第十二話
俺の心の声が父様に届くはずも無く、父様は呆然愕然とした表情をしているであろう俺を見て首を傾げた。
「…父様、この辺りは王城から遠いように思うのですが?」
「ん? あぁ、そういうことか。屋敷がこの辺りにあるのは元々我が家が下級貴族だったからだよ」
「えっ、そうなんですか?」
「元々は平民だったご先祖様は剣の腕で武功を上げてね、その武功の褒美として叙勲されて貴族位を賜ったんだ。それ以来事あるごとに爵位が上がって気が付いたら侯爵だったって訳」
気が付いたら『侯爵』ってそんなことあるのか?
貴族の爵位上がるって相当大変なんじゃないの?
我が家がちょっと変わっているのは知ってたけど…父様の家系からおかしかったんじゃ仕方ないか。
「何だか失礼なこと考えてる顔つきだよ、アル?」
「っ…そんなことありませんよ」
「まぁ、屋敷の移転もずっと言われているんだけど…その度に断り続けてるね」
「何で断るんですか?」
「さぁ?」
父様は肩を竦めて笑った。
その様子に何か裏がありそうな予感がしたが、今は触れないでおこうと思う。
「さあ、そろそろ着くよ」
「は、はい…」
初めて会う親戚ということで俺は少し緊張していた。
父様に促され顔を上げると青い屋根の白亜の屋敷が建っていた。
屋敷の前庭は美しく整えられ、花壇には色とりどりの花が咲いていた。
そして、屋敷の玄関には人影が待ち構えているのがわかった。
門を開けてくれた門番は人好きする笑みを浮かべて俺たちに会釈して中へと促す。
父様と前庭を通り抜け屋敷の前に着くと待っていた人たちの顔立ちがはっきり見えた。
待ち構えていたのは六人の男女で、いかにも『騎士です!!』言わんばかりの筋骨隆々とした男性が二人に眼鏡を掛けた知的で素敵なロマンスグレーの老紳士。
質素ながら品のあるドレスを身に着けた女性が二人に、動きやすさを重視したような素っ気ないワンピースを身に着けた妙齢の女性。
「ただいま戻りました。父上、兄上、母上、義姉様」
「お帰りなさい、ルド。元気そうで良かったわ」
「母上もお元気そうで何よりです」
「また痩せたか?」
「父上、引き締まったと言ってください」
「お帰り、ルド」
「兄上も…お元気じゃないとき無いですもんね」
「お前、久しぶりに会ってそれは無いだろう…」
「ふふ、アナタはいつも元気があり余っているからルドが正しいではないですか…」
「義姉様も、兄がいつもお手間をかけてすみません」
「いいのよ、それを含めて可愛い旦那様だもの」
「…相変わらず仲がよろしいようで安心いたしました」
父様が家族、一人一人と抱擁を交わしながら挨拶をすませる。
その和やかな雰囲気に俺は緊張が解れていくのを感じた。
「それより、可愛い孫を私たちに紹介して頂戴?」
祖母であろう、穏やかな笑みを浮かべて俺を見ていた女性が父様を促した。
「そうですね、あなた方の可愛い孫で、私の可愛い息子のフレイル・アルフレド・リヒテンダールです」
「初めまして、おじい様、おばあ様、伯父様、伯母様。どうか『アル』とお呼びください」
父様に促され、母様に叩き込まれた作法に従い一礼する。
名前を名乗るときは、ハキハキと。口元は緩く笑みを浮かべ、目尻は下げる。
右手は左胸に当て、左手は体の後ろに回す。動きは急がず、ゆったりと流れるように。
その所作に祖母と伯母は『ほぅ』と感嘆の吐息を洩らす。
一礼した動きに合わせてサラリと肩を流れ落ちる金の流れに目を奪われる。
「立派な挨拶に感謝を。顔を上げなさい、アル」
祖父の呼ぶ『アル』の名前には歓迎の温かな色が灯っていた。
俺はゆっくりと顔を上げてニコリと笑みを向けると祖母が淑やかな所作のまま素早く近づいてきた。
「まぁまぁ、とっても可愛いわ! 私の事は『おばあちゃま』って呼んで下さいな!」
「え、あ…えっと…おばあちゃま?」
「可愛いわ!!」
祖母は俺をギュッと抱きしめて少女の様に明るく、朗らかな笑い声を上げた。
「ずるいです、義母! 私の事は『マリーカ伯母様』って呼んでちょうだい!!」
「…マリーカ伯母様?」
「可愛いわっ!!」
今度は伯母にもギュッと抱きしめられる。
その温かな歓迎に俺は嬉しくてクスクス笑い父様を見上げる。
父様も祖父や伯父と嬉しそうに話しながら俺を見てニコリと笑い返してくれる。
こうして、俺を親戚の顔合わせは終始和やかな雰囲気で終わったのだった。
ちなみに、素敵眼鏡のロマンスグレーの人は執事長のノモス。動きやすそうなワンピースを着ていたのがメイド長のファロゥという屋敷の管理を任されている二人だった。




