第五話
町の一角が賑やかな事になっている。ボロボロの屋敷が建っていた跡地は、既に建物は壊され更地となっている。
そこに新しい建物を建てるための木材や石材、建築物資が運びこまれている。
町は山の麓にあり、山の斜面に領主の館があり麓まで一本道が続いている。その道は町中の中心を通り町を囲っている門へと続いている。所謂メインストリートだ。
道脇に商店が並び、食事所が並び日中は賑やかな買い物客が行き交っている。
「…何だかんだと言いながら賑やかになってきたよな」
俺は中央広場を目指して歩きながら周囲を見回す。
この地に生まれて、俺は13歳になっていた。
声をかけてくる人に手を振りながら俺は小さく呟く。
近隣の村や町から工事の為に人員を募ったが、領地のほとんどが農業と酪農で成り立っているため余分な人手を出せない。
そのため工事が遅々として進まない。
だからといって、休みなしで働いてもらうなんてもってのほか。
それを解消するために隣り合っている領地に働きかけた。
所謂『スラム』の住人たちを労働力として貰えないかと。
そしたら嬉々として他領の領主達は『スラム』の住人たちをこちらの領地へ送ると約束した。
とりあえず、無理強いはしないでほしいとお願いしたけど…どうだろうか。
そして、今日はその「新しい住人(労働力)」がやってくる。
領主様の命令で、俺たちは隣の領地の建築要員として連れていかれる。
仕事に就くことも出来ず、町の片隅で「その日暮らし」をしていた俺たちは仕事が貰えるならと迎えに来た馬車に乗り込んだ。
二頭立ての馬車に乗りガタガタと状態の悪い道を進む。
昨日降った雨のせいだろう。普段より状態が悪くなっている。
そうして何日か馬車で移動していると、一度馬車が止まった。話し声が聞こえたため、どうやら目的の町に着いたらしいと推測する。馬車がガタンッと一際大きく揺れると、先ほどまでの悪路は何だったのかと思うくらい揺れが小さくなった。
カタンカタンと微かに揺れるだけだ。俺は不思議に思い窓から外を覗くと…石畳になっていた。
隙間無く敷き詰められた二色の石。剥き出しの道より遥かに揺れは軽減されていた。
そして、町の人々の姿が見えた。穏やかな笑みを浮かべている姿に、幼い子供が笑いながら駆けていく。
やけに時間がゆっくり進んでいるような錯覚を覚える。
そして馬車は門から真っ直ぐに伸びた道を進むと大きな広場に着いた。そこで馬車を降りるように指示され俺たちは馬車を降りると凝ってしまった身体を解すように伸びをした。
大きく息を吸うと鼻腔を擽る何とも食欲をそそる良い匂いがした。広場の片隅に大きな鍋があり、そこから温かそうな湯気と、良い香りを漂わせていた。
思わずフラフラと誘われるように近づいてしまうのも仕方ないだろう。移動中は干し肉や、焼き締めた固いパンなどしか口にしていない。
ただでさえ、スラムのような最下層に居たのだから温かな食事自体、食べた記憶は忘却の彼方だ。
フラフラと近付いていくと、鍋の前に一人の少年が立っていることに気付く。
彼は大きな鍋を覗き込み満足そうに頷いていた。視線に気付いたのか少年が振り返る。俺は思わず息を飲んだ。
サラリと肩に掛かる金色の髪に利発そうな瞳。滑らかな頬に薄い桃色の唇。「少年」と言うべきか「少女」と言うべきか悩むほど整った顔立ちをしていた。スカートを履いていたなら間違いなく「少女」だと思っただろう。
「最果ての領へ、ようこそおいでくださいました。領主の子でアルフレドと申します。以後お見知り置きを」
そう言い少年は優雅に一礼してニッコリと笑う。笑うと大輪の花が咲き誇る様に艶やかだった。思わず目を見張る。
所作の一つ一つが流れるようで、無駄の無い動きだった。
その所作に育ちの良さを感じ、俺たちに屈託無く笑いかける姿に貴族の傲慢さは一切感じなかった。
不思議な少年だった。
これが、俺とアルフレド…アルとの出会いだった。