三つのプロローグ二人目
その少女は不幸だった。
一たび歩けば鳥の糞、を回避します。
水溜まりを通過する車に撥ねられ……るのを日傘を向けてガードです。
トイレが並んでおります。
でも一時間も待てば大丈夫。私我慢強いです。
……でも他のところ借りた方が早かったみたい。
いえいえ気にしません。
私は強い。いえ、強くなりました。
――不幸体質。
それが彼女の、人生最大の悩みだった。
とはいえ彼女自身は自分が不幸であることを理解していないのだが。
理由は単純であった。
――生きているから。
本当に不幸なら彼女はとっくに交通事故にでもあって死んでいる。
突然家が火事になったり、乗っていた電車が脱線したりすることはなかった。
そういう人達に比べたら自分は幸福だと思っているのだ。
彼女の不幸には特徴があった。
一、不幸は自然な流れによって起こる。
彼女の不幸には作為的に彼女に不幸をもたらすものはなかった。
つまり虐めの標的などにはされないのだ。
二、起こる不幸は軽いもの
単純に服を濡らすとか鳥の糞が頭上に降ってきたりとかそうしたものが彼女の不幸で起こるもの。命の危険や大きな怪我をするような危ないものは起こらないのだ。
三、不幸は彼女にのみもたらされる
不幸はピンポイントに、彼女だけを狙って起こる。他の誰か、もしくは動物を巻き込んだ不幸は起こらない。
例えば突然雨が降ってきたり、修学旅行が中止になったりするような事はなかった。
代わりにどこかに髪を引っ掛けたり、彼女のお弁当だけ保冷剤が入ってなくて軽い食中毒になったりはしたが。これはお母さんが悪い。
そして大事な四つ目。
不幸は回避できるっ。
私が頑張って工夫すれば不幸にあわなくて済むのだ。
特にお母さんのお弁当は私が注意すれば済む問題だった訳だし、トイレの紙が切れているかどうかなんかも事前に調べれば事足りるのだ。
日傘を普段から持ち歩くのも、不幸を回避するのに便利だからだよ。紫外線予防はおまけです。
私はこの夏、自分のこの体質をどうにかしようとひたすら努力した。
様々な対策を考え、あらゆる状況に対する準備をしたのだ。
さあ、なんでも来るがいいよ。
「君、可愛いね」
「俺らとどっか行かない?」
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 流石にナンパの対策はありませんっ。
ていうかこれ不幸? なのかな。むしろナンパされるなんて凄い幸運なんじゃ。
注)彼女の価値観は特殊です。
夏休み最終日。私は運命の出会い(ナンパされた)をすることに――
「ちょっと、道端で何をしてるんですか?」
ならなかった。
横から声を掛けてきたのは私と同い歳くらいの女の子だった。
麦色の髪なんて珍しい。
「あぁ! ……てなんだ。女かよ」
「しかもすっげえ可愛くね」
男達は横槍が入ったことに怒っていたけどその娘を見た途端に表情を緩ませた。
その娘は確かに、うん。すっごく可愛かった。
男の人達は一度は私に目を向けたけどすぐに彼女に視線を戻した。
何だろう。今のすごく腹立つ。
さっき私のこと可愛いって言ってたよね? ね?
なんでその娘に足が向いてるのかな?
どうして私無視してその娘取り囲んでるのかな?
逃げちゃうよ~、私に逃げられちゃうよ~?
「君可愛いなぁ。俺もろ好みだわ。どう? これから二人でどっか行かない?」
「おい、ふざけんなっ。独り占めかよ。なあ、こんな奴ほっといて俺とさ」
……泣いていいですか?
何この扱いの差。
そして男達はその娘が逃げられないように肩を
「ふんっ「げぼはっ」」
掴もうとした瞬間に手を引っ張られて、下がった顎に木製のサンダルが蹴り上げられた。
わおっ、綺麗な御身足。
その娘の肌は染みなんて一つもない真っ白だった。
でもスカートの下に短パンを履いていたのはちょっと残念。
って、いやいや私は何を言ってるの! 女の子だよ?
同性なのに何言ってるんだか。
ちなみにその女の子の足技で男は一発ノックアウトした。
辺り所がよかったんだね……狙ってないよね?
足垂直に立ってる。柔らか~い。(現実逃避じゃないよ?)
もう一人の男は怯えながらも突っ込んで、合気道? みたいな技で背中から倒されてる。
それからその女の子が微笑むと、なんでだろう? すごく可愛いのにとっても怖いよ。
男の人もそれにすっかり怯えてしまって、倒れて気を失ってる人を背負って逃げていった。
どうしよう。すっごく格好いいよ。
こんなに可愛いのに。
そして今、その娘が私の方を見た。
「大丈夫だった?」
「あ、は『ピチャン』い………」
「………………」
「………………」
なんで鳥の糞がこのタイミングで降ってくるかな?
「…………」
「………。大丈夫?」
「……うん」
泣かないよ。
私は強くなったんだから。
これが私と豊橋和希の最初の出会いだった。
あと、鳥の糞は和希が持ってたティッシュとミネラルウォーターで綺麗に落としてくれた。
手荷物に応急処置用具が揃っていたのを見て、私は同族の波動を感じた。