雲の上の国
ふと前を見ると緑の美しく壮大な山々が広がっている。大きなため息をついて、ラアルは雲の上に寝転んだ。
「おーい!なにさぼってんだ。」
父親に叱られたラアルは仕方なく立ち上がり、雲井戸へ向かった。
雲の上にあるこの国サーヌでは全てが雲を利用して行われていた。水に関しては厚い雲に管を通し冷やして作った水を汲み上げていた。
ラアルの使う雲井戸は、30分ほど離れた場所にあった。バケツを担いで向かう途中、ラアルは右手の薄暗い森を見た。この森は、禁忌の森と呼ばれ立ち入りは禁じられている。この国には、たくさんの戒律があり最も大切にされている者が禁忌の森と下界への立ち入り禁止である。
下界への立ち入り禁止といっても死なずにこの標高の高い地から死なずに降りる方法などあるのだろうかと思っていた。
それにしても、最近のラアルは暗かった。このまま外の世界を知らずに一生を終えるのかと。ラアルは、籠の中に閉じ込められているのが吐き気がするほど嫌だった。
学校では下界と禁忌の森には鬼が住むといわれていて、ラアル程の年の子供は皆恐ろしく思うものである。にも関わらずラアルがそんなことを思えるのは、父親が下界へ憧れているのを知っているからである。
もしラアルが親に下界への憧れを語れば叱られるのだ。しかし、父親は一人の際よく下界のことが書かれた書物を読んでいるのをラアルは知っていた。
水を汲み終わり家に着くと、一息ついた。
よし、これで今日の仕事も終わりだと思い友達と約束したピッチというスポーツをしに待ち合わせ場所へ向かった。
「よォ、ラアル相変わらず疲れてんなぁ」
「お前程じゃないよ、サモ」
10人ほど集まった時、試合が始まった。ピッチとは数個のボールを蹴り合いゴールに入れたチームの勝ちというルールのスポーツである。
試合は2対2のまま滞っていた。
今だ!ラアルはボールを蹴った。
しかし、その瞬間突風が吹きボールは禁忌の森へ入ってしまった。
「おい、どうすんだよ。取りに行けよ!」
彼らは口々にラアルを責めた。
ラアルは、家族に迷惑がかかるのを恐れ、自分でゆっくりと禁忌の森へ入っていった。
森の中は薄暗く湿気が多かった。まず養分を持つ特別な雲が森ができるほど集まっていること自体おかしいのだ。
ビクビクしながらラアルはボールを探し続けた。
「これを探しているのかい?」
あっと叫ぶ前に体が動き逃げ出したものの転んでしまった。
「おやおやそんなに焦らなくても俺はそんな悪もんじゃないよ」
恐る恐る後ろを振り返るとそこに居たのは中年の男だった。
「ずいぶん酷いケガじゃないか。治療しなくちゃ。」
転んだあまりの痛さに立つことすらできずラアルは、男につられて行った。