襲撃
ラアルが次第に森の男と打ち解けていく中、
下界から侵略の魔の手が伸びて...
男の家は質素な作りだった。リビングと玄関は繋がっていて全部で10畳ほど。その上にたくさんの本が本棚に入れてあった。
先程の男を見ると以外にも引き締まった体をしている事が分かった。
「俺の名前はフィンってんだ。坊やの名前は?」
「ラ、ラアル」
今年で15になる自分は坊やなどではないと思いながら答えた。
いったいこのフィンという男は何者なのだろう。
なぜこんな所で暮らしているのだろう。ふと大人達の言っていた鬼を思い出した。
もしこの男が鬼ならばここから逃げなければ。だが怪我の具合から見ても到底逃げ出せるとは思えなかった。
「お前はどうせ俺が鬼だろうとか言うだろうが俺は鬼じゃねぇ。ただし、あの大人達が言う『鬼』とは俺のことだ。でももう分かってると思うがこの森に鬼なんか居ないよ。」
ラアルは自分でも気がつかぬうちに警戒心を解いていた。二人はたちまち仲良くなり、ラアルはフィンに会いによく森へ行くようになっていた。
いずれにせよ、フィンの言っていた大人達の言っていた鬼は俺のことだという言葉の意味は分からなかったが。
ある日、ラアルはフィンの家でこんなことを言った。
「フィンは下界は本当に大人達の言うような恐ろしいところだと思う?」
側で本を読んでいたフィンは打たれたように顔を上げて言った。
「お前は下界に興味があるのか?!」
「い、いやぁ」
このフィンの言葉は尋常では無かった。いったい何をかくしているのだろう。
「ゴール!」
興奮したサモが声を張り上げた。今週はずっと負け続きだ。
みんなが自分の武勇伝を語りながら帰ろうとした、その瞬間だった。
ゴォォォォ!!!!
上からとも無く流線型の巨大な鉄の塊の様なものが降りてきた。
子供たちが騒ぎながら走って行く中、ラアルはそれをずっと見つめていた。しばらくすると村中の大人達が鉄の塊の周りに集まった。
するとガチャっと音がして黒光りの機体に穴が開かれ、中から長身のサングラスをした男が出てきた。
「あ、あんたは何しに来たんだ。下界の者よ!」
村の男が聞き、ラアルは初めてその男が下界の者であることを知った。
男は答えなかった。
穴からもう一人出てきて
「ジャーク将軍、準備が整いました!」
と言った。
「よォし、んじゃぁ突撃開始ぃ!」
穴からは続々と武装した兵が出てきて人々を捕らえ始めた。
村中が抵抗したがそもそもこの国には統率された軍隊などはない。
抵抗も虚しく終わるかのように見えたその時、残った村の屈強な男達が駆
けつけ、兵士たちへの反撃を始めたのだ。
それぞれが妻子を守るための覚悟だった。
ラアルはその中に父親を見つけ引き留めようとした。
「父親らしいこと何も出来ずにいてごめんな。これは父さんの最後の希望なんだよ。お前を守りたいんだ。」
ラアルは泣き崩れ、立ち上がれなかった。
父親は少し離れたあと、声を張り上げて言った。
「息子よ、よく聞け!
お前はよく父さんの下界についての本をよく読んでたな。実は父さん下界に行ったことがあるんだ。そこにある夢を置いてきてしまってなぁ。
詳しくは、禁忌の森にいる俺の親友に聞いてくれ。父さんと別れたら、すぐそいつのもとに行くんだ。そいつとの夢なんだ。
その夢お前に預けてもいいか?」
「...うん!」
本を読んでいたことがバレていたこと、父親が下界に言ったことがあったということ、置いてきた夢が何なのかなんてどうでもよかった。ただ父親を安心させてやりたかった。
「ありがとうなぁ、
最後に言わせてくれ。『男』の夢は終わらねぇええ!」
父親はもう振り返らず、向かって行った。
父親の言っていた親友とはフィンの事だろうか。とりあえずフィンの元へ行かなければ。
父親の最期の姿をしらされたときのフィンの姿は床に突っ伏して慟哭し、悲惨なものだった。
「俺はお前をアイツに託されたんだ。最後まで守り抜く。」
フィンはラアルをつれてどんどん森の中心部に歩いて言ったそこにも、フィンのものであろう家があった。
「ここなら安心だろう。」
暫くの間彼らは隠れて過ごした。外では数日のあいだに村だけでなく国中で殆どの人が人質にされていることも知らずに。
ラアルは聞きたいことを全てフィンに聞いた。
「そうだな遂にお前にもこれを話す時が来たか。」
「長い話になるぞ...」