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第十一話

貴族街は道の隅々まで清掃が行き届いている様で石畳にゴミなどは一つも落ちていなかった。

ただ、周囲を歩く人の姿も無かったが…。


「父様、貴族街とはいつもこんなに静かなのですか?」

「あぁ、そうだね。この時間帯は出歩くものは少ないよ。」


今の時刻は昼を少し過ぎたくらいだ。


「…貴族は、その多くの時間を社交に費やしている。そしてその社交の時間は大体昼過ぎから夕方、夜にかけて行われている事が多い。今の時間はその為の準備に追われている時間帯なのさ」


父様は肩を竦めながら説明してくれる。


「それに、士官している者たちの多くは王城で働いている時間だからね」

「そうなのですか…それで父様、どちらに向かうのですか?」

「私の実家だ」

「父様の実家ということは…おじい様のお家ということですね」


しかし、今まで父様から実家の話をされたことも無いし実感がわかない。

何より、父様や母様は自分の事をあまり語らない人だし。

自分の家が貴族であることは知っていたが、学院のことは一切知らなかった。

王家からの手紙が無ければ学院に通わせるつもりも無かったのだろう。


そんな事をつらつらと考えながら歩いていた俺は空を飛び進む影に気付き顔を上げた。

それは白い艶やかな体毛に太陽の光を反射して輝く騎獣だった。

姿は虎に似ている、力強く天を駆ける姿に目を奪われる。

そんな俺の視線に気づいたのか父様も天を見上げて感嘆の声を洩らした。


「…珍しい、あれは『天虎』だね」

天虎てんこですか?」

「あぁ、西方にある霊山にしか生息しない珍しい魔獣まじゅうだよ」

「へぇ…」


西方って事は、西か…白虎びゃっこみたいな霊獣れいじゅうかな?


その美しい獣は王城の方へと駆けていくのを見送り父様と歩き出す。

王城は浮島の中央にあり、王城の近くの屋敷は上級貴族、そして王城から離れていくごとに身分が下がっていく構造になっている。

俺たちが通って来た転移陣は王城へ続く一番近い所だったが周囲の屋敷は下級貴族の屋敷だと聞き歩いて移動するには距離があるなぁ…と内心思っていた。

てっきり騎士団長の屋敷というからには相応の身分だと思っていたが、下級貴族の屋敷の立ち並ぶ所に父様の実家があった。


「…父様、家は下級貴族なのですか?」

「ん? いや…実家は侯爵だったかな?」


いや、待って父様。

それって、上級貴族だよね!?

おかしくない!?


 

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