由があるはずだ


とりあえず教室へ向かってみようなにかわかるだろうしな『とりあえず教室に行ってみるか』


俺は振り返って快と麻由に言った



つもりだった



しかしそこには二人の姿はなく、かわりに

「クラスで目立たない女子」がいた


俺はふと下駄箱の方をみたが二人はすでに上履きに履き替え、教室へとつながる階段を登っていた


クラスで目立たない女子『そ……そうだね』


……………あちゃー



恥ずかし…



『じゃあ……行こっか…』


うん…突き通そう…それがいい…それが最善の選択だ!間違いない


クラスで目立たない女子『あのぉ…』


『ん?なに?』


クラスで目立たない女子『水沢君私の名前知ってる?』


………知らない


俺の頭の中ではもうすでに

「クラスで目立たない女子」で定着してたからなぁ……え〜とたしか吉川か谷田だったと思うんだけど……


クラスで目立たない女子『玉木瑠璃だからね』


『わ…わかってるよクラスメートだしな』


あっぶねぇ〜マジで言わなくてよかったマジで



『そういえば玉木さん今日は学校来るのやけにウゴガァ!!!』


何者かに背中どつかれた、誰だ!?


拓海『よう!光ちゃん』


お前か……


『ゴホッ…よう』


瑠璃『おはよ拓海君』

拓海『何やら珍しい組み合わせだな』


『まぁたまにはな』


拓海『ほぉ〜』


瑠璃『じゃあわたし友達が来たからいくね』

『あ…あぁ』


拓海『おぅ!またなぁ』


瑠璃は一度手を降って女の子グループの中に溶け込んで行った、その証拠にもう何処にいるのかわからない…ホントに地味だ


ふと意識を拓海に戻すと奴は俺になにか聞きたそうにしてやがる


拓海がなにやら考え付くまでに何とか先手を取っておく必要があるな


『チャリどんなかんじだ?』


よし!


拓海『おぅおぅやっぱりお前に頼んだら違うねぇ。ギアチェンジの違和感がまるでねぇよ』


『やっぱそうか。まぁ教室行きながら話すか』


拓海『だな』


よし!完璧だ危ない橋だったがなんとか乗り越えた。それにこいつには聞きたいことがあるしな


『なぁ?なんで今日は皆遊んでるんだ?』


拓海『さぁな…まぁ大体予想はつくけどな』


『?』



拓海『まぁいいやとりあえず教室行けばわかるだろ』



『そうだな』



拓海『ところでお前瑠璃となに話してたんだ?』



ちくしょー


『時間割だよ時間割』


拓海『ほぉ〜』




拓海『まったくお兄さんもお若いのに大変だねぇ…こんな朝早くから学年美人を三人も…』



教室前の廊下に差し掛かったところで拓海が元気にちょっかいを出してきた


『だから誤解されるからやめてくれ、お前が冗談で言ってるのはわかる、だからわざわざ女子のお話グループとすれ違う時に言うのはやめてくれお願いだから…』


拓海『わかったから……な?そんな今にも泣きそうな顔で言うなよ………な?わっ!ちょ…泣くなって……俺が悪かったからな?泣き止めよ』



『いや、泣いてねぇよ!だから人が勘違いするようなこと言わないで!』


拓海『わりぃわりぃ』


そんなこんなで俺達が教室に入ってみると自分達の机の上に一枚ずつプリントが置いてあった


それは

「本日職員緊急会議により午前中までの授業とする。会議の都合で全授業自習とする。自習の科目は個人に任せるが、真面目に取り組むこと」

といったものだった



そうか、だから皆真面目に元気に体育の自習をしているわけかぁ…


そっかぁ…まぁだれも間違ってないけど…なんかなぁ…



拓海『よし!光ちゃん、バドミントンやろう!バドミントン!』


『おぅ』


まぁせっかくの機会だ楽しんでいこう


『そういえばさぁ』


俺は体操服を着て、グラウンドに向かう準備万端な拓海に問いかけた


拓海『ぁん?』


『緊急会議ってなんだろうな?誰か捕まったのか?』



拓海『いや、多分あれだろ』


『あれ?』


拓海『世界中を揺るがす大事件だったからなぁ…』


『なにかあったのか?』


拓海『やぁっぱり光ちゃんは知らなかったか、そうだよな……』


『何だよ』


拓海『いや、光ちゃん家、朝は絶対テレビ見ないから知ることが出来ないんだ。まぁ仕方ない』


『だから何があったんだよ?』



拓海『…………殺されたんだよ』



その一言で俺の体の全ての毛穴から冷たい汗が吹き出るのを感じた


『だ……誰が?』


拓海『天上陛下だよ』

『………マジかよ』


拓海『もう世間は大混乱だ…新聞は全面その記事だし、テレビは全て同じ放送だ』



『いったいなんで…』


拓海『俺の裏最有力情報によると日本は影で戦争を繰り返してたらしい』


『どこの国と?』


拓海『たしか北超鮮だったと思う』


『ってことは日本…負けたのか…』


拓海『あぁ…』


『これから多分大変な世の中になるだろうな…』


拓海『少なくとも今までみたいに遊んではいられない毎日が待ってると思う』


『自分の身は自分で守らないとな…』


拓海『だから…』


『ん?』


拓海『だから今の幸せを噛み締めておこう…それが一番だ』


『だな』


拓海『とりあえずバドミントンだ!バドミントン!』



『おぅ!』


俺と拓海はグラウンドに走った…今の現実から逃げるように俺達の…おそらく最後の遊んでいる時間は刻々と過ぎてゆき、ついには終わりを迎えた



拓海と俺はなかなかの勝負を繰り広げ、数人のギャラリーがつくほどだった



いや、ギャラリーではない…よくみると金のやり取りをしている…賭けてやがったか!ごめんな…俺に賭けてくれたやつ…


拓海『よし!かえるか』


『だな』


俺達がバドミントンのラケットと羽を片付けていると後ろからつっつかれた


『っぃて』


麻由『へへ〜』

麻由と快だった


『麻由か』


拓海『ヤッホー麻由ちゃん』


麻由『ヤッホーたっくん』


快『もう帰る?』


『あぁ』


快『じゃあ帰ろう』


『そんなに急ぐことはないだろ』


快『…………』


『わかったわかった!しゃあない行くか』


拓海『おぅ』


『お前今日チャリか?』


拓海『あぁ』


『ひとりたのむ』


拓海『りょ〜かい!麻由ちゃんのる?』


麻由『おねがいね♪』

『じゃあ行くか!ほらのれ快』


快『ちゃんと運転してよね』


『あいあい』


快『ちょ……ちょっと早くない?』


『普通だろ?』


快『で…でも学校来るときはもう少し…』


『そりゃあ三人も乗ってればスピード落ちるよ』


快『それはそうだけど…』


無理もない…いまのギアは30


だいたい約時速80kmは出ているから慣れないこいつからすればまぁ早いわな


俺がいつも拓海と一緒に行動するときはこれ位で走ってるけど普通の自転車の速度じゃありえないスピードでぶっとばしてるからさぞかし怖いだろうな


ほとんど抱きつかれた形になってる



『なぁ…運転しづらいんだけど』


快『じゃあスピード落としなさいよ!!あんたは普通に乗ってるけどあたしからすれば半端じゃないんだから!!!』


『よこみてみ?』


快『え?』


その横で麻由が平然とハブの上に立って時速80kmの世界を堪能していた


麻由『お〜い快ちゃん』


快『………』


『スピード、落とすか?』



快『……いい』

快は恐る恐る背筋を伸ばしてみようとしたらしいが失敗に終わり、俺に抱きつかれた形に戻り、静かになった


そんなこんなで拓海のスーパーに到着し、拓海と別れを告げた拓海『今日は肉、いらねぇのか?』


『おあいにく様今日はチャーハンだよ』


麻由『チャーハンか……』


快『チャーハン…』


拓海『チャーハンだってよ』


麻由&快『……』


『え?なに?嫌なの?』


麻由『べつにぃ』


『ちなみに今日俺が作るからな』


快『…………』



『うん…快…そんな顔しないで…』


麻由『……は…はは…』


『作り笑い……やめて…』


拓海『だから泣くなって!な?』


『だから泣いてねぇよ……あれ?…涙が……くそ…止まらねぇ…』


快『………』


麻由『……』


拓海『……』


『…………』


……………



はぁ…


快『…帰ろっか』


『…うん』


麻由『…もうすぐそこだし歩いて帰ろ』


『そうだな』


快『チャ…チャーハン食べたいな…』


麻由『そ…そうだね』

『今日…昨日の残りのすき焼きでいいか?』

快『残念だけどしょうがないね!』


麻由『あぁ〜あチャーハンたべたかったなぁ』


虚しくも悲しい会話が俺達を包み込み、家についた


俺が自転車の鍵をかけ、家に入ろうとした瞬間、俺より先にドアは開いた母『光!!!よかった!!きなさい!!!』


『な、何だよ!?』


俺は引っ張られながら家に入っていった


母『いいから早く』


『なんなんだよ!?』


母『父さんから電話よ!話はそのあとするから急いで!!』


『はぁ?ってことは病院から?』


母『いいから』


俺は言われるがまま受話器を取った


『もしもし?』


父『ゴホッ…光也か?』


『!?……あぁ』


親父の声はあきらかに様子がおかしかった


息づかいは荒く、今にも死にそうな声だ


『おい…どうかしたのかよ?』


父『なぁになんでもない……気にするな』


『でも…』


父『いいか光也?』


俺に被せて少し強い声で親父は話した


『何だよ?』


父『お前も勘づいていると思うが父さんとお前の会話は多分これが最後だ……』


『なに言ってんだよ…』


父『お前にはせめて普通の生活をさせてやりたかった……すまないな…』


『どういう意味だよ!?

父『父さんの部屋に戸棚があるだろう?その戸棚の下に鍵がある…その鍵を使って一番上の引き出しを開けろ…その中に封筒が入っている…それを見れば全て分かるだろうからな』


この時の親父の声は何だか悲しげなものだった


父『じいちゃんちがあったろ?あそこは滅多に人が来ない…とりあえずはあそこで何とかしなさい……』





『どういうことだよ!?わけわかんねぇよ!?一体何が……』



父『お前は生きろ』



その時受話器の後ろから鈍い音がした


親父が持っていた受話器が落ちたのか激しい雑音がなり響き、そのあとからは数人の男の話声が聞こえたが聞き取れなかった


男は電話がまだつながっていることに気付き、受話器をもどした


俺はただ呆然と立ち尽くし、頭の中を整理した


母『光!!早くこの荷物を持って逃げなさい!!』


俺はハッと我に帰った

母は電話の内容が聞こえていたのか茶封筒をもっている


快『なんで逃げる必要があるのよ?』


横にいる快は混乱していた


『快…麻由…お前らは小乃を連れて逃げろ…』


快『だからなんで!?』


『多分母さんが持ってる封筒に全部書いてある』



そのとき外から自転車のブレーキ音が聞こえた



拓海『光ちゃん!!』


『拓海…ちょうどよかった…裏庭にリヤカーがあるからこの三人を連れて逃げてくれ…じいちゃん家分かるだろ?』



拓海『わかった!お前はどうすんだ?』



『すぐに行く』


拓海『……了解…さっ行こう!麻由ちゃん、快ちゃん、あと…小乃ちゃんかな?』


いつの間にか俺の足にしがみついていた小乃はコクリと頷いた


母『はい!これ荷物!!絶対に帰って来ちゃダメよ!!!!良いわね!?』


快『叔母さん…』


母『早くいきなさい!!私は大丈夫だから』


拓海『さぁ行こう!!』

快達は拓海に連れられじいちゃん家に向かった拓海の視点快『ねぇ?光也どうしたの?』


拓海『多分親父さんになにかあったんだろうな』


快『じゃあ光也は…』

拓海『多分病院に向かったはずだよ』


快『でも危ないんじゃないの!?あの様子だとただ事じゃないわよ!!』


拓海『死にはしないから大丈夫だよ』


拓海は笑って言った


快『なんでさっきからそんなに落ち着いてられるのよ!?』


拓海『だって光ちゃんがそこらの奴に負ける訳がないしね』


快『嘘!!あたしに腕折られたような貧弱なのよ!?』


拓海『その時まではね』


快『え?』


リヤカー自転車はカーブに差し掛かりスピードを落とした


拓海『その日から光ちゃんは強くなったの』


快『どういう意味?』


拓海『まだ子供とはいえ同い年の女の子に腕折られて入院するような我が子をそのままにはしないでしょ?』


快『………』

拓海『光ちゃんはそれから5年間みっちり親父さんに鍛えられたんだよ…恐らく影で危ない仕事をしていた親父さん流の拳法をね』



快『…なんであんたがそんなに詳しく知ってんのよ…』


拓海『ん?あぁその修行の相手、俺だったからね』


母『父さんとこいくんだろ?』


玄関前で母は言った


『あぁ…』


母『ちょっと来なさい』


『?』


母は自分の部屋に俺を呼んだ


『何だよ?』


なにも言わない


ただ無言で何かゴソゴソ戸棚の中をかき回している


すると突然立ち上がり、今度はじいちゃんの仏壇がある部屋に誘導した


『何がしたいんだよ?』


母『そっちもちな』


母はじいちゃんの仏壇の左側の取っ手を握っている…俺が持つのは右の取っ手と言うことか…


俺は言われるがまま握った


『どうすんだよ?』


母『せぇので引くよ』

『?』


母『せぇの!』


勢いよく仏壇を引いた、すると仏壇はゴゴゴゴと音を立て、手前に外れたではないか


絶対じいちゃん怒ってる


仏壇のあとのぽっかりと空いた空間の奥になにか見える…


すると母はその空間に入り何かしていた


カチャッと


鍵の開く音がした


金庫のようだ


母はその金庫から長い箱を取り出し、埃を手ではらった


母『もってきな』


『何だよこれ?』


俺はその箱をそっとあけてみた


薄く白い和紙に包まれたものを丁寧に開け、袋から出してみた


『……日本…刀?』


母『じいちゃんの形見だよ』白銀に輝く刃に漆黒の鞘の紛れもない日本刀だった


母『じいちゃんと父さんはあらかじめこの事態を予測していたみたいでね…こうなったらあんたにってね…使えるだろ?』



『あ…あぁ…』


そういうことか…


確かに女の子に負けたとはいえ幼い頃からの鍛えようは異常だった

当時それが普通だと思ってた俺は気にも止めなかったが今考えれば凄いことだ


母『いくんだろ?』


『あぁ…』


母『気を付けなよ』


『あぁ…』


母『あんたもわかってると思うけど……もう会うことはないと思う』


『……』


母『絶対にここに帰ってきちゃダメだからね!!あんたはあの子たちを守って行かなきゃなんないんだからね』


『あぁ…わかってるよ』


母『じゃあ行って来なさい!!すき焼き作って待ってるからね』


『……ああ!!』


俺は家を飛び出した


母の顔は最後まで見ることができなかったがだいたい想像がついた…


ギア・50


俺はMAXスピードの自転車またがりペダルを踏んだ…親父のもとに向かうため…快『おじいさんの家って一体何処なのよ?』

リヤカーに揺られながら快は聞いた


拓海『ん〜たしかこの先の港から沖にまっすぐ行った島だったかな?』


快『し…しまぁ!?』


拓海『島』


快『ど…どうやって行くのよ?』


拓海『ん〜その辺のボート盗んでいくかな』


快『あんたなかなか悪いのね…』


拓海『だってこの事態だよ?良いも悪いもないっしょ?』


快『そうそう…さっきから聞きたかったんだけどさぁ?あんた何でさっき家に来たわけ?』


拓海『そりゃあ逃げるためだよ』


快『逃げる?』


拓海『あれ?聞いてないの?』


快『なにを?』


拓海『今の現状』


ちょうど港に着き、リヤカーから下りて話を聞こうとしたが、さっきから麻由と小乃が妙に静かだ。ふと目をやると二人は気持ち良さそうに眠ってやがる


快は色んな意味で尊敬の眼差しを送った


快『麻由〜ついたよ〜』


小乃『ついた〜?』


快(おぉ小乃が先に起きた)


快『麻由!』


麻由『ぅ〜……』


快『起きたね』


麻由『ぅぇ…』


快(違う……酔ってる!!)


麻由『快ちゃぁん…』

快『…なに?』


麻由『袋ない〜?』


快『すぐそこが海だからいっといで』


麻由『ぅぁぃ……』

麻由はよろよろしながら海辺に行った。そのうしろを小乃がおもしろそうに着いていったが、しばらくしてから青ざめて帰ってきた


快『お帰り』


小乃『小乃絶対お好み焼き食べない』


快『……忘れなさい』快『それで、あんたはなんで家に来たわけ?』


拓海『まぁ簡単言えばそっちの家と同じ展開だったよ』



快『じゃあ状況ってどういうことよ?もったいぶってないで早く言いなさいよ、じれったいわね』


拓海『わかったから!そう焦らないで』


快『………ふぅ』


拓海『…とりあえず詳しい事はこの書類に書いてあると思う』


拓海は親父の書類に指を差した


快『じゃあはやく見ましょうよ』

拓海『一応光ちゃんの持ち物だから光ちゃんが最初に見るべきだからね、あとにしよう』


快『まぁそれもそうね』


拓海(まぁこれは素直に受け入れたね…ダメだったらどうしようかと思った…)


快『とにかく今の現状をあんたが知ってる限りでいいから教えなさいよ』


拓海『それより麻由ちゃん大丈夫?』


約10m離れたところで麻由は海にイケナイものをぶちまけていた


慣れたのか小乃はその様子をまじまじと見学し、時々気持ちの悪そうな顔をしていた


快『大丈夫よ、いつも車とかでもあんなだから』


拓海『ふぅ〜ん』


快『それで現状は?』

拓海『あぁ…天上陛下が殺されたのは知ってるだろ?』


快『ええ』


拓海『殺した犯人………いや、殺した国は北超鮮だってことは聞いてる?』


快『それは初耳ね』


拓海『おそらく日本は戦争に負ける』


快『その前に戦争してたのね』


拓海『まぁ…ね…それはいいとして、拓海『負けた国は相手国に従わなければならない』


快『そりゃあね』


拓海『おそらく今度はアミリカの時みたいには行かないだろうね、北超鮮の兵隊が来ることはもう分かりきってるし』


快『…』



拓海『必ず捕まる!


快『!!』



拓海『大人はもちろん働かされるけれど、女の子や俺と光ちゃんみたいな普通じゃない人間はどうなるかわかる?』




快『女の子はまともな扱いを受けるわけがないし、あんた達は殺されるでしょうね』


拓海『そう!物わかりがいいね』

快『ありがと…もう大体分かったわ…要するにその事態を予測したあんたの親と叔母さんはあたし達を逃して生き延びさせようとしたのね』


拓海『そう…俺が分かるのはこれくらいかな』


快『多分…』


拓海『?』


快『お母さんも同じ事にすこし早く気付いて私たちをこっちに行かせたのね…』


拓海『…………おそらくな』



そうしているうちに船の準備は整い、あとは俺を待つのみとなった 時速250km


大体新幹線くらいのスピードを考えてもらうとわかりやすいと思う


俺は病院までの最後の一直線をギア・MAXでぶっとばしている真っ最中だった



親父の病院は三階の真正面



俺は時速250kmのなかペダルを固定し思いきりハンドルを手前に引き寄せた


すると自転車の前輪は宙に浮き、ウイリー状態となった



俺はそのままのスピードで病院前の駐車場にある斜面から飛び上がった


超高速のまま空中に投げ出された自転車のそのスピードはやがて重力に操られ親父の病室の窓ガラスを突き破った

ガラスの破片が頬をかすり血が伝った


すぐに先頭体制に入ろうと刀を腰にさし、周りを確認しようと見渡せば大変なことに気が付いた



親父は俺に電話をかけてきた、ということは親父が電話のある所にいることは明白だ


ここまでは馬鹿でもわかる。ガキでもわかる。



しかしここからが問題だ、この三階は手術室や集中治療室があるため、病室に電話がない…



つまり…



親父の病室は移動となり、別の階になったと言うことだ



……………



俺は全ての覚悟を決めて左にあるベッドをみた



…………おじいさんが大口あけて驚いている……



するとおじいさんの目が虚ろになりだした



まずい!!!



『だめだ!!おじいさん!!死んじゃだめだ!!困る!!』



おじいさんは我に帰り血の気を取り戻した



『…よかった…大丈夫?おじいさん?』



おじいさん『……あんた誰じゃ?』



よし!大丈夫!



『じゃあ俺急ぐからおじいさんさよなら』



おじいさん『あぃ気をつけてなぁ』



おじいさん……長生きしてくれよ…


おじいさん『あぁ…待たれい兄ちゃん』


ん?


『すみません軽く急いでますんで…』


おじいさん『はて?元この部屋の奴のことでかな?』



!!!



『………すみません…よく聞こえませんでした…なんですって?』



おじいさん『この部屋には電話がないのぉ…』



ドアノブに伸ばしていた手を離し振り返る…ドアには鍵がかかっているのに今気が付いたがもうどうでもいいことだった



『おい糞じじい…』

おじいさん『ん?なにかな糞餓鬼』



『事情はよく知らないがその布団に隠した何かを見るかぎり敵だよな?知ってる事を洗いざらい吐いてもらう』


おじいさん『ほぅ…気付いておったか…そうかそうか…正解じゃ…もはや糞餓鬼の域を凌駕しておるな……嬉しい限りじゃ…言葉を改めよう…楽しませて貰おうかな…コワッパが』



『御託はいい…親父について吐けるところまで吐いてもらう』

おじいさん『コワッパがいきがりおって……ジジィを舐めてもらっちゃあ困るわい…』


おじいさんはゆっくりとベッドから起き上がり、布団の中から得物を取り出した



おじいさん『わしの愛刀じゃ』



それは刀と言うよりむしろ金棒に近かった



おじいさん『この刀はな……普通叩き、鍛え、磨ぐはずの鉄をあえて磨がずにそのままにした物でな…ちと重いが威力は化物並みじゃ』


確かに…布団の中だからわからなかったがこの刀……ゆうに150cmはある、そのうえ太い…ただならぬ威圧感が出ているが、それは刀のせいだけじゃないだろう……この老人……こんな大刀を楽々と右手一本でもっている


ただ者ではないことなど一目瞭然だ


おじいさん『そちらの刀はそれかな?』



俺の腰に下げた刀を指差し、老人は尋ねた



『あぁ…まぁ使うのは今日が初めてだがな…』


刀の鍔を親指でゆっくりと押し抜き、その刃を見せつける



おじいさん『ほぅ…刀の扱い方や仕草を見る限りただの武器を持ったコワッパじゃあないのぅ…』



『ちょいと複雑な環境で育ったからね…』



おじいさん『思い出すのぅ……若き頃のわしの全盛期を……ちょうどお前さん位の歳じゃった…』



俺と同じ位の歳というと引っ掛かるが、おそらく昔アミリカと戦っていた頃だろう



おじいさん『さて…始めるとするかの』


『だな、お喋りが過ぎた…その続きはまた今度ゆっくりと聞かせてもらうとしよう……ただし…あんたが生きていたらな……』



おじいさん『コワッパに負けても困るんでな…こっちも本気で行かせてもらうわい』老人は刀を両手で持ち、切っ先の延長線上に俺の眉間が来るような構えをとった



『剣道形か……』



おじいさん『あぁ…しかし…そちらのはあまり見ないな……自己流かな?……いや、殺人剣か…』


俺の構えは刀を片手で持ち、半身をいれ、延長線上が相手の膝下に来るような構えだ



『自然にできた構えでな…俺もよくは知らない』



おじいさん『まぁ良い……さぁ…先手は譲ろう…いつでも来なさい…』


『あぁ…そうさせてもらうよ』


言葉を言い切るまえに俺は切りかかった


まずは相手の左目に向かい振り下ろすフェイントをいれ、そこから軌道をかえて右脇腹を狙う…これからの反応で相手の力量を測るいわば様子見の技……さて…どう来るか?



おじいさん『……ふぅ』



なんと老人はフェイントを見抜き、あえて動かず右脇腹に振り下ろした刃を止め、そのまま刀に沿い俺の懐に一瞬で入って来た



『……くっ!!』



俺はとっさの出来事に戸惑い刀を引くがもう遅い…老人はすでに柄で俺のアバラ骨に一撃を加え、ゆっくりと身を引いていく



『……ガハッ!!!!』



呼吸が苦しい…息をするたびに激痛が体を駆け巡り、体力を奪う



『…ク……ソが!!』



おじいさん『…つまらんな』



ゆっくりとまた同じ場所に戻った老人は呆れ果てた様子で呟いた



おじいさん『わたしは君を過大評価しすぎていたようだよ…残念だ……骨まではいたっておらんから安心せい…』



確かにその様だ…さっきまでの激痛はすでに八割がた治まり、また普通に呼吸が出来るようになっている



『さっきの一撃で決めれば良かっただろう…どういうことだ?』



おじいさん『コワッパが…大層な口を叩くからどれほどの物かと思えばこの程度とはな……わしは楽しませろと言ったのだがの…』



『質問に答えろ…なぜ止めをささなかった?』



老人は咳払いをして呟いた



おじいさん『このまま終わって何が楽しい?わしもあんたもじゃ…戦いとは楽しむものじゃろ?ちがうか?』



『さぁな…色々なものがあるんじゃないのか?』



おじいさん『そうにしたって楽しければ損はないじゃろう……それに…わしにとってもあんたにとってもこれが最後の戦いかもしれぬ…ならば楽しむ…そうじゃろう?』



驚いた……この老人は死の覚悟を通り越していわゆるスリルを楽しんでいる…


命がけの戦いの中でその危機感を楽しむ…それは同時に自分の命を楽しさだけの為に燃やし尽くす……正に武士……何故だろう……その感覚は俺の中にも多かれ少なかれ存在するような気がする…



この戦いはお互いの意地と意地の勝負……取るか取られるか、そんな中にチマチマしたフェイントなどを入れた自分が恥ずかしい……とりあえず命の取り合いに遠慮はいらない、この危機感を楽しむのもあながち悪くはなさそうだ…


『一つ謝罪しておこう』



おじいさん『なにかな?』



『この戦いに小賢しい小細工を持ち込みすまなかった……詫びに…この戦いを楽しむことに全力をつくそう』


俺は刀の鞘をベッドに置き、いつでも切りかかれるように構えなおした



今度は相手を殺す為の構え…



まさに心が踊る……全身の筋肉に力が入る……身体中の全神経がこの老人を殺す事だけに集中している……



おじいさん『ほぅ…いい目だ…ならばわしもそれ相応のもてなしをせねばならぬな』



そう言ったからには何か構えが変わるかと思ったら先ほどと同様の構えをとってみせた…


しかし先ほどとは明らかに違う物がある



殺気と威圧感だ



まさに俺を殺すことだけを考えている………何故だろう…この危機感を俺は楽しんでいる


心臓が爆発しそうなほど高鳴る


全身から汗が吹き出る


おそらくあちらもそうだろう……お互いのフルパワーがぶつかり合う…これほど楽しい事はない



どちらの力が上か、殺気が上か……間違いなく勝負は一撃で決まる!!



今ならはっきりと言える……楽しい…間合いが少しずつ……しかし確実に近くなりやがて剣先が微かに触れる位の距離となった



お互い一歩踏み出せば止めを刺せる位置…決着の時は近い



そんな時、突然の風でカーテンが二人の間に壁を作り、揺れた



やがて風は治まりカーテンがもとの位置にもどる………その時だったカーテンが戻った時にお互いの刀が重なった


全力の力がぶつかり、その全ての力はこの二本の刀に注がれる



フルパワーの鍔競り合いとなり、あとはお互いの刀の耐久力に全てを賭けるしかない


全ての力を刀に込めて、俺は最後の力を振り絞り刀を押し込んだ




その時



俺の刀に亀裂が入った…その亀裂は即座に我が刀身を砕き、刀は折れ、老人の刃が俺の左腕を直撃し、膝が地面に着いた……


止めを刺されるかと思い、とっさに立ち上がろうと手をつくが


『ぐぁぁぁぁぁ!!!』



あまりの激痛に悲鳴を上げた



左腕の骨は見事に砕け、動かなくなっている



終わった……



そう思った刹那



俺の横に老人が血を流し、倒れた



状況が理解できないが立ち上がり、老人の姿を確認してみる



なんとその胸には折れた刀がはねかえり、深々と突き刺さっていた

おじいさん『やられたわい』



『喋れるのか…』



素で死んでるかと思った…



おじいさん『ジジィを舐めるんじゃないわい。たかが刀が胸に刺さった位で即死するほどやわじゃない』



『その様だな…』



おじいさん『まぁじき死ぬがの』



『だろうな』



この老人を殺した…と、言うより戦い、勝ったことに罪悪感はない…もともとどちらかが死ぬ戦いだった…



おじいさん『まぁ死ぬ前に…小僧…腕を出してみろ…』



俺は言われるがまま折れた左腕を出した


一応一瞬警戒はしたが、もとから折れた腕になにかするとも思えない



おじいさん『わしが死ぬ前に面白いもんを見せてやる』



そういうと老人は折れていると思われる所に自分の手をあてた



『なにをする気だ?』


おじいさん『力を抜け…まぁそう固くなるな』



一応力を抜いてみた、すると老人の手がうっすらと光だし、赤黒く変色していた腕がみるみるうちに肌の色を取り戻していく



『……まさか!!』



おじいさん『そのまさかじゃよ…』



俺の骨折が…治った…


おじいさん『どうじゃ?』



手に力を入れてみるが何の違和感もない…むしろ軽いくらいだ…



『なにをしたんだ?』


おじいさん『あんたも聞いたことくらいあるじゃろ?気功じゃよ』


『気功ってあの漫画とかのか!?』



おじいさん『まぁ光線何かは出たりせんが似たようなものじゃ』



………少し期待した



『使えるんだな……本当に…』



おじいさん『まぁ凡人にはむりじゃがな』



『治療も出来るのか?』



おじいさん『当たり前じゃ、今して見せたじゃろうに…それに普通背中に刀刺さってるジジィが喋るものか!!』


あぁ…そういやぁそうだ…



おじいさん『多分あんたもできるぞぃ』



『…!!本当か!?』



おじいさん『現にさっきの一撃でやりとげたじゃろう』



『…?』



おじいさん『……やはり気付いておらぬか…』



いつだ?いつ俺が………つか顔色そろそろヤバいぞ爺さん…



おじいさん『折れた刀があんなに都合よく突き刺さると思うか?』


『……!!』



おじいさん『あれが気功じゃよ』



『どうすれば使いこなせる!?』



おじいさん『そう焦るな…と、言いたい所じゃがそろそろわしもヤバいんでな…手短に説明するぞ』



急いでくれ!!本当に死にそうな顔色になってきた…不謹慎だが頼む!!



おじいさん『まず気功は己の精神エネルギーから来ておる、全てに対する欲が力の源じゃ…あとはその力をどうコントロールするかで全てがきまる…』


よし!!わかった!不謹慎だから口に出さないが死ぬ前に説明してくれてありがとう


それはそうと…


『最後に教えてくれ…』



おじいさん『なにかな?』



『親父は……親父は生きているのか…?』



おじいさん『……そのことか……この病室のあんたの親父さんは…』おじいさん『……生きとる』



全身の汗が引いた……

安心感が身体中を駆け巡る



おじいさん『しかしもうこの病院内にはおらん……』



『……そうか』



おじいさん『アヤツは重要人物じゃ、そう易々と殺しはせんが、あんたに邪魔されるのは少々厄介じゃからな…わしはあんたの足止めじゃったんじゃ…』



『………』


正直そんなことはどうでもよかった…

親父が無事ならそれでいい…



おじいさん『もう……時間のようじゃ…』



『…!!!』



おじいさん『少々喋りすぎた…』



『残り少ない命を……悪かった…』



おじいさん『いいんじゃ…未来ある若者に全てを託してなんの悔いもない……』



『……』



おじいさん『最後によいか?』



『なんだ?』



おじいさん『この刀……わしの愛刀を使ってくれ…あんたの刀は折れてしもうたじゃろ……』



『大事に使わせてもらう』



おじいさん『そしてこれじゃ』



老人は懐から何かを取り出した



おじいさん『このベッドに落ちていた物じゃ……おそらくあんたの親父さんのものじゃろう』



それは間違いなく親父の金のネックレスだった

いつも肌身離さず身につけていたが相当のもみ合いになったのだろう…鎖がひきちぎれている



『そうだ……ありがとう…』



おじいさん『………………』







礼を言った時にはすでに老人はこの世を去っていた快『おっそいわね……』



麻由『そー…ね』



快『あんた大丈夫なの!?』



麻由『うん…もう何もかも出したみたい…』


小乃は麻由の出したものが魚に食われていくのを見て素で引いている



快『……あいつも大丈夫かな?』



拓海『……どうも遅いね』



快『あたし行ってくる!!』



拓海『場所は?』



快『あ……』



拓海はふぅっとため息をつき



拓海『俺が行くからちょっとここで大人しくしててね』



快『あたしもいくわよ』



拓海『だぁめ!死ぬかもしんないよ?』



快『行く!!』



拓海『じゃああとの二人はどうすんの?』



快『それは………』



拓海『だからこそ快ちゃんにはここにいてもらわないと困る』



快はどこか不満げだ



快『……わかったわよ…』



拓海『じゃあこれ貸すから』



拓海は学ランの内ポケットからナイフを取り出した



快『ナイフ?』



拓海『刃は触っちゃ絶対ダメだよ』



快『わ…わかってるわよそんなこと…』



拓海『毒、塗ってあるから』



快『うわっ!!!』



拓海『一撃必殺だから気を付けてね』



快『わ…わかった…』

『さて…どうしたものか…』



老人の遺体が静かに眠るなか、俺は焦っていた



正直このあとの行動を考えてなかった…よくよく考えてみれば一人のご老人を殺したんだよなぁ……やっちゃったなぁ…



俺からすれば

《親父を連れ去った組織の一人と戦い勝った》

だけど世間からすれば

《今日の昼頃都内の病院に入院中の老人が日本刀で何者かによって殺害されました》

だもんなぁ…何とかなんないかなぁ…



とりあえず病院から逃げ出そう、これだけの騒ぎで人が来ないはずもな……い?



俺が窓をぶち破ってからゆうに30分はたっている



それにも関わらずだれもこない



おかしい……しかしこっちとしては好都合逃げさせてもらうだけだ



俺は自転車に乗り病室から外に出たが、やはり人っ子一人いない



とりあえず階段を降りてもっと病室の多い二階にいって見ることにした



自転車で階段を降りるのはすこしダルいがこの自転車なら難なく降りられる



勢いよく二階に降りてきたがやはり誰もいな………いや、違う



よく見ると壁や床に大量の血痕がある…



誰かがこの病院で戦闘でもしていたか?



不安要素が沢山残るけれどまず大部屋を見てみる事にした



二階の一番人が多い部屋だ、だれかいるかもしれない



俺は自転車を飛ばし、ナースステーションを通り越して大部屋へと向かった



すると大部屋の方からわずかに人の気配がする…



俺はほっと一息つき、足を早めた



しかし



大部屋には人はいなかった…



そのかわりに人だったものが無造作に散乱し、部屋を赤一色に染めていた地獄絵図



この言葉が適応するにふさわしい光景だ……


軽く100〜200人の死体がある…



服装の違いから見てこの病院内の全ての患者や医者、見舞人の死体がここに集められている……



『一体誰が………!!』


この病院内にそんなことが出来るのは一人しかいない!!



俺は背中に背負った大剣を見た



しかし刀の刃には血の後すらついていない、柄に巻かれた白い包帯も老人の手垢の汚れ位でとてもこの人数を殺害したとは思えない…


第一老人の服に帰り血は少しも見られなかったし、この刀は切れないじゃないか



したがってあの老人じゃない……と、すると


この病院内にまだ誰かいると言うことになる…この人数を殺したとなると個人じゃない…複数だ



気功で腕が治ったとはいえこの体力で鉢合わせになれば間違いなくあの世逝き……か


…冗談じゃねぇ逃げろ!!!



この体力でそんな奴らに敵うはずはない、逃げなきゃ死ぬ!!!!



俺は病院内を自転車で駆け巡り一階へ繋がる階段を探した



探している途中もどこかに人がいないか気が気ではない



やっと階段を見つけ、降りると言うよりも飛ぶ感じで爆走していた


階段を降りてしまえば後は楽、広い受付ロビーから正面玄関までフルスピードで行けば良いだけだ



しかし



最悪の事態は訪れた…


自動ドアの正面に一人、誰かがいる



そいつは看護婦でも医者でもない、それは確かだった



体を押し潰すような威圧感、あの老人と全く同じ種類の殺気を放っている



この状況で俺に出来ることは一つ、フルスピードで降りきるまでだ



俺はギアを50にセットし、全力でペダルをこいだ



時速250kmでぶつかればいくらなんでもただ事じゃすまない、ドアをぶち破るのは少々キツいがそんなことは言ってられない



あと10m…俺は全ての力をペダルに注いだ



その時、俺のスピードがいきなり鈍った…と、言うより止まったに近い



どういうことだ?



足下に異常が発生したかと思いふと下を見る


そこで信じられないことに気付いた



滴り落ちた俺の汗が宙に浮いている



その時ようやく気が付いた…止まったのは自転車ではなく、俺の時間に対する感覚だ



昔テレビで見たことがある、人が窮地に達すると体内からアドレナリンを大量に分泌して全てをスローモーションに見せると



正にその現象だった



おそらくその原因は正面の敵、覚悟を決めゆっくりと確認する



俺は即座にブレーキをかけた



行動どうこうの問題では無かった、前に立ち塞がる敵の目は人間のそれではない、かといって獰猛な猛獣なんてレベルでもない、しかしそんな事はどうでもいい……何よりも俺は……俺はこいつを知っている…



時間の流れも正常になり、急ブレーキで止まった



震えが止まらない…



俺はもう一度覚悟を決め、改めて対峙した



『なにしてんだ………ここで…』



玉木瑠璃『水沢君こそなにしてるの?こんなところで?』



誤算だった



今の状況で逃げるには〔武器を持った大人数の敵〕のほうがはるかに楽だったのに……



大人数の場合フルスピードでぶち抜けば何とかなるが、単独の敵となると話は違う…間違いなく先ほどの老人レベルの敵が来るか、それ以上の奴しか来ない



まずい…今の俺の体力じゃ老人に勝つどころかそれ以下の奴にすら殺されかねない



絶対絶命……ってやつだ…



《………ぉぃ》


どこかかから聞き覚えのある声がした



『?』



《おい!!》



『………!?』



《コワッパ!!!》



『お…お前さっきの糞ジジィ!?どこだ!?』



瑠璃『…なに言ってるの?』



《頭悪いのぉコワッパ……背中じゃ背中》



『せ…背中ぁ?』



背中と言えば大刀しかない……


瑠璃『だから何なのよ…疲れる…』



《なんじゃ分からんのか…》



『……刀?』



瑠璃『なにがよ?』



『やかましい!!ちょっと黙っとけ!!!』


瑠璃『……』



すねた…それはさておき



『あんた何がどうなってんだ?』



《簡単な事じゃ、死ぬ間際に全ての気を刀に定着させただけじゃ》

『馬鹿かあんたは』



《なに?》



『そんなこと出来るやつがいると思うのか?』




《まぁ…お前さんかお前さんの親父さん位かの》



………



『無理』



《無理なもんかい!!お前さん似たようなやり方でワシを殺したんじゃぞ!!この糞餓鬼が!》



『そんときはそんときだろうがこの糞ジジィ!!あんまふざけてると溶かして別の武器にしちまうぞ!』



《なっ………コワッパが、騙されるとでも思うたか!そんな技術がお前みたいな糞餓鬼に有るわけ無かろうが!生きとる年数が違うわい》



『残念でしたぁ!俺は昔からやたらに変な修行やらされてたからできますぅ〜刀作れますぅ〜』



《あっ!言い忘れておったがワシの声、お前さん以外には聞こえとらんから独り言みたいじゃぞ》



『なっ…!この糞ジジィそういうことは早く言いやがれ恥ずかしい!!』



《そら独り言》



しくった…



『どうすればいいんだよ…?』



無意識に小言になる



《ワシはお前さんの心に語りかけとる、そちらも心の中で返せばよい》



『あぁな………あれ?』



一つの疑問が生まれた


『じゃあさっきはなんで俺にアッサリ出し抜かれたんだ?その言い様だと考えてる事なんかも分かるんじゃないのか?』



《なんじゃ…やっぱり頭悪いのぅ》



腹立つなこのジジィ…あぁこれか!なるほど!



『わかった!つまりあんたに語りかけようという意思で言葉を返せば伝わるっていうことか』



《やっと分かったか》


『つまり手紙を出した返事を手紙で出して答えるみたいな感じか』


《そのとうりじゃ!メールの返信みたいな物じゃの》



(…この糞ジジィ人がせっかく分かりやすいように手紙って言ってやれば思いっきり横文字使いやがって…胸糞わりぃ…)



《なんじゃと?》



(よし伝わった!こんな感じだな)



《……まぁそんなもんじゃ》 (んで、どうすればいい?)


《相手はあやつか…》

老人はやけに静かな返事を返した


(知り合いか?)


《いや、実際に会った事はないがあやつは恐らく…》



老人は言葉を詰まらせた


(なんだよもったいぶって)


《何と言えば良いか…まぁ簡単に言えば人造人間じゃな》


(はぁ!?)


俺は驚きを隠せなかった


(人造人間って…俺のクラスメイトだぞ!?)

《知らんわいそんなこと!この任務の前にリストを見たんじゃ!間違いないわい!



俺はあまりにも現実離れした事が続けざまに起こったことに動揺を隠せなかったどころかむしろパニックにおちいる寸前だった


(勝てるのかよ…)


《無理じゃな》


(だよな、自分でもわかる…)



そこで痺れをきらしたのか玉木は重い口を開いた



玉木『もういい?』


いかにも苛立っている声色だった


『一応聞くがこの病院の人間全員を殺したのはお前か?』


玉木はふぅっと一つため息をついて面倒くさそうに答えた


玉木『あたしはそんなにグロテスクな性格してないわよ』


以外な答えだった


『じゃあ誰がやった?』



(一応聞くがお前じゃないよな?)



《馬鹿かお前は!ワシがそんな面白くないことをするわけがなかろう!!》



(だよな)


とりあえずは老人ではないことがわかった



玉木『ん〜あたしの同類かなんかかなぁ…』


同類?



『人造人間のか?』

玉木『あれ?知ってたの?』


……あ


『………』


《馬鹿もんが…頭悪いのぉ…》


(どうしよ…)



しくぢったあぁ…



玉木『どこから情報が漏れたの?』



まずい…



(どうするよ…)


《しょうがない…正直に言っておけ、何とかなるじゃろ》


(何とかなるったって…)


《もとは自分でまいた種じゃ、自分で刈り取るんじゃな》



面倒なことになった



玉木『とりあえずどこで情報を仕入れたかいいなさいよ』



俺は腹を決めた



『あ…あのジジィに止めを刺す寸前に聞き出したんだよ』



玉木『ジジィって…あぁあいつね、あのバカでかい刀使ってたやつね』



《………》



玉木『あのジジィ…まぁいいわ、あんまり秘密にしておく理由もないし…』



玉木はうまく騙されてくれた



(よかったぁ)


《ヒヤヒヤしたわい…》



(ほんとだよ…)


玉木『それはそうと…そろそろ仕事したいんだけど…』



玉木は面倒くさそうに言った


『仕事っていうと?』


思わず声が震える


それもそのはずだ、次の玉木の回答に俺の命がかかっているとなると震えるはずだ



玉木『そうね…この病院内の生存状況の確認と、見回りってところね』



《よかったのぅ、皮一枚で踏み止まれて》


全身の汗が一気に引いていくのを感じた


(ふぅ…全くだ)



玉木『最後に危険分子の掃除って所ね』


汗復活!!



《………》



(………)



どうしよう…



(どうしよう?)



《わしに聞くな》



(俺…死ぬのかな?)


《馬鹿もん!貴様は危険なのか?よく考えてみぃ、奴が掃除するのは危険分子じゃ!なにも貴様を殺すなどといっとらんじゃろう》



(そ…そうだよな…俺は危険じゃないもんな!そうだよ…なに自分を過大評価してんだよ…恥ずかしい)


『なら大丈夫だな、この病院には危険分子どころかもう誰もいなかったぜ』



玉木『あら、なにいってるの?あなたがいるじゃない』



チクショォォォォォ―――――


《あちゃー…》



(どうしよう…俺危険分子だった…)



《やるしかないかのう…》



(やるったって俺怪我だらけだぜ?)



《それはワシにも責任があるのぅ》


玉木『そういうわけで水沢君さよなら』


『さよならって…』


そういいかけた刹那水沢は殴りかかってきた


『おわっ!』


しかしその拳には大した威力もなく…といっても一般人に比べれば物凄い威力だが、とにかく大した事のなく、折れて刀の鞘で楽々防いだ



(おりょ?)


《?》


(だ…大丈夫かもな…)


《妙じゃな…》


(だよな)


《小僧、油断するでないぞ…あやつ…何かあることは確かじゃ》


(あぁ…分かってる)


俺は折れているが刀を抜き、構えた



《何をしておる?そんなナマクラで敵う相手じゃ無いじゃろう!ワシを使わんか》


(こんな重いの使えるか!)


《気でなんとかせい》


(気で?)



《ワシとてこんな大刀を振り回すほどの力はない…じゃから刀に気を込め、体の一分としたんじゃ》



体の一分…



(ど…どうやって?)


《刀に意識を集中せい!刀を振り回したいという欲を込めるんじゃ》



欲を込める…



(わ…わかった)



俺は刀をおさめ背中に背負った大刀を引き抜いた



玉木『?』



大刀に意識を込める…


この大刀を自分の体にするイメージをした


イメージの中には自由自在に大刀を振り回す自分が思い浮かぶ…



体の力が大刀に注ぎ込まれるのがわかり、異変がおきた〜ここで拓海くんのキャラクター紹介〜



皆さんが気になっているキャラクターの紹介を俺、拓海が行いま〜す



じゃあ今回は俺が個人的に興味があるこのお方から♪



水沢小乃


九才、小学生三年生で身長は平均以下、体重も平均以下ちっさいもんね…都内の小学校に通う予定だったが、本人の引越しでの疲労や、体調不良で来週から登校予定(まぁ今となっては関係ないが…)姉、快と違って虫が大丈夫、特技は魚をさばくこと、得意料理は刺身、生け造り



ん〜俺的にはちっさくて人懐っこくて好きだね



でも小学三年生だったんだ…幼稚園かと思ってた…



まぁ総合評価Aってとこかな♪



んじゃ、また凄いタイミングで来るんでよろしくね〜♪


一言に異変と言っても色々ある。それは大きく分けて二種類



姿形が変わる視覚的変化と、内部の性能、または能力が変わる内部的変化だ



今の状況を説明するなら後者の方が正しいと言える



老人の言うとうり刀に全く重さを感じない



軽く動かしてみて再度認識できたがほとんど体の一分のように動く


『…まじかよ』



俺の中で確かな力を感じた



これが………気



『おい』



玉木『ん?どうかした?』



『あんた、死ぬよ』



俺は一気に玉木の懐に飛び込んだ



玉木『…な!?』



ゆうに10mはある距離をほとんど一瞬で行ける



自分で自分に驚いた



使ってみてわかったがようは刀と同じ要領だ


刀に意識を集中して気を産み出したように、足に意識を集中し一気に蹴りだすことでこのスピードがうむことが出来る



玉木『……くっ』



玉木はいきなり接近してきた俺を横に交わすように距離を取った



玉木『…っはぁ…はぁ…』



『ずいぶん息が上がってるな』



玉木『……ふぅ…気のせいじゃないかしら』


素早く息を整え、いつもどうりに戻していた


『お前、武器は使わないのか?』



玉木『そうね…気功まで使われたらもう丸腰って訳にはいかないわね…』



玉木は制服ブレザーの内ポケットから二つの獲物を取り出し、それを本来の大きさへ組み立てた



『へぇ…トンファーか、珍しいな』



玉木『まぁね』



『でもそれだけじゃねぇだろ、勿体ぶってないでだせよ』



玉木『あ、やっぱり気付いてたんだ』



『まぁな』



最初に見せた殺気をあんな力とトンファーの存在で出せる筈がない


恐らく一番恐るべき力、そして内部的変化形の力だと予想される



玉木『まぁ…あるにはあるけど水沢君にはこれで十分だしね』



『なに?』



玉木『水沢君位ならトンファーだけで事足りるってこと』



『……』


このあま…


玉木『気の使い方まだよく分かってないしね』


『当たり前だ今までこんな力知りもしなかったからな』



そういうと玉木はトンファーを軽く振って準備運動じみた素振りをとり始めた


それだけで俺は一瞬体が凍り付き息づかいが荒くなる



玉木『そう言う割にはいい動きしてたじゃない上出来上出来』



なぜだろう……こいつの言いぐさにどこか違和感を感じる



玉木『まるで自信ありって言うのが見え見えの素人っぽい…いや、ガキっぽい動きだったね』



これだ……この口調



俺が知っている玉木瑠璃とは根本的に違う



あいつはこんな人を逆撫でするような喋りかたをしない



もっとこう…静かな…何というかな…



『お前そんな喋り方だったか?』



玉木『なにが?』



意表をついたかのようにトンファーの動きが止まった




『お前いつも学校でそんなキャラだったか?』



玉木は動揺を隠せていない、まだこの先になにかある



玉木『はぁ?どうでもいいでしょそんなこと!第一言葉遣いなんて簡単に変えられるわよ!!!』



やっぱりなにかあるみたいだ



『目付きまでか?』



玉木『はぁ!?目付き?なにあなた!?なにが言いたいの!?』



玉木の動揺は臨界を超えてもはや暴走しそうだ



『それだけじゃない、仕草や立ち振る舞い、背筋まで全てが俺の知っている玉木瑠璃じゃない、誰だ?お前』



この言葉を境に玉木の様子が変わった



玉木『あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!もう!!うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!!!!!』



驚くほど大きく響く声を発したあと、玉木はトンファーの持ち手のキャップを開け一粒のカプセルを取り出し、同時にある程度の落ち着きを取り戻した



玉木『あんたやっぱり大っっ嫌い!いいわよ、教えてあげるわ』



そういった瞬間彼女の身に恐らく本人にしか分からない異変が起こった



玉木『………ぐっ』



彼女の表情は驚きのものとなり、やがて自然さを取り戻していった


玉木『………はぁ…はぁ…はぁ…』



『どうかしたか?』



呼吸を整え落ち着きを取り戻した彼女はしばらく黙った後答えた



玉木『別に何でもないわ、今までのことも忘れなさい。……まぁいいわ、どうせ殺すんだし』



いちいち尺に触る口調を取り出した彼女はひどく疲れたように見えた



『そうか…』



《小僧!》



(ん?)



《何者かがこちらに向かってきておる……この気はかなりの曲者とみえるわい》



(本当か!?……くそ……まずい)



いまこの状態で増援が来たら間違いなく俺は死ぬ



《それにしても速いわい…時速で言うと軽く100kmはでておるんでは無かろうか…》



(………!!そいつって何か乗り物に乗ってるか!?)



《……乗っとらん…いや、乗っておる!小さいが…車と見える》



希望が見えた



(そうか…ならきっと大丈夫だ)


今の俺は安堵に満ち溢れた顔をしていただろう



こんな状況なのに上を向き笑っていた



まるで気を使わずに体が軽くなるような気持ちだった



《……ばっ馬鹿!小僧!!》



『ん?』



老人の声で我に戻り前に向き治したところで腹部に違和感を感じた


『…う……ぐはっ!!』


(……おい…溝内になにか……ぶつけられたか…?)



返信を待たずに敵の姿を確認したがまるで動いた様子はない



《闘いの最中に気を抜く馬鹿がどこにおるかい!》



(でも…あいつ何したんだよ)



《ワシに分かるわけ無かろうが》



(えー…)



《ほれ、来るぞい》



(あ、あぁ…)



玉木はトンファーをぐるぐる回しながら俺の様子を伺っていた



『おい、今さっきなにを…』



言葉の最中にトンファーの動きが止まり俺のセリフも止まった



玉木はトンファーをその場で引き、思いきり突き出した



さっきは見なかったその動きに、何かがくると直感し俺の体は横に飛んで避けようとした


――が体はさっきと全く同じ何かによって真後ろに吹き飛ばされていた



『……っあが』



何がなんだか分からない



一体あのトンファーから何がでた!?まるでジェット機のエンジンの真後ろに居たような衝撃だった



とりあえず立ち上がった俺は完全に混乱していた




(なにがなんだか訳わかんねぇよ!なんなんだあれ!?)



《わからん…とりあえず気を使っているのは確かじゃな》



(でも気って飛ばしたり出来ないんだろ!?)


《焦るでない落ち着け!!》



(落ち着けって言われても……)



《とりあえず敵を見ろ!全てはそこにあるはずじゃ》



敵を…見る…



やはり玉木はトンファーをぐるぐる回しながら俺の様子を伺っていた



『…………』





トンファーの動きが…



止まった



その瞬間俺の左肩に衝撃が走った



ほぼ関節が外れる寸前まで追いやられ、腰に差していた刀が真後ろへ吹っ飛んだ



『………っ』



《大丈夫か?》



返事をすることが出来ない



肩の衝撃は一気に全身を駆け巡り汗が体をまとう



(……あぁ)



とは言っても正直無理だ



もう息が出来ない…



どんな事があろうと俺はここで死ぬ



体はもう動かないし目が霞む…



次にあのトンファーが止まったら俺はもう耐えられないだろうな……




でも…




この俺をここまでコケにした奴を活かしておいていいのか?



あろうことかこの俺に力半分で来ている奴を活かしておいていいわけがない



なら結論はこうだ



俺があいつを痛ぶって、ひれ伏して、叩きのめす……



なぁ…



それだけだ、簡単じゃないか相変わらずトンファーは回っている



うっとうしい…



いますぐ息の根ごと止めてやる



《おい小僧…お前なにする気…》



(うるせぇ!!黙ってろ糞ジジィ)



俺は老人を黙らせたあと次はあのトンファーを黙らせる事にした



動かない左腕なんて関係ない、右腕が残っていれば十分だ



玉木『あら、ずいぶんいかつい顔になったじゃない』



俺は答えない



こいつは俺に殺される、なら答えたところで意味などない



玉木は怪訝な顔をしてトンファーの動きを止めた



そこから出てくる物のトリックならもう解ける



玉木はソレを打ち出した。きっと奴の予想はこうだろう…腹部にソレが食い込んで俺が膝をついた…そして二回目に見せたどでかいので終わらせる…ってなかんじだ



奴はイメージ道理にソレを打ち出した



『……っ…笑わせる』


玉木の予想は外れた



打ち出したソレは俺の腹部に食い込んむ筈だった



しかしソレはかき消された



位置、距離、タイミング全てにおいて狂いはなかった筈



狂いがあったのは俺の方、打ち込まれたソレは大刀のしのぎによって防がれていた



玉木『……っ…なんで!?』



見るに絶える…



先ほどまで余裕の塊のような顔をしていた奴が今や立派な馬鹿面になっている



『…なんで…だと?』


玉木の顔色が悪くなる



『馬鹿かお前?そんな同じ技を何回も何回も繰り返されて通じるとでも思ってたのか?馬ぁぁ鹿』



玉木の表情に険しさがにじみ出る



玉木『……でもさっきまで全く見えて無かったのに軌道まで的確に…』



『ああ?やっぱり馬鹿だなお前、最初に俺が来たときのこと忘れたのかよ?』



玉木は首をかしげて更に怪訝な顔をしたあと、異変に気付いた




玉木『……もしかして…見えてるの?』



『あぁ!丸見えだよ!!俺は何かとすぐにアドレナリンが出てな、時々スローモーション状態になるんだよ』



玉木『確かに最初の超高速の中でいきなり急ブレーキをかけられる訳がない…その言いぐさだと最初から全部見えてたのね』




確かに…俺は最後の一撃の前に初めて自分の意思でスローモーション状態になった



そしてかろうじて見えたトンファーの角度から当たる角度を見つけて一瞬身を引いた



もしこれが出来なかったら肩は外れていた



玉木『でも…』



トンファーが止まり、玉木は体をひねって大きくモーションを取った



玉木『避けられないくらい大きければ何の問題もないわよね?』



玉木は特大のソレを打ち出した



ソレが自分を巻き込んで吹っ飛ばす前に



俺はその塊を叩き切った




俺の後ろ左右が弾けとぶ



玉木『……なんで…』



『馬ぁ鹿が…そんなもんでこの俺を倒せるとでも思ったのか?』



玉木の額から汗が落ちる



『所詮そんなもの…空気の塊でしかないだろう』



玉木『…』



『体の中の気を一気に腕に集中させて目の前の空気を一気に弾き飛ばす…ソレの正体なんてそんなもんだろ』



玉木『………くっ…』


『もうお前の相手は飽きた、ちゃんと言ったよな?死ぬぞって』



俺は右腕と足に気を集中させて地面を蹴った



一気に距離を詰め、刀を振り下ろす



玉木はトンファーで防ぎに入ったがもう遅い、トンファーごと左腕を叩き折った



からん…と、乾いた音をたてて鉄屑が床に落ちた



しかしその後に鮮血はない



大刀は肉を一切傷付けず骨だけを砕いた



玉木『っ…あぁ…!!』


玉木の顔が苦痛に歪む


俺は殺したつもりだった



理想の中じゃすでに玉木は床に倒れていて血の海に俺がたたずんでいる筈だったが…



『ったく…邪魔すんなよ』



入口には自転車が一台


『拓海』


拓海『ひどい言いぐさじゃないか、邪魔なんかしてないよ』



拓海は明るく笑い飛ばして言った、確かに拓海は手を出していないし止めるように口を出してもいない



『気が散ったんだよ』


そう言いながら玉木の腕に食い込んだ大刀を引き離し肩に担いだ



拓海『それにしても…お前がそこまで怒るなんて珍しいじゃないか?』



『そうか?普通だぞ』


拓海『嘘をつけ!眉間にシワがよってるぞ』


普通とは言ったものの正直普通の精神状態じゃないことぐらい自分でわかってる



そして何より俺の発した言葉に玉木がツッコミたそうな顔をしている、その表情こそが普通とかけ離れたことを物語っていた



拓海『しかし本当に珍しいな、お前がそこまでやるとはな…』



玉木が顔をしかめた



拓海『確か昔ドッジボールで顔面二発連続で当てられたとき以来か』



『やかましい!場を読め場を!』



拓海『確かにな…』



『あぁ…玉木の事も何とかしなきゃならないし…』



拓海『そっちじゃないよ』



場に一瞬沈黙が走る



拓海『玉木さんならわかってるよね』



玉木はいきなり振られて少々戸惑ったがすぐに解説をはじめた



玉木『鋭いわね、水沢君とは大違い』



一発殴ってやろうかと思い拳を握り締めたが、そこで膝が折れ地面についた、もう限界だ



玉木『……私の肉体危険信号が働いたから多分いま援軍が来てるはずよ』





拓海『だろうね、ここに来る途中大通りの方から交通事故らしい騒ぎが何回も聞こえたしね』



玉木『はやく逃げなさい』



妙に暗い声だった



拓海『あんた、自分の立場わかってる?』



と、拓海は腰の後ろから二本の幅広い剣、双剣をとりだした



拓海『いま俺があんたを殺して行っても構わないんだよ?』



拓海の言葉に玉木が反論する



玉木『確かに私には選択権がないかもしれないけど…水沢君にはあるんじゃない?』



俺は無言で玉木を睨み付けた



玉木『だって本気を出せない女の子にそこまでボロボロにされてるんだよ?』



拓海が早い動きで刃を玉木の首筋につける



拓海『俺たちは今お前を殺して行っても構わないと言ったよな?時間的にも問題はないよ』



『やめろ』



拓海が驚いた顔で振り返った



拓海『光也?』



『心配すんな拓海、この俺ともあろう者がなかなか怒っちゃってるから大丈夫だ』


拓海『まぁいいや命拾いしたってことで、大切にしときなよ』



玉木『そうするわ』



拓海はそのまま自分のチャリに手をかけた



拓海『行くぞ、光也』


『あぁ』



俺はすぐそばにあったチャリを取り、拓海と二人すぐさまこぎだした



最後に一度振り向き、玉木を見た



それに気が付いたのか玉木は見たことのない笑顔を向け手を振ってきた



嫌味を込めて手を振り返そうかと思ったが……………やめた



さて…どうしたものか



やっぱり俺は大変な奴に喧嘩を売ってしまったと見える



そう、玉木の振っていた手は俺が奴のトンファーごと叩き折った腕だった



バラバラになった正面の自動ドアを超えて俺は向き直したが後ろからまたあの空気砲が飛んでくる恐怖が襲い、もう一度振り返った



しかし、もう玉木の姿は無かった

拓海『とりあえず逃げるよな?』



拓海が聞く



『あたぼーよ』



俺が答える



大軍『ぅぉらぁぁぁ待ちやがれおまえらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』



軽く百を超えた自転車兵士たちが俺と拓海の後を追って、国道をぶっ飛ばしていた



『なぁ、高校生二人相手に大人気ないよな?』



拓海『あんまりだよこの人数は』



しかし最初に比べれば少し減ったと見える



実力のついていかない低級ライダーは己がスピードに足が絡まり地面にひれ伏すことになるからだ



拓海『よし……』



拓海が腹を決めた



『次の角だな』



そう、この場を上手く切り抜けるにはある一つの方法しかないのだ



ここで作戦を簡単に説明しよう



まず細い脇道に俺たち二人が入って奴らを事故らせる



まさに作戦の鏡のような完璧かつなんのリスクも無いように聞こえるこの作戦…しかし誰もが予想しなかった…いや、できなかった誤算…そう、思わぬ落とし穴はある



残念な事にその落とし穴の原因は全て俺の…いや、俺の自転車にあるのだった



今までこの自転車は時速250kmをだし、階段を利用してあり得ない大ジャンプをするなど、自転車離れした神業を成し遂げてきた



しかしそんな神業にリスクがつかない訳が無かったのだ



俺の自転車には………ブレーキがない



この自転車はもともと普通のママチャリを俺が完全改造して、その姿は警察に見られたら確実に没収物の違法ブッチギリの技物になっていた



ギアを50段階にまでつり上げ、自転車には決して不可能な250kmの超高速に仕上げ、その溢れんばかりのパワーに耐えるべくすべてのパーツを型どり、超合金でコーティングし、ついでに折り畳めるように改造した



しかしここである問題が発生したことにもう気が付いただろうか?


そう、ブレーキだ!250kmに耐えられるブレーキは自転車に付けられる訳がない!



そこで俺は悩んださ…それこそ三日三晩…


この問題を解決するにあたって悩んだ俺はふと近所の河原に散歩にでた


夏の風に吹かれたからか、少しばかり心が軽くなったような気がする



いい気分のなか足元に転がる小石を手にとり投げてみた



石は水面を五回ほど跳ね、草むらに飛び込んだ



すると、石に驚いたのか中から一匹のテナガエビが姿を表した



『ははっ!悪いことをしたなぁ…』



その直後、草むらの中から30センチ程の黒っぽい影が現れてテナガエビはひと飲みにされてしまった



黒っぽい影はゆっくりと味わい、また草むらに戻っていった



『………』



まぁいいや



今度はあっちの木陰に行ってみよう!暑いから少し休みたい



すると、俺の図上をなにか早いものが通過した



『なんだ?』



と、思いつつ姿を追うと、なんのへんてつも無いただのアブラゼミだった



『なんだアブラゼミか……』



そう、この瞬間だった



『ちょっとまてよ!?このアブラゼミとテナガエビ!なにか引っ掛かる…』



激しい違和感、もどかしさが俺を襲う



『………そうか!』



雲が弾けとんだ



『この二匹にブレーキなんてない!いや、必要なかったんだ!!そうか……そうだったのか!!』



これが俺の自転車の新システム、〔ノンブレーキシステム〕の完成の瞬間だった


後の話になるがこの発見が元になり、拓海の自転車に〔オートブレーキングシステム〕が搭載された、それが今の拓海の自転車だ

『拓海ィィ!!いまだぁ!!』



拓海がハンドルごと全体重をうけながし細い脇道を直角に曲がる



するとどうだろう…総勢100人の自転車兵士たちは次々にスリップして転落、更にその転落者につまずき転落するものが後を立たない



まさにこちらの思う壺だった



『上手くいったな』



拓海『あ…あぁ…』



拓海の表情には明らかに疲れが見えていた



俺も拓海自信も分かっている、拓海はもう限界だと



『後は任せろよ、お前のおかげでようやく引きずり出せたみたいだからな』



拓海は声もなく頷いた



『さて…』



後ろを振り返ると沢山の脱落者が山のように重なっている



そのおくに人影が見えた



『出てこいよ、いるんだろ?』



すると奥から男が現れた



全体的に筋肉質で長身、細い目付きにスポーツがりというオーソドックスなスポーツマン



『名前は?』



男は『須藤』とだけ答えた



『この通りを抜けたら国道の一本道がある、俺とお前の勝負だ、これしか無いだろ?』



須藤『ダッシュか……貴様、名は?』



思わず口元がゆるんでしまう



『悪い、申し遅れた…水沢だ』



須藤『リストのダブルSランク……貴様か』


『前々から気になってたんだけど俺ってなに?』



すると須藤は



須藤『太陽系地球内のアジア地方に分布する黄色人種であり…』



『ちょ…ちがうちがうちがう!』



須藤は口元を少しつり上げて言った



須藤『…ジョークだ』


『……』



あ〜…うん、こういう奴なんだな



須藤『知りたいだろうが教えられない。すまないが……』



ここで引き下がる俺じゃない



『たのむよ…』



須藤『済まん』



『お願いだ!』



須藤『……』



俺は地面に膝をついた


『頼む!あんた位しか話がわかる奴がいないんだ』



須藤『貴様の言いたいことはわかる……男が膝をつき頼むことは、それ相応の苦しみだ……私とて心が痛い、だが…済まぬ…』



俺はゆっくりと立ち上がり



『そうか…悪かったないきなり、だけどわかってくれ…訳も分からないまま何度も切りかかられる気持ちがどんなだか…』



須藤は俺の肩に手をかけ言った



須藤『私との勝負の後、私に勝ったらでも良いか?』



『須藤………お前!』


須藤の顔に初めて優しい笑顔が浮かぶ



須藤『正々堂々私に勝ったらな』



『お前…』



須藤は右手を差し出した



この意味は分かる、いやきっと分からない奴はいないだろう



須藤『男と男の真剣勝負だ』



『あぁ!望むところだ』



俺と須藤は男同士の固く、熱い握手を交わした



拓海『いいからはやく終わらせてくれよな暑苦しい、こちとらキツイんだから…』





キツいです

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