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この世界はどうしてこんなにも  作者: 崎坂 ヤヒト
一章 二重人格に至るまで
7/13

この世界はどうしてこんなにも儚い①

神様との会話。

二人の和希の会話のシーン編集しました。

かなり無理があった内容なのでいくらかカットした部分もあります。

話的にコメディーっぽくなりました。

そよ風が肌を伝い、にじんできた汗が流され、心地よさが包み込む。

そんな感覚を受け、『和希』は目を開けた。


「あ、起きた」

「大丈夫?」

「急に倒れたから心配したんだよ。水飲む?」


目を見開くと、そこには三人の女の子がいた。

一人がポニーテールの黒髪をしていて、この三人の中では一番年上に見える。

次に三つ編みの、メガネをかけた子が手にペットボトルを持って差し出してくる。

しかし和希はそれを受け取ることができなかった。

それから、髪を下したセミロングの子は手を組んで心配そうに和希の顔を窺っている。

というか。


「誰……ですか?」


頭がガンガンして、全然大丈夫じゃない。

今、和希はどこかのテントの下にあるベンチに、頭の後ろにタオルを敷いて寝かされているみたいだ。

どうして? と、考えてみてもわからない。

まず、この人たちはいったい誰なのだろう?

三人・・とも初めて見る顔だ。

変な感覚。

今自分が着ているのは普通の服じゃないのか。下着も付けてないみたいだし。

どうにか体を起こすと、その正体が分かった。

これは着物だ。

でもなんで?

それも分からない。


「ああ。この子らはほら、昨日電話で話した私の後輩。三つ編みの方が、三奈美で、下してるのが唯ね」


和希の質問に、ポニーテールの人が答えてくれた。

『昨日』という部分に疑問を感じたが、とりあえず頷いておく。


「あなたは?」

「え?」


この質問に、ポニーテールの女性は驚いた。

何で驚いたのかは分からないけど、とりあえず和希は繰り返した。


「あなたは、なんて言うんですか?」

「和希、ちゃん?」

「はい……え」


そこで和希は硬直した。


(何でこの人は私のことを知ってるの?)


和希は今まで、この人に会ったことはない。

でも、この人はまるで和希のことを元々知っているみたいだ。


(どういうことなの)


分からない。

分からない分からない分からない。

分からないことばかりで、本当にわけわかんない。


「誰……なの? ここは? 何で私……こんな格好して…お姉ちゃんは」


…………………………………………。

お姉ちゃん?

それが…………トリガーだった。


「あ、あ……ああぁ」


和希はベンチから降りてその場に膝をつき、顔色を一変させて、頭を抱えた。


「え、なに? どうしたの?」

「あ、の」

「これ、誰か呼んできた方がいいんじゃ」

「い……や、あ」

「え?」

「い、やああああああああああああああああああ!」



和希は急に暴れ出してしまった。

両手で自分の頭を押さえて、何かに苦しむように必死に首を振り、めちゃくちゃに体を振り回す。

近づけば、頭突きを食らい。触れようとしてもはじかれてしまう。

しかし、そのまま放っておける雰囲気でもないのは確かだ。

鈴音は突然の和希の変化に、必死にどうにかしようと考える。

先程、和希の携帯を使って、連れの人に連絡を入れることができた。

もうすぐ来るそうだが、それまではこのままにしておくしかないのか? そう考えて、首を振った。


「んなことしている場合じゃないでしょ!」


そう自分に言い聞かせて、ぶつかってくる和希を受け止めて、鈴音はその両肩を掴んで押さえつけた。


「和希ちゃん! わかる? 私。鈴音りんね! 前に神社で会ったんだよ! 憶えてる?」


鈴音は無理やりに和希を押さえつけると。強いまなざしで和希を見つめた。

それに和希も目を合わせ。口元を震わせているが、暴れるのはやめて鈴音と目を合わせてくる。

ゆっくりと和希が手を下すのを見て、落ち着いてくれたかと安心すると。


「ひっ」


和希の表情は、恐怖にゆがんだ。

鈴音の顔を、本気で怖がっている。


「いやあ!」


ドンッ


安心して、力の抜けていた鈴音は、和希のあまり強くない押しにもバランスを崩して倒されてしまった。


「わっ」


これにはさすがに鈴音も頭にきた。

男女の区別は付けるが、ここまでコケにされると怒りもわいてくる。

いくらか顔が怖いとからかわれたこともある身だ。

一発かましといた方がいいか。

という考えは、すぐに砕け散った。


「い、や、あぁ」


和希の様子が普通じゃないのだ。

怖がっているのは鈴音にだけではない。

三奈美と唯にも。

それ以外に、周囲にできてきたやじ馬にも、和希は、同じように恐怖している。

寝ている時に下した髪はくしゃくしゃになって、大きな両目からは大量の滴が零れ落ちる。

暴れて着くずれをするのも気にせず、いや、気にすることさえできず。

和希は一人。震えて、怖がって、暴れて。誰も手を付けられないでいる。


「和希!」

「和希ちゃん!」


そこに飛び込んできた人がいる。

男女の二人組だ。

一人は三奈美たちと同年代くらいの少年で、黒髪のイケメンだった。

もう一人は髪を金色に染めていて、大人の女性だった。

二人は和希に近づくと、女の人の指示で、男の子の方が和希を押さえつけ、その間に女の人はポケットから小瓶を取り出して和希に飲ませた。

それから少しの間は、和希は暴れたが、次第に落ち着いてきて。二分くらいで動かなくなった。

どうやら寝てしまったらしい。


「ふー。久しぶりだったから焦ったわよ。ありがとう真矢君。和希ちゃんはそっと寝かしといて」

「はい」

「………」


鈴音は何がどうなっているのかまるで理解できず、男の子によってゆっくりと寝かしつけられる和希の姿を呆然と見つめるしかなかった。

そこに女の人の方がやってきて。


「ごめんなさい」


そう、三人に謝ってきた。


「え、っと、あの」

「和希ちゃんの保護者です。今回は私の監督不行き届きで、ご無礼を働いてしまい、本当にすみませんでした」


女の人はそう言うと、深々と頭を下げてきた。

その行動に、三人は顔を見合わせて、鈴音が口を開く。


「あの。和希ちゃんはいったい……」

「………」


鈴音の質問に、女性は苦い顔をした。


「ごめんなさい。個人の事情に伴うことだから、深くは話せないの。ただ」

「ただ?」

「和希ちゃんは普通の子じゃないから。もし今回のことを根に持っても。本人には責めないであげて。私になら、いくら責めてもいいから」


そう言う女性の声は、沈んでいた。

おそらく今回のことは自分に責任があると思っているのだろう。

話によると、和希は二人とはぐれてしまっていたみたいだし。この人がちゃんと見ていれば、和希は倒れて、さっきみたいにならなかったのかもしれない。

でも、鈴音はそんなことを責めたいとは思わなかった。

勝手に和希をここまで運んだのは鈴音だし。突き飛ばされたのだって鈴音がむやみに和希に近づいたせいだ。

和希がどういう子なのか全く知らないくせに。


「こちらこそ」


知らず知らずのうちに、鈴音の口からは謝罪の言葉が出ていた。


「事情も知らないで、勝手なことをしてすみませんでした。和希ちゃんとはこの

間知り合ったばかりで。まだ何にも知らなくて。それで」

「ありがとうございます」


鈴音が和希との関係を離そうとしたところに、男の声が入ってきた。

皆の視線は自然とそっちに移る。


「彼女。友達とかいないから。いろいろ大変だったと思うんです。あなたが鈴音さんですよね?」

「え、と。まあそうだけど」

イケメンに声をかけられ、鈴音は少し戸惑う。


真矢の顔がいいからではない。

その落着きようにだ。

周りが戸惑っている中、彼だけが平常心を保っている。


「和希は優しい子なんです。本当は人を傷つけたりなんて、そんなしたくないような。だから今回もわざとじゃなかったと思うんですよね。彼女はトラウマとかいろいろあって。僕も見てきたわけじゃないから詳しいことは言えないんですけど。今回もそれで暴走してしまっただけなんです。だから。できればこれからも和希とは、出来るだけ自然に接してあげてください。きっと、彼女の助けになっているはずだから」

「あ……うん。ていうか、あんたは?」

「僕ですか? 僕は和希の。まあ、一応友達です。アパートで隣の部屋に住んでるのでかかわりも深くて」

「そうなんだ。ていうか、もしかしてあんた、和希ちゃんの彼氏なの?」

「え?」

「あっ」


言ってから、しまった、と思った。

いきなり何を言い出しているんだろう。

相手の少年も戸惑ってるだろうし。

と、思ったら。意外なくらいにその表情は穏やかだった。


「違いますよ。たぶん彼女の中じゃ。まだ、ようやく友達と認めてもいい。くらいにしか思ってないでしょうし。僕の方は、まあ、そうなれたらいいな、とは思ってますけど」


それはもう、ほとんど告白と一緒だった。

恥ずかしげもなくそう言った彼は、しかし、和希を見て「でも」と言った。


「それは……『彼女』のことではないんですけどね」


そう言った彼の表情は、どこか確信的なものがあるように見えていた。

その後は結局、保護者だと名乗る女の人に謝られて、和希が真矢という少年にお姫様抱っこで運ばれていくのを見るだけで終わった。

花火も見たが、それは全く印象には残らなかった。


「和希ちゃんて。どんな娘なんだろ?」


その答えは、残りの二人も持ち合わせてはいなかった。


「ん?」


そこで鈴音は、二人が一つ。忘れ物をしていったことに気が付いた。


「あっ」


ベンチの上に残されていたそれは。和希が鈴音たちによってここへ運ばれるまで着けていた、大き目の花柄の髪飾りだった。


「これ……届けないとね」


そう言う鈴音の声には、普段の覇気が、感じられなかった。





「ん、う、んぅ」


ゆっくり両目を開いて、あたりを見回す。

そこには部屋があった。

ふかふかのベッドがあって。和希はその上でTシャツ姿で寝ている。

そのシャツは和希にはちょっとサイズが大きくて、起き上がると左肩の方からずれ落ちてしまう。

ここは知ってる。

和希の部屋だ。

病院から出て、施設に入りづらかった和希を、大家さんに拾ってもらって、ここに住まわせてもらったのだ。

でもなんでTシャツ?

感覚的に下着も付けてないみたいだし。

そこで和希は、その部屋にもう一人、人間がいることに気付いた。

その人物は和希のベッドに顔を倒して眠っている。

カッコいい男の子だ。


「男……の子?」


和希は自分の姿を確認する。

Tシャツ一枚に下着も付けてないという、見方によってはとても正常ではいられないような、扇情的な姿だ。


「っ」


和希は真っ赤になって、足を閉じて、ギューと服を引っ張った。

それによって今度は上の方が落ちてきて、慌てて引っ張り上げる。


「あ、ああ」


顔を羞恥で赤く染め上げて、和希は必死に体を隠そうとする。

そこに能天気な声がかかった。


「あ、起きたんだね。おはよう。と」

「いやあああああああああああああ!」

「むがっ」


和希は毛布を掴んで、思いっきり真矢に押し付けた。


「もが、ほがはっほ、ほがほが」


何を言ってるか分からないが、とにかく和希は体を見られないようにその顔面を押さえる。


「ふ、ふほがー」

しかし非力な和希の手は、簡単に払いのけられてしまう。


「ぷはっ。ひどいよ豊橋さん。和希だったらもうちょっと手加減するよ」

「へ?」


和希は彼の言った言葉の意味が理解できず、硬直する。

それに真矢は笑いかける。


「はじめまして。豊橋和希さん。と。足閉じてくれないかな? 見えてるから」


彼はそう言うと。少し恥ずかしそうに頬を染めて、視線を逸らした。


「ふぇ?」


それに和希は視線を落として。


「ひゃあっ」


キュッと足を隠した。

それから涙目で真矢を見つめ。


「え?」


バチンっ!


思いっきりその頬をひっぱたいた。


「変態!」


それが、桜真矢と『豊橋和希』がまともに接した。最初のやり取りだった。





ここがどこかは分からない。

薄暗い部屋の中に、和希はいた。

あたりには明かりと言えるものはなく。

差し込む月明かりだけが、部屋の中を照らしつけていた。

そしてその部屋の奥には。『自分』の顔があった。

もちろんそれは豊橋和希の顔ではない。

宮澤和希。

和希にとっての本当の体だ。

その体は今、足を組んで、和希をじっと見つめている。


『そうか。そうだったのか』


和希は今、体がない。

魂、とでも呼んだらいいのだろうか。そういう状態だ。

だから当然声を出すこともできず、これは和希が念じているだけに過ぎない。

でも、その相手にはこれでちゃんと届くのだ。


「まだ、何も言ってないんだが?」


相手の声ははっきりとしている。

宮澤和希の声だ。

その声は、こちらを観察し、どこか楽しんでいるようにも聞こえる。

それに和希は、少し弾んだ様子で答える。


『ずっと疑問に思ってたんだ。姉さんに話を聞いた時から。弟がいないって言われて。確かめてはないけど。でもたぶん本当に無くなったんだと思ったから。でも、それなら本当の体はどこに行ったんだって。まさか本当にこの世から消えたりなんてしてないだろうと思ったから』

「なるほどな。で、その答えは?」

『あんたが持ってたんだな。神様』


そこには、和希の体だけでなく、宮澤和希の部屋にあったものの全てが収まっていた。

そのベッドの上にいるのは。

宮澤和希。その体に宿った、美和野の神様だった。

神様は、見たものが皆恐怖するようなその顔で、ニッ、と笑った。




「う~」


和希の部屋で、テーブル一つ越しに向かい合った二人は、片方がほぼ一方的に敵視を受けていた。

その理由は明白。

彼女の裸を見てしまったからだ。

和希の服にはくつろいで眠れるようなものがろくになく、仕方なく真矢のTシャツを貸して、大家さんに着せてもらったのだ。

という話を三回ほどしてようやく信じてもらえた。

正直しんどかった。

ずっと「変態、変態、変態! 近寄らないで!」と枕でたたかれまくっていたからである。

気持ちは分かるのでそのことに怒りはしない。

けど。


「もうちょっとで脳震盪起こしそうだったかも」

「起こせばいいのに」

「豊橋さんも、案外、いい性格してるよね」

「ふんっ」


和希の方は、真矢と全然関わりたくなんてないようで、そっぽをむいてしまった。

その手にはクマのぬいぐるみが抱かれている。

部屋で誰かと話すときは、そうした縫いぐるみを抱きしめる癖があるようだ。


(こういう女の子っぽいところは、和希との違いだな)


宮澤和希が中に入っていた時は、女の子っぽさよりも家庭的な一面が先に出ていたから、こういうところを見ると、ちょっと新鮮だった。


「それで本題に入りたいんだけど。いいかな?」


言うと。和希は顔を半分縫いぐるみにうずめながら真矢の方を向いた。


「それじゃあ、まず。君は豊橋和希さん。これで間違いないよね?」

「そうだけど。なんでそんなこと聞くの?」

「うん。じゃあね。君。今日が何日か分かる?」

「え? うーん。カレンダーなんて、ここ一年くらい見てないからなー。いきなり言われても」


和希はギュッと縫いぐるみを抱きしめて、考え込む。


「分かった。じゃあもう聞かないよ。今日は8月28日だよ。たぶん君の記憶は30日分くらい飛んでいるんじゃないかな?」

「……記憶喪失になっちゃったってこと?」

「違うよ。その間は君の記憶じゃないんだ」

「ん? どういう意味?」

「それをこれから説明するんだよ。そうだね。それじゃあまず、僕が僕になる前のところから話そうかな」

「?」


それから二時間近く。真矢は事情を知らない和希に、真矢の知っていることを全て教えた。






「くあ~あ」

神様は和希と話し込んでいるうちにあくびをした。


「あ~。生身の体って、だんだん疲労とかたまっていくんだな。大分肩こってきたぞ」


そう言うと、神様はベッドに肘付けて横になった。


「おー、倒れると気持ちいいんだな。ほー、人間って面白いなー」


そう言って今度は大の字になる。


『……。あんた神様だよな?』

「そうだな」

『なんて言うか。怠けすぎじゃないのか?』

「どうとでもいえーい。口調に関してはお前の本来のものに合わせてるんで、多少適当に見えるかもな。人間本来は怠け者だ。性処理出来てれば大概満たされるのが動物だろ」

『とんでもないこと言うな、あんた』

「神様だからな」


そう言って、にやり、と笑う。

その笑い顔を見たら、和希は何か言うだけ無駄なような気がしてしまった。


『ところで、なんで俺は今こんなところに? しかも魂だけってかなり複雑な状態で』

「あー。それはな。お前があの時、脳の限界超えて気絶しちまったからだ」

『気絶? ……………あ』

「やっと思い出したか? お前が気絶しちまったせいでせっかく入れた体が魂と分裂起こしちまったんだよ。まあ、入れなおすのは簡単なんだけどな」

『じゃあ、俺をもとの体の方に戻してくれ!』

「あ、そっちは無理だ」

『はあっ! なんでだよ!』

「仕方ないだろう。願いでお前言ったよな。見た目変えたいって」

『いっ!………たな。うん。そんな感じの事言った』

「だろー。願いってのは強烈でな。今お前の体はお前の魂を拒絶して全く入れようとしてねえんだわ」

『ふざけんな! なんだそりゃ! そもそも俺は自分の見た目変えたいとは思ったけど別人になりたいとか思ってなかったんだぞ!』

「そりゃご愁傷さまってやつだ。でも戻せねえもんはどうしようもねえだろ? 俺もわざわざ最後の願いをそんなことに使いたくはない訳だよ」

『勝手に人の体変えといてなんだよそれ! ……って、最後?』


疑問に思った和希に神様はまたにやりと笑った。


「やっと本題に入れるな。お前をここに呼んだのは他でもない。これと、もう一つの体についてだ」

『もう一つの体……って豊橋和希の?』

「そうだ。今、その体には本来の持ち主の方が入ってる」


本来の持ち主。つまり、豊橋和希の体には豊橋和希自身がいるのか。

やっぱりいたんだな。って、ちょっと待て!


『じゃあ俺は!?』

「魂だけの浮遊霊みたいなもんだな」

『なあっ!』

「でもこのままだと問題が山積みでな。これ見てみろ」


そう言った神様の後ろにはスクリーン? みたいな映像が映し出された。

そこに映っていたのは。


『真矢! と、豊橋和希?』


そこに映っていたのは警戒している豊橋和希と、なんとか話を聞かせようとしている真矢の姿があった。


「あー。このままだとらちが明かねえな。よし、お前ちょっとこいつと話せ」

『は!?』

「つなげてやるから。ほれっ」


《むー》

神様がそう言うと頭の中に直接響くように声が届いてきた。

頭、今ないけど……。

えっと……少しだけ話しかけてみるか。


《神様。そんなもの『おーい』…え? な、なに!?》

『あ、マジで通じた』

「だろ?」


…よし、ちょっと挨拶してみよう。





「むー」

和希は真矢の話を黙って聞いていた。

でも真矢の話は正直かなり胡散臭い。

そう思ってた時だった。


「神様。そんなもの《おーい》…え? な、なに!?」

《あ、マジで通じた。「だろ?」》


頭の中に二つの声が響いてきた。

なにこれ!?


「え。どうしたの?」


真矢君も私の反応を心配しているのか尋ねてきたが今ちょっと返せない。


「あ、あの」

『あ、俺は宮澤和希って言うんだけど。今神様と一緒にいてちょっと話しかけてるんだ』

「え。えっと」

『そっちにいる真矢の話だけど、本当のことだから。しっかり聞いてやってくれないかな?』

「う…うん」

『あーあと「もういいな。切るぞ」は!? おい、なんでだよ。あ、また来るから』

「あ、ちょっと! むー……」


そこで頭に響く声はなくなってしまった。

今のって……宮澤和希君。だよね?

「消えちゃった…」






和希は突然左耳を押さえて、まるで電話でもしているみたいに、何かに受け答えしている。


「あっ、ちょっとっ。むー。消えちゃった…」


和希はそう言ってクマのぬいぐるみを抱きしめる。


「どうかしたの?」


真矢が聞くと、和希は静かに言った。


「和希君と話した」

「え?」

「なんか。ちょっとあいさつされて。それから『また来る』って。真矢の話。本当みたい」

「信じるの?」

「えーっと。……う、うん。信じても……い、い。かな?」


まだちょっと半信半疑っぽさはあるけど、それでも和希、宮澤和希君の方のことは信じてもらえたのかな?


「そっか。ところで。和希は豊橋さんの中に?」

「分かんない。そうかもしれないし。違うかも。また来るって言ってたから。いつ来るかまでは」

「そっか。分かったよ。もう聞かない。でも。和希は消えてないんだね。それが分かっただけでも良かったよ」

「そう………」


和希は、ほっとしたような残念そうな、よく分からない顔をした。


「えっと。とりあえず何か食べる? 昨日から何も食べてないんじゃない?」

「え?」


和希は言われてから、やっと気づいたみたいだ。

昨日の夜。祭りに行くからと三人は夕食を取らずに出かけた。

最初に大家さんから貰った屋台の出し物を食べたが、そんなに腹には溜まっていないだろう。


「そう言えば一昨日和希が作ったものの残りがまだあったっけ。それにしようか」

「………それで足りるの?」

「まあ、二人分はないよね。でも豊橋さんは小食でしょ?」

「和希君に聞いたの?」

「ううん。実際に目にしてるからだよ。一緒に食べてるから」

「えっ」


それを聞いて和希は青い顔をした。


「わ、私の体に何かしてないよね?」

「大丈夫だよ。和希はそういうの厳重に守ってたから。服の露出ですらできるだけ抑えたいって言ったくらいだし」

「そう………ならよかった」

「うん。それじゃ、はい」


真矢は冷蔵庫から取り出した品を次々に並べていく。

きんぴらゴボウや、白菜の煮つけ、ポテトサラダに、ベーコンを使ったもやし炒めなど。

ざっと見て一人分だった。

数はあるけど一つ一つはそんなに多くないので、和希一人で食べきれるだろう。


「ずいぶんと。ヘルシーっていうか。和っていうか。これ。本当に男の人が作ったの?」

「体は豊橋さんだったけどね。僕が普段パンとかだからって、その日はこういうメニューになったんだよね」

「そうなんだ」

「ご飯も炊けてるよ。少なめにする?」

「うん。お願い」


料理はそれぞれ、サラダ以外はあたためて、テーブルの上に並べられた。

それら全部色がしっかりしてて、鮮やかで。おいしそうだ。


「い、いただきます」


そう言って和希は箸を持つと。


カラッ


それらを落としてしまった。


「………あ」

「ど、どうしたの?」

「う、あ」


真矢が聞くと、和希は震えだして。目を見開き、自分を抱きしめた。


「い、や、あ、あぁ」


それで真矢はようやく気が付いた。

昨日と同じだ。

何かがきっかけとなって。彼女はトラウマを呼び起こしてしまう。


(なんとかしないと)


そう思っても。無理に抱きしめて、押さえようなんてすると逆効果になってしまうって、前に大家さんに聞いた。

じゃあどうする?

今、大家さんはパートで家を空けているし。だからこそ真矢が和希の監視を頼まれたのだが。この状況はまずい。


(抱きしめちゃいけないのなら)


真矢は和希の隣に座り、その手を取った。


「僕がついてるよ。だから大丈夫」


いつぞや、男になったことに浮かれ、ナンパをしてみたかった頃に考えたセリフだった。

かなりきざっているうえに。聞く人が聞けば軽蔑されそうな言葉のような気もするが。どうやらこれは正しかったみたいだ。


「し、んや…くん」


和希は震えを止め、ぽろぽろと涙を流した。


「わ、たし……」


和希はまた震えだした。

でもさっきまでの震えとは違う。

前に和希が、願いの叶い方、世界の理不尽さに泣いていたのと同じだ。

それから。和希の方から真矢に抱き付いてきた。

真矢は両腕をホールドされ、全く身動きが取れなくなる。


「怖い。怖いの」

「うん。分かるよ」

「誰かが。誰かが触ってくると。見えちゃって。その手が。燃えて、消えちゃうの。灰になって。風に飛ばされて。何も残んなくなっちゃう」

「うん」

「顔も焼けただれて。私。それで……」


和希はぽつぽつと。でも確かに教えてくれていた。

自分に降りかかっている症状。見ている幻影についてを。何度もカウンセリングをして。徐々に見えなくなっていたらしいが。それでも完全には消し去ることができず。また見えるようになってしまったらしい。


「でも。嫌なの。一人は嫌なの。一人でいるのも。怖くて。怖くて。私、全然動けなくなっちゃって」

「うん。そうだよね。大丈夫だよ。僕はいるから。僕が支えてあげる。だって君は、和希でしょ?」

「え?」

「僕は和希が好きなんだ。優しくて、強くて、何でもできて、でも、根っこではすごく弱くて。放っておけなくて。まあ、たまに怖いんだけどね」

「それ……私じゃないよ」

「そうだね。僕の好きな和希は君じゃない。でも。君も和希なんだよ。なんとなく違いは分かるんだけど。でも一目見ただけじゃ分かんないんだよ。二人とも、体は同じなんだもん」

「でも。私は……」

「大丈夫。君も和希だから。違うけど、同じ和希だから。だから僕が支えるよ。君が。君たちが救われるように。だって。もう一人の和希が苦しんだのは僕のせいなんだ。だから、同じ和希の君も助けてあげる。和希も手伝ってくれるなら、絶対助かるよ」

「そんなの」

「できるよ。絶対に。確信できる」

そう言うと。和希は体を離した。


それから、信じられない、という目で真矢を見つめてくる。

真矢はそれに笑いかけた。


「和希ならできるよ。和希ならね」



真矢のその言葉は、いったい誰に向けて言ったのか。

どっちの和希のことを言ったのか。

それは和希本人にはわからなかった。

でも。


(あ……れ?)


「うそ………」

「どうかしたの?」


和希はまた目を見開いて。真矢を見た。

ただ。今度のはさっきまでとは違う。


「だい、じょうぶだ」

「え?」

「大丈夫……なの…見えてるの。真矢君が。まっすぐ。ちゃんと顔が見えるの」

「ほんと?」

「う、うん。さっきも。触られて。震え止まって………見えてた。私……ちゃんと見えてた」


どうしてかは分からない。

でも。平気なのだ。

真矢だけは平気なのだ。

嬉しい。本当にうれしい。


「ねえ。ギュッてして」

「え?」

「お願い」


和希は少しもじもじしながら、真矢に頼んだ。

真矢はそれに少し戸惑ったみたいだったが。おずおずと手を伸ばしてきて。


「本当にいいの?」

「うん。お願い」

「……。分かった」


今、『分かった』って言った時。小声で『ごめん和希』と聞こえた気がしたが、聞かなかったことしようと思った。

和希は私なのだから。

それから、一瞬空けて、ギュッと抱きしめられる。


「あ………」


抱きしめられたその時。和希は懐かしさを感じた。

久しぶりの。暖かいって感触。

まともに人と触れ合ったのは。いったいいつ振りだったかな?

真矢の体は、和希よりも大きくて。それでいて硬くて。なんか新鮮で。


(男の人の手って大きいんだ)


そんなことを考えた後。ボンッ、と爆発でも起きたかのように和希は赤くなった。


「あ……あ、ああぁ」


今、自分は何をやっている?

勢いで、「ギュッとして」なんて言ったが。それはどういうことだ?

和希の中で様々な妄想が広がる。

なんだかんだで、まだ十五歳の乙女なのだ。


「も、もういいっ」


そう言って。和希は真矢を突き放した。

その顔は耳まで真っ赤に染まっている。


「はあっ、はあっ」


危なかった。

何が危なかったのかは知らないけど。とにかく危なかった。


「ご、ご飯食べるね」

「あ………うん。大丈夫?」

「な、何が?」


和希の声は、ちょっと上ずったものへと変わっていた。


「何がって。お箸持てるのかなって」

「だ、大丈夫だよ」


そう言って和希は箸できんぴらごぼうを摘まみ、口に運んだ。


「んっ」

「美味しいでしょ」

「う、うん。でもなんか」

「田んぼとか思い浮かべる味だよね」

「うん……」


もう一人の和希も。一応まだ十六歳の少年なのだが。彼の作る料理は、何故かお袋の味と言いたくなる代物だった。

もちろんおいしいが。そのおいしさが特殊というか。


「なんなんだろ。これ」

「栄養に気を使った品だよ」

「分かるよ。でも、これはどうやって作り方憶えたんだろ?」

「本人曰く、『模索した』だよ」

「………。どういう人なの?」

「学生主夫だね。タイムセールは逃さないのがポリシーの」

「怖いよ……」


それ、もう高校生じゃなくなってるし。

和希はそもそも、こんな料理作れない。

いつも簡単にシチューやチャーハンとか作ってたのに。


「一度、じっくり話してみたいな」

「すればいいんじゃない? また来るんでしょ」

「………そっか。そうだよね。うん」


和希は笑顔で頷いた。

それに真矢は目を見開いて。驚いた顔をする。


「どうしたの?」

「いや。やっぱり和希は和希だね」

「?」


その言葉の意味を、彼女が理解するのは、まだ先のことだった。




一風変わって薄暗い部屋。


「いちゃついてやがんな」

『だな……』


傍からその光景を見せられた二人はなにこの甘い空気? みたいにいろいろまいっていた。


「重大な問題について。話していいか?」

『え、ここで!?』

「正直この甘い空気に耐えられねえんだよ! お前が入ってた時には全然こんな感じじゃなかったってえのに、何だありゃ! ぶち壊していいか!?」

『うっわー。マジぶっちゃけたよこの神様』


それから。シチュエーションとかかなり台無しな感じだったが、俺は神様から重大な問題というのを聞かされることになった。

あと、真矢にはあとでいろいろ言いたい。





「せっかくだからゲームでもする?」


ご飯を食べ終えると、真矢はそんなことを言ってきた。


「え?」

(あるの?)


和希はそんなものあったかと考え込む。

少なくとも自分は買ってない。

なら、もう一人が買ったのか? そう考えると納得する。

もう一人は元は男の子だもんね。そういうものもやりたくなるよね。

そう考えていると。


「じゃあどうやろうか」

「へ?」


そう言って真矢が引っ張り出したのは。

まだ、箱どころか、袋に入ったままの最新のテレビゲーム機種だった。


「………」


こんなもの買ったのか。

テレビもないのに。

そう思っていると。


「和希が射的で落としたんだよ」

「えっ!」


ますます、もう一人の自分が分からなくなってきた。


(本当に何者なの?)

「で、これってどうやって遊ぶの?」

「知らないの!?」


こっちもこっちで大変だった。


(どういう人たちなの~?)


もう訳わかんなくなってきた。


一年前に書いたものを試しに出したというのがこの作品なので、かなりちぐはぐです。

頑張って修正していくので、こうした方がいいよ。などありましたら感想で言ってください。作品壊さない程度の修正には答えます。

どうかよろしくお願いします。

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