過去
「俺とお前の父親、ヨセは子供の頃からの大親友だった。俺達が皆と少し違った点は、下界へ行きたがっていたこと。そう、まさに今のお前のようにな。俺らは何とかして下界へ降りる方法を探そうとしていた。下界の存在自体は確認できた。なんたってあの緑に覆われた美しい山が見えるからな。あの山は俺達にとって唯一下界の存在を証明するものなんだ。その時思いついた。禁忌の森を立ち入り禁止にしているのは、もしかしたら下界への立ち入りを禁ずる政府にとって不都合な事があるから何じゃないか、そこに下界への手がかりがあるんじゃないかってね。
俺達はすぐに禁忌の森に入って探検したよ。でもなかなかそれらしいものは見つからなかった。もう諦めようとしてたその時俺達の目の前に満月の光でチカチカと光るものが集まっていって扉が出てきたんだ。満月ってのが鍵だったんだね。
俺達は恐る恐る扉の中に入ったよ。そしたら急に何かに突き飛ばされたような感覚を感じてさ、気づいたら知らない人の家のベッドでヨセと一緒に寝かされてた。
そこに住んでたのは下界の人だった。もちろん鬼なんかじゃなかったよ。年頃の綺麗な娘だった。名前はヘレナ。私達は庭で寝てたらしい。そんでひどい熱だったもんで看病してくれたんだ。見ず知らずの俺達をね。
幾日かたつうちに、ヨセとヘレナは互いに引き合っていた。恋をしていたんだよ。俺だって嬉しかったさ、ちょっと寂しかったけども。
しかし、彼女の民族は皆美しく、体も丈夫な事から奴隷として利用されてたんだよ。ヘレナも奴隷として買われる日が近づいていた。俺達はヘレナを全力で守ろうとした。でもかなわなかった。
次の満月で俺たちは庭に転がってこの国にどってきたよ。ヨセは酷く傷ついていた。
その時から俺たちは誓ったんだ。もう一度強くなってヘレナを助け出して見せるってね。それがヨセの『夢』だよ。もっとも彼にとっては償いであったんだろう。」
夜も明け、窓から光が差し込んでいた。光の当たったフィンの顔が急に大人びて見えた。
「そんな事があったんだ。でもどうして政府は人々が下界の人と通じることを恐れたんだろう。」
「それはまだ分かってないよ。でも子の場所で暮らし始めた俺に会わせないよう、俺を『鬼』にしたってことは確かだ。」
フィンはゆっくり確かめるように言った。
「じゃあ、俺ヘレナさん助けるよ!」
「いや、いくらヨセの夢とはいえ君にそんなことはさせれないよ。」
「でも、助けたいんだ。このことを話したってことはフィンもホントは助けたいんでしょう?」
「アイツに似て、頑固だなぁ。よし、訓練開始だ。」