プロローグ
初書きです。遅筆の為、週に1,2話。エタらない事を目標に頑張りたいです
勇者といえばどういう想像をするだろうか。
剣と盾と勇気を武器に頼りになる仲間を数人連れて人類の敵を討つ。
幾度の苦難を乗り越え最後には人類を救う勇者、というとこまで想像したならばきっとそれは間違いだ。
考えは人それぞれだが、そこまで行くと英雄の仕事になってしまう。
勇者というのは勇気を持つ者のことで、それが本物だろうと蛮勇だろうと定義的には構いやしないのだ。
勇者というのは一つの肩書に過ぎず、この世界においては一つの仕事に過ぎなかった。
それも唯一ではなく量産の、使い捨てに過ぎなかった。
各地から腕に自信を持つ者を集め、『勇者には旅の間の食と住を全て国が負担する』という契約の元に数千の勇者が数日で誕生した。
彼らは国から遣わされた二人の仲間と共に旅に出て、途中で敵と戦い、仲間を増やし、そして死んでいった。
決して王国は武器防具を除く金銭の問題は解決してくれるが戦力を寄こしたりはしない。
王国から、いや人間側からしたら彼らは敵と相対し勝てたなら生き残り再び戦いへ、負けたなら死ぬという少数精鋭の捨て駒に過ぎなかったのだ。
国軍は別で敵軍と戦いますから勇者たちは勝手に戦って魔王を倒してください、と。
その態度を見ていたなら、知っていたなら。魔王を倒した後勇者がどのような扱いを受ける事になるのか分かっていようものだったのに。
俺は力というものを甘く見すぎていたのかもしれない。
仮にも魔王という存在を少数で倒してしまった化け物がどのように見られるのか、想像に難くないはずだったのに。
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『勇者になれば安定した生活ができる』契約を交わし魔王を討伐した現在、俺は満身創痍にまま逃げていた。
王国から俺の討伐命令が出され、住んでいた家を焼かれ、国民からは石を投げられ追い出され、旅をしていた仲間が全員王国の回し者。
そして、道端で出会う魔物も俺の敵。
預けた金も引き出せず、食料も町や村では買えない。
敵の敵も俺の敵。
四面楚歌というより十六面くらいから囲まれていた。
王国軍と元旅仲間の面々から命からがら逃げきって現在、俺は王国から東へ、かなり東へ進んだ先にある深淵の樹海、その最奥にある時遡の洞窟に来ていた。
魔王討伐の旅はかれこれ一年くらいしたが深淵の樹海に来るのは初めてだった。
理由は単純、ここには魔王の手先や魔物が一切存在しないのだ。
理由は知らない。
その最奥にある時遡の洞窟には名前通りの噂がある。洞窟の奥にいる仙人に気に入られれば『時間を遡れる』、つまり過去に行けるというものである。
「……奥まで生きてられるか、不安だ」
満身創痍。腹を槍が貫通し、右腕が炭になり、左足は氷漬けにされたので自ら切断し、視界はぼやけ、喉が痛む。
……喉が痛むのはただの風邪である。
五体不満足の状態だが泉の妖精王から受け取った聖剣を杖代わりにして何とかここまでたどり着けた。
「……さて、行きますか」
辿り着けるか分からないが後ろに退くわけにもいかない。
生きる事だけがここに来た目的ではないのだから。