試行錯誤と天罰
(まずは斬ってみるとするか)
斬撃武器の定番と言えば剣だが、ひ弱な現代人である俺は振ったことはもちろん触ったことさえない。
素人の生兵法は怪我の元だとさすがに気付いたので、一般人でもコツさえつかめば比較的扱え、振り下ろし限定だが構造的にそれなりの威力が出る、現代日本でも主にマキ割りで使われる斧をイメージすることに決めた。
出てきたのは木でできた柄に鉄製であろう刃の部分がはめ込まれた、いかにもうっかり湖に落として女神様に拾われそうな斧だった。
青スライムから距離を取りつつ何度か素振りしてみるが体が泳いでしまう。(重さ的には大体3,4キロくらいか。それにしても金属がついたただの棒なのにこんなに扱えないものか。
ん、そういえばテレビで見た時に蒔割りは斧の重さを利用して振り下ろすんだって言っていたような気がああぁぁぁ!!)
危なかった。気づいた時には青スライムは足元まで迫っており、少々履き潰しかけのマイスニーカーに触れるところまで接近されていた。
慌てた俺は斧を投げ捨てつつバックステップを踏みながら全力ダッシュ。青スライムがハイハイ程度の速度でしか追って来られないのはわかってはいたが、先ほどの死の恐怖心からか必死で逃げざるを得なかった。
「あぶねー!?派手な色のくせにあいつの優秀なステルス性を甘く見過ぎてた。誰だよ!ちょっとかわいいグミとか思った奴は!」何を隠そう、この異世界にたった一人しかいない俺である。
その後、再び青スライムと十分な距離を取り、今度は絶対に接近されないように常に視界に入れるように心がけながら再び斧を召喚、しようとして先ほどの斧が見当たらないことに気づいた。一度例の立て札のところに戻り、この疑問をぶつけてみると、
・俺が召喚したアイテムは俺が不要と感じる、または意識から外した時点で消える
・消えた後も自由に再召喚できる
・ただし、二つ以上同時に同じ種類のアイテムは召喚できない
と表示された。このルールが本当だとすると、どうやら斧の前に召喚してその辺に放置したペットボトルもいつの間にかに消えたらしい。
その証拠に食べ残した例の塊も入れておいたはずのポケットから消えていた。(まあ、その辺に放置していざ戦いの最中に踏んで転んだら目も当てられないからありがたい機能だと思うべきか)
新たにルールを理解したところで試合再開である。(素振りしかしてねぇ)
先ほどの斧を再召喚、テレビの情報通りに刃の部分の重さを利用して振り下ろしてみると見事に真っすぐに地面に落下、先端がわずかにつき立った。
五度ほど同じ動きを反復し少しの自信をつけたところでいよいよ青スライムに接近する。10メートルほどのところまで近づき停止、斧を振りかぶって青スライムが間合いに入ってくるのをひたすら待つ。
青スライムはこちらの意図を知ってか知らずかスピードを変えることなく直進してきた。薄々感づいてはいたが、この青スライムは知性と呼べるほどの頭脳を持ち合わせていないらしい。そして間合いが1メートルを切ったところで斧を振り下ろした。
(よっしゃ!ドンピシャ!)
ブォウン!! ダンッ!!
斧の刃は見事にゼリー状のの体に吸い込まれ両断、真っ二つにされた青スライムは何事もなかったかのように前進し斧をすり抜けた。
「そんなのってあるかああああぁぁぁ!!」
この異世界にきて初の絶叫である。どんな生き物でも体を両断されれば即死する。(なお、この場合クリオネのことは考えないものとする)
少なくともスピードを落とすこともなく元気に前進するのは絶対にありえない。いや、異世界の魔物であって生き物かどうかは怪しいのだが。
某竜の探求のザコっぷりはいったいなんだったのか、決めた、元の世界に帰ったら絶対に某四角の企業にクレームをつけてやる。
再び青スライムにマイスニーカーをペロペロされる直前で斧を放棄し全力でダッシュを始めたところで、
焦りもあったのだろう、
また、敵は青スライム一匹という砂上の楼閣のような思い込みもあったのだろう、
さらに言えば唯一の武器である斧を失って不安に駆られたのだろう。
(よし、まずはヤツの体がどうなっているのか確かめよう。安全第一となると長柄の武器がいいか、槍をイメージイメージ・・・がはっ!?!?!?)
突然後頭部に強い衝撃が来たかと思った時には俺の体は派手にすっ転んでおり、明滅する視界の中では青スライムに取りつかれていることを認識するのが精いっぱいだった。