青年と王
こうするしかなったのだ。
空を仰ぐ青年の手には、血濡れの剣。
地に伏せるのは、かつての栄華にすがりついたままの王。
名君と呼ばれた王は
心優しく、穏やかだった王は
四季を愛し、民を慈しんだ王は
もういない
かつて、緑に溢れ、民も、動物も、植物も微笑んでいた国は、最早、人なのか、動物なのかも分からぬ程朽ちた死体の山とどのように払っても降り積もる灰と瓦礫で埋め尽くされている。
この国には、「死」ばかりが溢れている。
剣を握っている青年は、血に伏した王を見て、涙を流した。
かつては、忠誠を誓った相手。
己の命と引き換えにしてでも護ろうと誓った相手。
だというのに、現実は残酷だ。
彼が討ったのは、己の主。
彼が護ったのは、己の命。
そして、僅かな民の命。
もっと早く、討つべきだったのだ。
もっと強く、諌めるべきだったのだ。
己も共に逝くべきだったのだ。
頬を伝う涙を拭うことなく、青年は空を見上げ続ける。
死者は地に肉体を残し、空に心を渡し、還るという。
彼は、問いたかったのだ。
己の最期の主に。
唯一無二の主に。
何を望んでいたのか。
自分はどうしてやれば良かったのか。
今、何を思うのか。
この問いに、答えてもらえないことも
もう二度と、言葉を交わす事ができないことも
もう二度と、触れ合うことができないことも
彼は、解っている。
降りしきる灰の向こう。
青年を見下ろす様に、淡い光が輝いていた。