第十四話
次の日、朝早く…というか、いつも通りの時間に起きだした俺は見慣れない部屋を見回した。
質素な部屋だ。客間ということだが、騎士の家ということだろうか、過度な装飾は一切見受けられない。
唯一、装飾されている物と言えば、部屋に備え付けられている暖炉だろうか、白い石造りの所に様々な草花の彫刻が施されていて、可愛らしい暖炉になっている。
そして、その暖炉の上に彫刻とは真逆といえる剣が飾られていた。暖炉の上に飾り剣があるのが父様の執務室と似ている。
俺は一つ伸びをするとベッドから起き上がる。サイドチェストに用意されていた顔を洗うための桶に同じく用意されていた水を入れて顔を洗う。ついでに髪が跳ねていたのでそこも水で濡らす。
チェストの引き出しからブラシを取り出して鏡の前に向かい椅子に腰かけてブラシで跳ねていた髪を梳いていく。
しかし、なかなか跳ねた髪が直らない。俺は少し魔力を使い風を呼びそこに熱を加えて髪に当てた。
所謂『ドライヤー』の様なものだ。今のところ、これは俺にしか使えず、リーリアに詰め寄られたこともある。リーリアは母様の侍女で母様の身支度を一手に引き受けているため母様の緩い天然パーマに苦戦しているらしい。
しかし魔力の制御が難しいらしくなかなか『ドライヤー』にならない。
加減を間違えると『ファイヤーストーム』になるからな。どうも『熱』を加える部分が上手くいかないらしい。
熱=「火」ってイメージだからかもな。
そんなことを考えながらも俺の手は止まらず跳ねていた髪は大人しくなり普段通りサラサラの手触りになる。俺はその髪を一つに結び部屋を出て前庭に向かう。
「おはようございます、父様」
「おはよう、アル。よく眠れたかい?」
「はい、ぐっすり寝れました」
「それは何より。それじゃあ始めようか」
「はい、よろしくお願いします」
前庭に出ると朝陽の中で父様が立っていた。
その手に握られていた木刀の一本を俺に投げてお互い向かい合って構える。
幼い頃は見ているだけだった鍛錬は、今は朝一の日課となっている。
いつも通り父様と打ち合いをしていると、音を聞きつけた祖父と伯父も参戦して朝からあり得ないほど濃密な鍛錬となった。
祖母と伯母が呼びに来るまでに全員が汗だくになっていたのは仕方ないだろう。
そして、賑やかで和やかな朝食を済ませ、祖父と伯父は騎士団へと出かけて行った。
「昼食前に王城へ行くから準備しておきなさい」
「準備ですか?」
「心の準備だね、身支度はこのままで構わないから」
「いいんですか? 平服で…」
「文句を言われたらそのまま帰ろうと思う」
父様はそう言ってニコリと笑みを深める。
その笑顔が黒いのは、俺の気のせいではないだろうと思う。
俺は素直に頷いて客間に戻り鏡の前で今一度自分の姿を見た。
サラサラの金髪に、青紫の瞳。白くて透明感のある肌に桜色の唇。
これが自分だとは思いたくないけど、生まれてから見続けてきた自分であることに変わりは無くて…
「未だに、見慣れないって思うんだよ…」
俺はそう言って小さくため息を吐くと鏡に映る顔も憂いを帯びた表情でこちらを見ている。
せめて、父様みたいな黒髪だったらな…まだ見慣れていたかもしれない。
そんなこと言っても仕方ないんだけどな。
「身支度っていってもなぁ…せめて髪の毛だけでも結んでおくか…確かメリーが上等な紐を用意してくれてたはず…」
持ってきていたカバンの中を探すと小さな小袋が入っていた。
開ければ中に普段使っている物より上質な紐やリボンが出てきた。
俺はそれを持ち鏡の前に座ると髪を結ぶ。ただ結ぶのじゃ味気ない気がしたため、髪を編み込む。
編み込んだ髪を後ろで一つに結べば上等なリボンと相まってなかなか様になっていた。
「これで良いか」
俺は一人頷き時間まで日向ぼっこをしようと庭に向かって歩き出した。




