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第四話

町の外れに放置されている、とんでもなく大きな屋敷があった。

父に聞いたところ何代も前の王族が気まぐれに作らせた別荘だということだったが、すぐに飽きたらしく、そのまま放置されているということだった。

屋敷を維持するにも、お金がかかるため、父たちも放置するしかなかったらしい。

しかし、今もそのままだということは許されない。

何故ならば、今、この領地は観光地化計画を推進している。

町外れではあるが、ボロボロの屋敷なんてあったら見栄えが悪すぎる。

しかも今、その屋敷は町の悪ガキたちの根城になっている。

老朽化も進んでおり、所々崩れているから危ないと何度も言っているが悪ガキ達は一向に聞く耳を持たない。

怪我をしてからでは遅いというのに…

なので、早急に何とかする必要があると判断した。


「父様、今、お時間よろしいですか?」


朝の執務の時間帯は自分も勉強の時間であるが、母様の許可を得て父の執務室に足を運んだ。

ノックをして声をかけると中から穏やかな声が響いた。


「お入り」

「失礼します」


執務室の扉を開けると何やら机で書き物をしていた父が顔を上げて応接用の椅子を示した。


「そこに掛けて、少しだけ待っていてくれるかい?」

「はい、失礼します」


椅子に座り改めて執務室を見回す。

『質素』の一言で表される部屋だ。

余計な飾りは一切なく。唯一飾られているのは、一振りの剣だった。暖炉の上に鎮座するそれが唯一の飾りで、後は実用性を重視した内装になっている。


カリカリと父が書き物をする音が静かに部屋に満ちていた。

窓の外に視線を向けると、よく晴れている。白い雲と青い空が広がっていた。


「待たせたね」


ペンを置いた父がテーブルを挟んだ向かい側の椅子に腰を降ろした。


「何かあったのかい?」

「はい、父様にお願いがあって来ました」


父様は、いつも笑みを浮かべていて、目が開いているのか判断しにくいほど糸目だ。

そして、怒ったり、本気になったりすると糸目が開くためちょっと怖い。


「言ってごらん」

「はい『お化け屋敷』のことです」

「町外れの、子供たちの遊び場のことだね」

「はい、あそこが所々崩れて来ているんです。危ないので止めたのですが…聞く耳を持たなくて。父様、いっそのこと壊しませんか?」


俺の言葉に父様は面白がる様に、うっすらと目を開けた。



うん、我が父ながら怖いね!




「面白いことを言うね。でも、壊すにしても費用がかかるよ。それはどうするつもりだい?」


我が領地は、貧しい。それこそ農業と酪農で成り立っていると言っても過言は無く。

そのせいもあるのか、天候不良が続くと冬を越せない人が出たりもする。

山間の村では雪に閉じ込められるのが普通で、家に閉じ込められたまま冬を越せない家族が毎年の様に出てしまう。


「初期投資として、割りきりましょう」


俺の言葉に父様は、コテンと首を傾げた。

ちょっと可愛いとか思ってないぞ。


「何のための、初期投資のつもり?」


父様の視線が鋭くなり俺を見つめた。

こ、怖くなんてないぞ!?


「景観を損ねているからです。領地の改革案として温泉を中心とした観光地化を進めている以上、やはり見た目である景観は大切だと思うのです」


俺の言葉に父様は静かに耳を傾けてくれる。幼い頃からそうだ。

父も、母も俺が突拍子の無いことを言い出してもキチンと耳を傾けてくれる。

頭ごなしに否定はしない。まずは必ず試してくれる。わからないと思った事は質問し、俺の事を否定しないでくれる。

本当に出来た人たちだと尊敬する。


「父様が、どこかに休暇に行ったと仮定しましょう。そこでは目玉の観光地だけは綺麗に取り繕われているが、町のあちこちが汚れていたりボロボロだったりしたら、またその場所に行きたいと思いますか?」

「…一度は足を運んだとしても、二度目は行かないし友人で行こうと考えているものたちがいたら苦言を言うかもしれないね。そういうことだろう?」

「はい、その通りです。今はまだ観光という観光地とはなっていません。まだまだこれからの発展が期待できる。そのような評価でしょう」

「…冷静だね」

「客観的に見ているだけです」


俺の言葉に父は柔らかい笑みをうかべる。


「それとですね」

「まだあるのかい?」

「はい、屋敷を壊しましたら、そこに『学校』を作るのはどうでしょうか」

「学校を?」

「簡単な読み書きと計算だけでも覚えれば、これから先の発展に少しでも有利になると思うのです」


俺がそう言う父は面白そうだと笑う。

これは、好感触だ。


「…やってみようか?」


父はクスクスと楽しそうに笑った。


よし、まだまだこれからやらなきゃならないことが沢山あるから頑張るぞ!

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