実験と成果
実験の準備と第一の仕込みを終えた俺の前にはいつものように青スライムが待ち構えていた。早速と言わんばかりに前進してくる青スライムに対して、俺はこれまでとは違いただ逃げるのではなく、第一の仕掛けに誘導するために直径20メートルほどの半円を描くように素早く移動した。
当然青スライムはこちらの動きについてこれなかったが、俺の動きが止まったのを見るや(どう見ても目はなさそうだが)一直線に進んできた。
20メートル、10メートルと速すぎず遅すぎず、まるでベルトコンベアーで運ばれてくるように正確無比に近づいてくる青色の脅威に対して俺は一歩も動かない。
いや、それどころかこれまでとは違って俺は武器どころか棒切れ一本用意していない。もしこの場に誰か一人でも観客がいたなら馬鹿な奴だと嘲笑されたことだろう。
もっとも、試合前の俺の仕掛けを見ていたら笑われたのは青スライムの方だろうがな。
ズルッ ドスンッ!!
「よっしゃ、掛かったな!!」
そう、俺は対青スライム用の罠、落とし穴を仕掛けていたのだった。とはいえ、決して手際のいいとは言えない素人が体感で一時間以上かけてシャベルで掘って作った素人感丸出しの落とし穴だ。土は不自然に盛り上がっていたし、所々蓋代わりに召喚したブルーシートが土からはみ出している、普通なら罠とすら言えない精々子供のいたずらレベルの代物である。
俺も例えばこれがゴブリンやオークなど生物系の魔物に対してなら落とし穴を掘ろうとすらしなかっただろう。だが相手は知能はおろか目や耳すらあるのかも怪しいスライムであり、習性に従って一直線に相手を狙ってくるしか能のない単細胞である。違和感くらいは感じていてもおかしくはないが、用心して回り道をしようとすら考えなかったはずだ。
そして青スライムは実際に見事としか言いようのない落ちっぷりで罠に嵌まってくれた。
落とし穴の中ではブルーシートが激しく擦れる音が聞こえてくる。おそらく何とかして脱出しようとしているのだろう。スライムの柔軟過ぎる体なら、落とし穴の壁も物ともせずに数秒で這い上がってくるだろう。
これが普通の落とし穴ならな。
今回用意したブルーシートは5メートル四方の正方形のサイズ。落とし穴のカムフラージュのためとはいえ、蓋代わりにしては少々大きすぎる。
それもそのはず、ブルーシートの上にはさらに3メートル四方の布を敷き、そこにはたっぷりとサラダ油を染み込ませておいたのだ。これで落とし穴に落とせばどんな魔物だろうと自力では早々脱出できないだろう。
実際、ブルーシートを突き破らんばかりの派手な音は続いているものの、中から出てくる気配はない。
「とりあえず捕獲は成功か」
当然、捕獲しただけでは俺を異世界に転移させた何者かは納得しないだろうし、俺の仕掛けもここからが本番だ。とはいっても残る行程ははたったの二つなのだが。
俺は青スライムが逃げ出さないようにブルーシートの四隅の穴に召喚したロープを通し固定、さらにブルーシートをロープでぐるぐる巻きに縛って巨大なスライム入り巾着を作り上げた。
そしてマッチを召喚し使用、巾着の隙間から投げ入れ、全力で巾着から離れた。
その瞬間、巾着の隙間という隙間からからすさまじい勢いで煙と火柱が立ち上った。