第十五話
父様に連れられてやってきた王城だったが、遠目では分からなかったことだったが。
俺はこの城によく似た建物を知っていた。スペインにある『アルハンブラ宮殿』によく似ていた。
近衛兵の案内で通されたのは居心地の良さそうな部屋だった。調度品を眺めながらソファに腰を下ろすと父様が俺を見て小さく笑った。
「その髪、とても可愛いけど自分で結ったのかい?」
「はい、ただ結ぶだけでは質素すぎるかと思ったので…似合いますか?」
「うん、とても可愛いよ」
俺は男なんだけど…まぁ、悪い気はしない。
前世が女だったためか、あまり男としてのプライド云々は分からない。
似合っているのであれば問題ない。
そう結論づけた俺はニコリと笑って父様にお礼を言った。
「ありがとうございます」
「どういたしまして、そのリボンはどうしたんだい?」
「これは、メリーとメイから貰いました。選んだのはメリーだと言っていました」
「成程ね」
双子の妹たちの姉のメリーはいかにも女の子らしい趣味をしており、妹のメイはどちらかといえば可愛い物を苦手としている。
父様はそんな二人を思い出したのか笑みを深めた。
そういえば、母様も王都に来るって言っていたけど本当に来るのだろうか。
「父様、母様も王都にいらっしゃると言っていましたが本当ですか?」
「あぁ、来るよ。領地はアスに一任してあるし、メリーとメイも一緒に来るって手紙が来ていたな」
「母様達だけで大丈夫なのですか?」
「心配いらないよ。騎獣で来ると言っていたからね」
「母様の騎獣ですか?」
領地にいた時は見たこと無いな。
俺が首を傾げると父様はクスクス笑って言った。
「マリーの騎獣は『天狼』というとても珍しい魔獣だよ。天虎と同じように空を駆ける事が出来る」
「…それに乗ってくる、ということですか?」
「そうだよ、空を駆けて来るから暴漢に会うことも無いし、何より天狼は足が速いから明日にでも着くはずだよ」
速くない?
え、ずるくない?
俺と父様は馬車で何日もかけて来たのに。
「…領地から王都までどれくらいで来るんですか?」
「二日、くらいかな」
「…母様ずるいです」
「ふふっ、天狼に乗れるのは3人までだから。マリーの騎獣で来たらメリー達はお留守番だったかな」
「……それは、可哀想なので二人が母様と来るなら良かったです」
双子の妹たちは、俺にとってとても可愛い存在で。あの子たちの為なら何でもしてあげたい。
シスコンと言われれば、その通りだと思う。
でも、可愛いんだから仕方ない。
父様とそんな話をしていると部屋の扉をノックする音が響いた。
コンココンッ!という特徴あるノックの仕方だと思っていると隣に座っていた父様が非常に嫌そうな顔をして立ち上がり扉を開けた。
「…何をしてるんです?」
「そりゃあ、話をしに来たに決まってるだろ」
快活な足取りで部屋の中に入って来た男性を俺も立ち上がって迎える。
茶色の髪を撫で付け、同じ色の口ひげを蓄えた男性は明るい金色の瞳を俺に向けて嬉しそうに目を細めて笑った。
「マリーに、よく似てるなァ!」
そう言って大股で近づいてきた男性を見上げる。
「俺はシュトルヒ・グロー・アレク・リリエンタールだ。よろしくな、可愛い甥っ子くん?」
「っ!?」
もしかして…と思った通り。目の前の男性がこの国の王様であることに俺は息を呑み慌てて一歩下がり一礼をした。焦らない、焦らない。そう自分に言い聞かせて俺は自分も名前を名乗った。
これが、この国の王様との出会い。
茶目っ気たっぷりで、憎めない。もう一人の伯父との出会いだった。




