19.草なぎの剣
いつもの精霊使いの練習している農業用ため池の前に、キリコさんとシンジ君が立っています。2人は昨日の出来事を話し合っています。
「シンジさんもあの神様のヤマトタケルの声を聞いたの?」
「ええ、キリコさんは初めて聞いた神様かもしれませんが、僕ら日本人はヤマトタケルノミコトと言ったら、教科書に載っている位神話で有名な神様です!その神様の声が聞こえるなんて、夢をみているみたいです!」
キリコさんは右手を出しました。瞬きした後には草なぎの剣がキリコさんの右手に握られていました。昔写真で見た草なぎの剣は青銅製でくすんで黒っぽい緑色でしたが、キリコさんの右手にあるのは白銀色をした幅の狭い、スマートなショートソードなのです。
「昨日の夜からこの剣を試しているのだけど、それはバランスは取れてて軽く振りやすいのだけどそれだけなのこん、精霊を宿しても何の動きも変化も起こら無いのこん?」
シンジ君は少し考え、黙って足元に落ちていた棒を構えました。
「キリコさん今から打ち込みますので、その剣で相手をしてください。」シンジ君中高と剣道部だったのです。正眼の構えからキリコさんの脳天めがけて打ち込みます!
「早い!」キリコさんシンジ君の打ち込みの早さに一瞬遅れました。しかし剣が勝手にシンジ君の打ち込みの軌道上に被さったのです!弾けられたシンジ君の棒は粉々になって四方に散ったのです!
「シンジさん今のは剣が勝手に動いたのよこん?」
剣が意思を持っているみたいに相手の攻撃を予想するみたいです。
「キリコさんその剣は絶対防御が出来るみたいです。」
唖然として剣を眺めているキリコさん。シンジ君はボロボロに崩れた棒を見ながら、もしかして?と左手を差し出しファイヤーボールと言いました。小さな火の玉が続々とキリコさんの前に漂っていきます。もう少しキリコさんに近ずけてみます。キリコさんが構えている剣が淡く光りだし、その火の玉を全部吸い込み出したのです。どんどん吸い込みます!
シンジ君はかなり離れて本気でキリコさんにファイヤーボールをぶつけます!上からも下からもシュートもカーブも全て剣が吸い込んでしまいます。
「キリコさん剣を池の中にいる敵がいると思って振り抜いてください!」
「こんっ!」キリコさんは言われた通り池めがけて剣を振り抜きました!
草なぎの剣からは凄まじい数のファイヤーボールが、高速で大きな爆発音と共に池の水を大量に蒸発させたのです!
2人は呆然としてキリコさんが構えている剣をみています。
「キリコさんこの剣は、敵のどんな凄腕の剣士の技を持ってしても全て弾き返し、どんな精霊使いの魔法をも吸収して、相手に数倍にして返すという常識破りの剣です。」
2人はヤマトタケルノミコトと精霊神が作った『草なぎの剣』をいつまでも見ていました。