侍、現る
2、侍、現る
決着は一瞬で着いた。
男の刀がイタチの鎌を押し返し・・・
ザンッ
男が刀を横に一閃する。それだけだった。
「ギャッ!」
イタチが悲鳴をあげ倒れる。広がっていく血だまりの上でイタチはしばらくビクビクと痙攣していたが、すぐにそれも収まり、動かなくなった。
「怪我は大丈夫か、少年。危なかったな。どれ、ちょっと腕見せてみろ。」
言いながら男は僕に近づき、僕の腕に手を当てると、
「ヒール。」
と呟いた。すると一瞬腕が熱くなり、その感覚がなくなった時にはもう傷は残っていなかった。
「よし、ちゃんと治ったな。でもまだ気分悪そうだな。あ、そうだ!」
男は懐に手を入れて何かを取り出し、
「金平糖、食うか?ほい。」
僕の答えを聞く前に僕の口に金平糖を放り込んだ。口の中に砂糖の甘さが広がる。体中に暖かい何かが染み渡る感覚が広がり、ホウッと息をついた。
「お、ちょっと落ち着いたか?」
男は僕にそう笑いかけてきた。
「はい、あの、ありがとう・・・ございます。」
さっきの恐怖で全然動かなかった口がようやく動くようになり、とりあえずお礼を言う。
「気にすんなって。俺は尾幡虎守だ。まあ気軽にトラさんとでも呼んでくれや。少年は?何て名前だ?それにどうしてそんな装備でこんなところにいるんだ?」
「えっと、ここには飛ばされて?来ました。装備は多分アイテムボックスに入ってると思うんですけど、確認する前に襲われちゃって。あ、そうだ。僕のことはリクと呼んでください。」
「そうか。全然よくわからないな。まあその辺は聞かないでおいてやるよ。それよりもリク、お前アイテムボックス持ってるのか。」
「ええ、持ってますけど・・・珍しいんですか?」
「いや、レベルによるぞ。レベル1は100人に1人くらい持ってるからそこまででもないが。レベル2は500人に1人くらい。そこから上はなかなかいないな。ちなみに俺も持ってるぞ。」
「そうなんですね。」
あれ、僕のアイテムボックスにレベルなんてあったっけ?まあいっか。
トラさんにやり方を教えてもらいアイテムボックスを開き、とりあえず刀と革製の胸当てを装備した。急いだのでちらりと見ただけだが、アイテムボックスには他にも色々入っていた。また後でちゃんと確認しよう。
「あの、トラさん。町に行きたいんですけど、町ってどっちですか?」
「町はここから南西に行ったところにあるぞ。なんなら一緒に行くか?」
「いいんですか!?お願いします。」
「おうよ。どうせ俺も帰る所だったし、ここで別れてリクに死なれても寝覚めが悪いしな。」
「死ぬ前提にしないでください!」
「あはは、わりぃわりぃ。でもさっきお前が殺されかけてたカマイタチってこの辺じゃ低級だぞ?」
「え、マジっすか?」
「まじまじ。」
僕はトラさんに深々と頭を下げ、言った。
「トラさん、町までよろしくお願いします。」
「あっははは。お前、面白いやつだな。おう、任せとけリク。」
「町ってここからどのくらいかかります?」
「近いぞ。歩いて2時間くらいだ。」
「え、遠い・・・。」
帰り道で見かけた魔物はトラさんがほとんど全部一撃で倒してくれたおかげで、丁度2時間ほどで町までつくことができた。刀とか結構重いから途中でバテるかもと思っていたがちょくちょくトラさんが饅頭だの大福だのをくれたので何とか大丈夫だった。トラさん、お菓子いくつ持ってるんだろう?
この2時間でトラさんについても知ることができた。トラさんは23歳のソロ冒険者だそうだ。ランクはB級らしい。冒険者についても教えてもらった。冒険者は基本誰でもなれる職業で、依頼を受けて魔物の討伐などをしているそうだ。この辺は大体想像通りだった。ランクはEからSSSまであって、下から
E 新米
D 一般人
C 実力者
B 一流
A 超一流
S そろそろ人外
SS 人外
SSS もはや神
という感じらしい。SSS級もはや神って・・・。実際の神を知ってる僕からするとなんとも言えない。聞くところによるとSSS級にたどり着いた人はこの200年で3人ほどらしい。それでも3人いるんだね。
そしてこれを聞いてトラさんはかなり強いということがわかった。僕が
「トラさんってすごいんだね」
というと、トラさんは
「よせやい、恥ずかしい。」
と言いつつも結構嬉しそうにしていた。また、僕のアイテムボックスにレベル表記がないことを相談すると、なにかまずかったらしく真顔で
「後でゆっくり話さないか?」
と言われた。魔物を殺した直後で刀から血を滴らせながらだったので結構怖かった。
そんなこんなで町の前までやってきたのだが、そこは僕の想像していた街並みとは大きく違った。トラさんという侍にあって尚、僕は何となく中世ヨーロッパ風の街並みを想像していた。だが町に入る前からでもわかる。そこは中世ヨーロッパなどではない。近世日本、すなわち、江戸時代の街並みだ。なぜ入る前からわかるかって?それは門の向こう側、町の中心にそびえたつ巨大な建造物が見えるからだ。城。それは大きな日本式の城だった。
「なんだリク、城を見るのは初めてか?あれこそが将軍様がお住まいになっている場所、江戸城だ。」
トラさんがどこか誇らしげに言う。僕は驚いて何も言葉が出てこなかった。
「ほれ行くぞリク、そんなに見つめてなくても江戸城はいなくなったりしないから。後でもっと近くで見れるから。ほれほれ。」
江戸城を凝視したままその場から動こうとしない僕をトラさんが引っ張って門の方に行く。
「あ、トラさん!おかえりなさい!・・・何ですかその人?」
若い門兵がトラさんに声をかける。その人もちょんまげの侍だった。
「おう、涼太。ただいま。こいつはリクってんだ。さっき森で拾ってな。」
「森で?この辺じゃ1番危険なあの鬼門の森で!?よく無事でしたね。」
「俺が見つけたときにはカマイタチに殺されそうになってたけどな。」
「ちょ、トラさんそれ言わないで下さいよ、恥ずかしい。」
トラさんが笑いながら門兵・・・涼太にそう言ったので俺がそう反論すると、トラさんは更におかしそうに笑いだした。
「ああそうだ、こいつ町に入れてやってくれねえか?身分証もなんもないし素性もわからんが、人柄は俺が保証するぜ。」
笑いが収まったところでトラさんが涼太にそういった。
「素性不明って怪しさしか感じないんですけど・・・。まあトラさんが言うなら大丈夫なんでしょうね。でも一応そこのあなた、ええと、リクさん、でしたっけ?これに触って貰っていいですか?」
涼太は水晶玉のような物を懐から取り出し、僕に渡してきた。持ってみるが特に何も起きない。
「・・・大丈夫なようですね。町に入ってもいいですよ。」
どうやらそれは悪人か否かがわかる道具のようで、何も起こらなかった僕は町へ入ることが許された。
こうして僕は江戸の町に足を踏み入れたのだった。