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第三話

そして…五年の月日が流れた。

北の大地を駆ける一人の少年がいた。


「よっと…」


少年は雪解けの始まったばかりの山を一人で登っていた。木々の影から漏れる光が少年の金色の髪を煌めかせていた。

少年は歩きなれているのだろう、迷う素振りを見せずに登っていくと白い靄が立ち上っていた。周りに雪は無く、微かにコポコポと湧き出している水から湯気が立ち上っている様子を見て少年は小さく頷いた。


「…温泉、温泉」


少年は歌うように唇を緩ませると地面に手を当てて地の眷属に呼びかけた。


「我が呼びかけに応えよ 地の眷属よ 我が前にその姿を示せ」


その声に導かれるように少年の着いた手の地面が盛り上がり人の姿を取った。

茶色の髪に緑の瞳の少女が現れ両手を天に向けてニッコリ笑った。


『はーい、呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!!』

「…よく知ってたな、その文句」

『勿論! アルの記憶を共有してるからねー』

「…まぁ、いいか。話が早いし。コレ温泉だよな?」

『うん、そうよ。アルの記憶にある「温泉」と同じ原理のものなら、この地下にあるよー』

「…掘れるか?」

『ボクに任せてー』


地の眷属は嬉しそうに言うと地面が凹み地下から温かなお湯が沸きあがってきた。

見る見るうちに凹んだ地面が豊かなお湯を湛えた浴場となる。


「このお湯を俺の家まで引けるか?」

『地面の中に通り道を作ってアルの家まで送れるようにすれば良いの?』

「あぁ、出来るかな?」

『うふふん、ボクに任せてよー!』

「じゃあ、頼んだ」

『ボクにお任せあれー!』


地の眷属はそう言うと少年を見ておねだりするように首を傾げた。少年は頷くと精霊の額に手を当ててゆっくりと魔力マナを与えた。


『うふふん、やっぱりアルの魔力マナが一番美味しいー』

「それは、何より。頼んだよ、アース」

『元気100倍! 任せてー』


少年は地の眷属に後を任せると山を下りはじめた。所々に残っている雪に足を取られ転びそうになるが、バランス感覚を鍛えるゲームだと思えば楽しくなってくる。

家が見えてくると少年はわざと雪の残るところに足を踏み出し、そのまま滑り降りて行った。


「っと…よし、転ばなかった」

「…お帰り」

「ただいま戻りました、アス。雪かき手伝おうか?」

「…大丈夫だ」


昔に比べて少しだけ話をするようになったアスと別れ、俺は家の中に入り浴室へと向かう。

排水溝を開けて井戸から汲んでおいた水でザっと水を流して浴槽を洗う。

山の方の壁に取り付けておいた筒からちゃんとお湯は出てくるだろうか。

温かさを保っているだろうか?

ワクワクしながら浴槽の縁に肘を付いていると、いつの間にか俺の左右に俺と同じ体勢をした二人の少女がいた。

藍色に近い黒髪の少女達。俺の妹たちだ。


「…兄様、何をしているの?」

「浴槽を眺めて、どうかしたんですか?」

「ふふ、お湯をお湯を送ってもらっているんだよ」


俺は妹たちに説明すると二人はお湯が流れてくると聞き、揃って目を丸くすると興味津々といった様子で俺を一緒に浴槽へと繋がる穴を凝視していた。

しばらくすると穴からチョロチョロとお湯が流れてきて、それと同時に先ほど山で別れた地精霊が顔を出した。


『呼ばれてないけど、じゃじゃじゃじゃーん!!』

「…精霊」

「まぁ、精霊さんです?」

「アース、お疲れ様。守備はどうだ?」

『勿論、上々だよー』

『わたくしが手伝ったのですから、当然ですわ』


地精霊に続き青い髪の美女が現れた。俺は目を丸くして問いかける。


「…手伝ってくれたのか?」

『…ほんの気まぐれですの、偶々ですわ。勘違いなさらないことね』


水の眷属である水精霊はツンッと顔を反らせた。


「そうだったのか、ありがとう」

『貴方のためではなくってよ、地がわたくしの子達を地面の下に送り込むから、その子たちを心配しただけですの』

「…そうか、悪かった。ありがとう」

『……温度の調節なら、わたくしがやっても構いませんわよ?』


ツンッとソッポを向きながら水精霊が提案する。

素直ではないその言葉に地精霊は面白そうに笑いを堪えているのが視界の端に見えるが、見えないふりをしよう。


「それは、とても助かるよ。ありがとう、アクア」

『っ…わたくし、忙しいんですの、失礼いたしますわ』


水精霊はそう言ってパシャンとお湯の中に消えてしまった。


「…水精霊さん、兄様のこと嫌い?」

「お兄様、嫌われているんです?」

「うーん、どうだろうね」


思いっきり、ツンデレみたいですけどね。あの子。


「とりあえず、これでいつでもお風呂に入れるぞ」


俺の言葉に妹たちは顔を見合わせて肩を竦めた。


「…兄様のキレイ好きもここまで来たらスゴイとしか言えない」

「お兄様、出来れば毎日お風呂に入りたいと言っていましたからね…」

「ん? 何か言ったか?」

「「何でもないよ(ありませんわ)」」


妹たちはニッコリ笑うと、そう言い俺は首を傾げながらも頷き返した。


後は、配管を町の方へ伸ばして下水道の整備をしないとな。

これで来年の冬は暖かく過ごせるはずだ。

床下暖房と、あとはガラスのハウスを作って冬でも何か作物を作れる様にしたいな。


こうして俺の9歳は過ぎて行った。

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