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恋、なんて。  作者: 一花
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恋、なんて。

一之瀬いちのせくんの馬鹿!」


 信号機が赤から青に変わる直前、あたしは大声で叫んだ。もちろん台詞にはビンタもつけて。


笹野ささのさん、ちゃんと話を聞いてくれないかな?」


「知らないわよっ!!」


 言い捨てて、あたしは横断歩道を走って渡った。一之瀬くんは追いかけて来ない。


 ――ふんっ! どうせあたしなんて、ごまんといる平凡な女ですよーっだっ!!


 涙をぐっとこらえながら、蝉時雨の通学路をあたしは全力疾走したのだった。



 * * *



 ――恋とはどんなものかしら?


 高校に入学すると、自然と恋愛をするものだと思っていた。そんなあたしに訪れたチャンスは、一之瀬くんに話し掛けられたことである。



 そもそも彼との接点は同じクラスの生徒だってこと。昼休み、憂鬱な気分でいたあたしに声を掛けてくれたのが、話すようになったきっかけといえばきっかけ。


「――え、口内炎?」


「うん……かなり痛くって」


「それは大変だね。俺もよくできるから、ツラいのわかるよ。――ちょっと待ってて」


 彼はそう言ってあたしを待たせ、数分して戻ってきた手元には小瓶と口の開いていないペットボトルがあった。


「これ、飲んでおくと良いよ。あとはタンパク質をちゃんととっておくこと、かな」


「ど、どうも」


 テレビCMで見たことがある錠剤をもらって、あたしは彼の前で飲んだ。水まで用意されてニコニコと見つめられた状態では断れまい。


 それに、一之瀬くんはあたしが密かに憧れていた人だったのだ。断るという行動が浮かばなかったのかもしれない。


 とにかくあたしは憂鬱気分をその錠剤とともに流し込んだのだった。



 付き合いだしたきっかけはよく覚えていない。手を繋いで帰るようになって、一緒にお出掛けして、キスをして。


 飛ぶようにふわふわとした幸せな日々は、あっという間に過ぎていった。


 だけど、そんな時間は呆気なく崩される。



 * * *



 ――一之瀬くんの馬鹿バカばかっ!!


 自分の部屋。


 ピンク色で溢れたベッドに飛び込んで、スマートフォンを握った。指先で綴る恨み言を友だちに飛ばす。


 ぽろろん。


 メッセージの到着に、あたしはすぐに画面を見る。


《話くらい聞いてくれよ》


 一之瀬くんからだった。


 ぽろろん。


《誤解なんだって》


《知らないわよ》


 ぽろろん。


 次のメッセージは既読にしなかった。



 * * *



 ――ったく、笹野さんには困ったもんだな……。


 一之瀬はスマートフォンを握りながらため息をついた。


 ――俺は誤解をどうにかしたいだけなのに。


 痛む左頬を撫でながら、一之瀬は彼女が読まないだろうメッセージを指先で綴る。


《君はどうも勘違いしているよ》


《そもそも、君と俺は付き合っていないんだ》


《帰りにつきまとってくるのは迷惑だって言ったよね?》


《土日まで僕に張り付くなんて異常だよ?》


《僕はとても迷惑しているんだ》


《だから、カノジョの前で妙なことはしないで欲しい》


《次に同じことをするようなら、しかるべき対処をするから、肝に銘じるように》


 どれも既読になることはないし、きっとつきまといも続くのだろう。


「なんでこうなってしまったのかなぁ……」


 一之瀬は頬以上に痛む頭を抱え、再びため息をついたのだった。


《終わり》


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