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この世界はどうしてこんなにも  作者: 崎坂 ヤヒト
一章 二重人格に至るまで
1/13

プロローグ

一章までは一気に投稿します。

その後はゆるーくもう一作と合わせて書いていくつもりなのでよろしくお願いします。

暗い夜道を。一人の青年が歩いていた。

その表情はどこか暗く、夜空よりも黒く沈んでいた。

まるで告白に失敗したみたいな面である。まあ、告白ではないが似たような失敗を実際にやらかした。


「また落ちた」


バイトの面接である。

落ちたのには当然理由がある。

第一印象。顔が怖い。

以上。

面接管の女性が最初に睨まれてると勘違いし悲鳴をあげた。

それからずっとビクビクして、ついでにコソコソと自分の名前にチェックを付けているのまで目撃してしまった。

人権はどうなっているんだあああああ!

と、すごく叫びたい。

まだ高校生ではあるが、世間があまりにも冷たいものだと感じてしまった。

なんで世界は優しくないんだろう。

そんな夜、青年はバイトの面接先。コンビニからの帰り道で、一人の少女と出会う。


「あ、あの……。やめてください」

「いいじゃん。こんな夜道歩いてるんだし、ホントは遊んでんだろ」

「俺達とどっか行こうぜ」


ついでにチャラチャラしているナンパ男達とも出会った。会いたくはなかったが。

しかも面倒な事にそいつらは道の真ん中で揉めていた。

隣には神社があり、調度チンピラがたむろする時間に居合わせてしまったのだろう。

女の子には申し訳ないが、お気の毒にとだけ言っておこう。

そう思って背を向けようとすると。


「おい、何見てんだよ」


チンピラの片方に見つかってしまった。

そのせいで女の子とも目が合ってしまう。

暗くてその顔はよく見えないが、その目は明らかに助けてほしいと言っていた。


「………」


どうしよう。何となく逃げようと思えば逃げられる気もしたが、しかしここは逃げていいのか分からなくなった。

俺こと宮澤和希十六歳。今までの人生で喧嘩を売られること数知れず。

しかしほとんどは逃走で凌いできた臆病者である。

ちなみに敵が怖かったのではない。

顔がばれて、学校を停学になるのが怖かったのだ。

俺だって助けたいけど停学はごめんだ。

ここで選択肢があったとしたらどうだろう?


1 このまま振り返って逃走。

いつも使ってる有力な手だ。ただし目の前の女の子は見捨てることになる。それはなんかいやだな。

2 男らしく拳をもって迎え撃つ

これはあくまで最終手段だ。

ならば3はどうだろう。

3 女の子の手を持って一緒に逃げる

うん、なかなかいいね。仕方ないから消去法でこれで行こう。

となればまずは、三人に近づくことから。


「えーっと、こんなとこで何してんだ……お前ら」


まずこれで相手の注意を引き付けて、隙を見せたところを一気に―――


「ひっ」


いかなかった。

女の子が和希の顔を見た途端に悲鳴をあげたのだ。そのまま身を引かれてとてもじゃないが手を取れる状態じゃない。


「なんだよおま………え」

「ひっ」


腰を低くしていたので、チンピラ達はもろ俺に見下ろされる形をとっていた。

そのせいであった者皆悲鳴をあげる俺の顔を最も恐ろしく感じるポジショニングで凝視してしまったことになる。

なんか悲しくなってきたが、こう夜道で光もあまりないし、昼間以上に恐怖を掻き立てるのだろう。

それを理解し、俺は方針を変えた。

4だ。

4 脅して撃退する

頭の中で、無理矢理消去していた最善の手だ。これが実は一番成功確率が高い。


「あっ? なんだよ」

「い、いえ、なんでも」

「じゃあそこさっさとどけよ」

「は、はいっ!」


チンピラ共はすっかりびびって、道を開けた。

しかし和希は動かない。


「あ、あのー」

「おい」

「な、なんすか?」

「何してんだ。さっさと消えろよ」

「へ?」

「俺がどけって言ったんだ! とっとと失せろ! 目障りなんだよ!」


ドスのこもった声で、チンピラ共におもいっきり怒鳴り付けた。

ついでに一歩踏み込んで手を少し上げてやれば完璧だ。


「ひぃ」

「す、すみませんしたー!」


チンピラ共はそれにすっかりびびって逃げてしまった。その場には和希と女の子の二人だけが残される。

そして和希は。


「はあぁ~」


その場に屈み込んでしまった。

やっぱりこの作戦。効果覿面だけど自身に返ってくるダメージもでかい。


「あ、あの」

「ん?」


肩をちょんちょんと叩かれて、振り返ると、そこでは助けた女の子が何か言いたそうにしていた。


「あ、ありがとうございました!」


女の子はそう言って何度もペコペコと頭を下げてくる。

それに和希も立ち上がる。


「あー、うん。まあ気にしなくていいから」

「で、でも」


そう言って顔をあげた女の子は。すごく可愛かった。

目が大きくて、その割に顔はこじんまりとして、闇色の髪が後ろで結ばれている。

一目で美少女だとわかるほど、その顔は均整のバランスが取れていた。


「い、いやほんといいから」

「わ、分かりました」


女の子はそう言うと少し視線を外す。

ああ、俺はやっぱり直視を憚られる顔なのか。そんなことをひしと思う。

ただ、女の子はそこで、ちょっと意外なことを聞いてきた。


「あの……今の、って…演技……ですよね?」


恐る恐る、ただ確信したように聞いてくる。その視線も、上目使いに直視してきていた。


「そうだよ」


俺は隠す気もサラサラなく、素直に頷いた。




「なるほど。そういうことですか」


女の子はあの後、すぐに別れようとはせず、神社のベンチに二人でかけて俺の話に耳を傾けていた。そして、先程までの出来事の種ばらし、もとい愚痴を聞いていた。


「でも、嫌ですよね。顔が怖いだけでバイトの面接を落とすなんて」

「まあな。高校入試も苦労したよ」

「高校? どこですか」

「西揚羽蝶高校。そこの一年」

「えっ!」


女の子はそれを聞くと、驚いて立ち上がった。


「お、同い年なんですか! てっきり年上かと……。って、ああ、そういう意味じゃないからっ」

「何も言ってないんだが……」

「あ、ああ、うん。そうだよね。ごめんなさい」


女の子は慌てて謝ってきた。別に悪いことをした訳ではないし、そんな気にすることでもないと思うが。どうやらこの子は相当周りのことが気になるらしい。

普通なら俺を見たら逃げ出すだろうが、それは和希にわるいと思っているのだろう。

そうじゃなきゃ彼女がここに残ってる意味が分からないし。


「それにしても偶然だよね」

「偶然?」

「うん。だって、これから同じ学校に通う人に助けられちゃったんだから」

「え? それって、転校生?」

「そう。元は海外に住んでて、ホントはお父さんも一緒だったんだけど、急に海外に残ることになって……

で、転校先の学校にはもう言ってあるからって今一人暮らしなの」


なんか別に聞いてない情報をぺらぺらしゃべり出したぞ。


「帰国子女なんだ」

「うん。でも通ってたのは日本人学校だから、外国語ペラペラとかそういうのじゃないよ」

「へー」


そういう学校があるのか。知らなかった。


「と、いうわけでこれからよろしくお願いします」


そう言って頭を下げられると、どう反応していいのか困ってしまう。


「え、えっと……よろしく」

「こちらこそっ」


その笑顔を見ると、本当に可愛い子だなーと思う。名前まだ聞いてないんだけど……。

ひょっとしてわざとのか?


「あっ」

「えっと、何?」

「ここって神社なんだよね?」

「え、まあ……」


和希は神社のベンチのすぐ近くにある社を見た。そんなにでかくはないけど。でもしっかりとおさい銭もある。


「じゃあちょっとお願い事してみない?」

「え?」

「ちょっと興味あって。日本を出たのは小さい頃だったからこういうのやったことないの」

「ああ、そう……じゃあ」


どうぞ、の意をこめて社に手を向けると。


「……その…一緒にやってもらえませんか?」

「俺も?」

「作法とか全く分からなくて。出来ればお手本を見せてもらいたいなー、と」

「…いいけど」


和希はその言葉に立ち上がって、財布から小銭を取り出す。

ただ今日はあまり細かいのが入っていなかった。というか五百円玉しかなかった。


(流石にこれ使うのはなー)


「あっ、お金なら私が」

そう言って女の子はコインを一つくれた。

「いいのか?」

「私の勝手なお願いだし。後、今日のお礼? になるのかな。それで」

「分かった。ありがとう」


和希は素直に感謝して手元のコインを見た。そして固まった。

2ドル硬貨。海外の金だった。

まあただのお手本だからいいか。そう思って賽銭の中に放ろうとして。


「あっ」


と後ろから声が掛かった。


「どうかしたのか?」

「お願い事まだ考えてなかった」

「へ?」

「だって、お願い事って神様に何かお願いするものだって聞いてるから」

「ああ」


そういうことね。

まあ本気でお願いするやつってあんまりいないんだけど。

女の子はそれから真剣そうに、うーん、と考え出した。そして、はっと気付く。


「そういえば名前聞いてなかった」

「……ようやくか」


意図的ではなかったようだ。


「えっと……それじゃ和希君のお願いは、やっぱり怖がられないことだよね」

「いきなり断定しないでほしいんだが……まあ、仮にもし願うならそうだな」

「……。うん。よしっ、決めた」


どうやら彼女の方も願い事は決まったようだ。

二人は並び、一緒に賽銭を投げる。


「そしたら二回手を叩いて願い事を」

「和希君の友達になれますように」

「へ?」

「へへっ」


驚いて彼女を見ると。笑っていた。


「和希君もお願い事いいなよ。神様きっと困ってるよ」

「え、ああ。……えっと。とりあえず第一印象で怖がられることが無くなりますように」


わざわざ声に出す必要なんて本当はないのだが、この時は吊られて声が出ていた。


「ははっ、切実だねー」

「まあ……な」

「……………私も男の子に生まれてたらよかったのに」


彼女は何かをぼそりと言った。


「は?」

「なんでもないよ。さてと。もう時間遅いし、そろそろ帰らないとね」

「え、ああ」


なんか今変な言葉が聞こえた気がしたが、気のせいだろうか。


「それなら途中まで送るよ。またナンパとかされたら大変だし」

「いいの?」

「まあ、これから一緒の学校に通う相手だし。後、一応助けたついでってことで」

「ありがとう」


彼女はそう言ってまた笑った。その顔はやっぱり。すごく可愛かった。

そしてこの日を境に……和希という人間の人生は大きく変わることとなる。そうそうまだ伝えてなかった。この日出会った彼女の名前は

桜 真―――


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