第六話
俺はとりあえず愛想よく笑顔を浮かべると連れてこられた労働者達は一様に顔を背けた。
訳がわからず首を傾げると鍋をかき混ぜていた宿泊施設の管理を任せている女将が大きな声を上げて労働者達の意識を向けさせた。
「坊っちゃん、後は私らに任せて次の準備をしときな」
「お願いします、トトリさん」
俺は労働者達の食事の世話をトトリさん達に任せて次の準備に取りかかることにした。
食事の後は、大衆浴場に向かい汚れをサッパリと落としてもらう予定だ。
そして宿舎へ案内して、明日からのスケジュールの説明をする。
貴重な労働力だから丁重に扱わないとね。
俺はもう一度笑みを浮かべて一礼すると広場を後にする。
「さて、うちの坊っちゃんに見惚れてないで、食事だよ!!」
広場にトトリさんの威勢の良い声が響き渡った。
驚いた。確かに整った顔立ちだとは思っていたが、ニコリと笑った顔の破壊力は計り知れない。
俺は未だに激しく脈打つ胸を押さえて息を吐いた。
そして威勢の良い女性の方へと意識を向けると、先程から空腹を刺激する鍋からスープをよそい始めていた。
「この町での名物料理、『具沢山のゴロッとスープ』だよ!!」
そういわれ、俺達は我先にとスープの列に並んだ。
配られた者達は地面に敷いてあった藁で編んである敷物に座りがっつくように食べていた。
ようやく俺の番になり、俺はスープの入った器を受けとる。
黄色のようなオレンジのような不思議な色をしたスープの中に、様々な野菜が入っていた。
俺も敷物に座るとスープを口に入れる。瞬間に舌の上を強烈な旨味が走った。
具材を食べていないにも関わらず、スープから野菜と肉の味がした。
思わず目を見開くが、それ以上に具材を食べて絶句した。
ホロホロと口の中で解れる、じゃがいもに強い甘味を残す玉ねぎ。微かにシャキッとした歯応えを残すキャベツに、口に入れた瞬間弾ける肉の腸詰め。そしてさらに驚いたのは中に入っている白っぽい固まり。
モチモチとした食感でスープが染み込んでいるこれは、小麦粉の塊だと気づいた。
噛むとモチモチとしていて、スープが中から溢れてくる。
「あぁ、それは坊っちゃんが考案した『すいとん』って奴さ。小麦粉を水で解いて茹でただけの簡単料理さ。お腹に溜まるし、味が染みると旨いだろ」
そういって女将はニヤリと笑う。
はじめて食べたが、確かにこれは美味しい。
思わずおかわりを頼みたいくらいだ。と、思った矢先。
他の人たちがおかわりを要求し始め、たちまち広場はおかわりを頼む声で満たされていった。