誰のモノ?
主人公が陸上部なので、簡単な陸上用語が少しだけ出てきますが、ほとんど恋愛しかしてません。笑
長い目で見てください♪( ´▽`)
「んーーー。
今日はいい練習だった!」
そう言って私は体を軽く伸ばす。
時は7月下旬。
今日は競技場で練習の日だった。
陸上部に入部してまだ3ヶ月少々しか経ってないのに、ここまで慣れるものなのだとすこし感激する。
…まぁ、中長距離の練習が辛くないと言えば嘘になるけれども。
1人で苦笑いをしてダウンに行こうと立ち上がったところで、後ろから抱きつかれる。
「来花ーっ!」
このソプラノの可愛らしい声。
どう考えても1人しか候補がいない。
「祐里、練習終わった?」
そう言って、私に抱きつく幼馴染に笑いかける。
すると祐里は私から離れて、隣に来る。
「終わったっ!だから来花、一緒にダウンしよう?」
そう言ってニッコリ笑う。
柔らかそうなボブショートの髪に、穏やかな口調。そして可愛らしい顔立ち。
私の自慢の幼馴染だ。
「いいよ」
そう言って私は祐里と軽く走り出す。
このダウン。
高確率で恋話になるんだよなぁ…。
まぁ、私が祐里に関する勘なんて外す訳も無く。
予感的中。
「ねぇ、来花?
来花は今、好きな人いないの?」
上目遣いで聞かれる。可愛いな、このやろう。
「いないよー」
そう言って、作り笑いをする。
「嘘。だって笑顔作ってる。」
簡単に見抜かれてしまう。
あーもう。祐里には敵わない。
「いるよ?」
そう言ってニカッと笑う。
「本当に?誰?」
いかにも興味深々という様子で私の次の言葉を待っている。
…こんなに純粋な目を向けられると、少しだけイジリたくなる。
「祐里だよ」
そう言って黙ってみる。
祐里は少しだけ驚くが、すぐにクスクス笑い出す。
「私も大好きだよ?」
そうやって私の冗談に乗ってくれた。
ほら。
良くも悪くも祐里には偽りは通用しない。
「さぁ、戻そっか。」
そうスマイル100%で言われる。
絶対わざとだ。
地味に私の逃げ場を奪っている。
やばい、誤魔化せない。
「おー、来花!」
私が祐里にジリジリと攻められてる途中、後ろから声をかけられる。
振り向けば、薄い茶色の猫っ毛、色素の薄い猫目の男子がいる。
「希羅先輩…」
「お前ら、相変わらず仲良いな」
そう言って目を細めて笑う。
「そりゃあ、幼馴染ですもんっ」
そう言って祐里が満面の笑みを向ける。
「おーおー、妬けるね」
希羅先輩はニヤリと笑いながらからかう。
「希羅先輩が妬く要素どこですか…」
そう言って笑えば、希羅先輩は笑ったまま
「色々と?」
って笑った。
不覚にも、少しだけ心臓が高鳴ったと感じたのは気のせいだ。
「きーらーっ!」
遠くから希羅先輩を呼ぶ声が聞こえる。
祐里は希羅先輩の方を向いて
「瑠衣先輩と光先輩が呼んでますよ?」
と呆れた様に笑えば、希羅先輩は
「んじゃ、俺行くわ」
と、声のする方へ走っていった。
ダウンも終わって、ストレッチを始める。
上手く逃げられるかと思った。
…まぁ無駄だったけど。
「それで?誰が好きなの?」
逃げれません。腹を括るしかなさそうです。
というか、祐里は他人のことには敏感だから絶対に気がついてる。
「その前に、祐里の話を聞かせてよ。」
何とかして話題をずらそうと頑張ってみる。
祐里は首を傾げる。
「私の話は、もう知ってるでしょ?」
そう言って笑った。
うん。知ってる。
祐里が好きなのは瑠衣先輩。
恐らく両想いだと思うんですけどね。
「知ってますね…」
私は遠い目をして答える。
祐里が溜息をつくのが隣から聞こえる。
「来花が口を割らないのなら当てるまで。」
さらりと恐ろしいことを言う祐里。
ちょっと待って。
当てられる気しかしない。
そんなハラハラの私を見て、祐里はクスリと笑う。
「希羅先輩でしょ?」
私が祐里に敵うものはあるのでしょうか。
本当に全部わかられているようで。
恐怖を感じるくらいに。
ただ今は恥ずかしいという感情ばかりで、顔を隠してしまった。
「だっ、誰にも言わないでよ?」
そのままそっぽを向けば、祐里は笑った。
「言わないって。
私だって瑠衣先輩のこと話したの来花だけだしね?
まぁ、自覚したのもつい最近だからなんだけど。」
チラリと祐里を見れば、少しだけ頬が赤く染まっていた。
本当に《恋する乙女》という言葉が似合う。
その可愛らしい顔を私に向けて
「いつから?」
と聞いてくる。
話題を逸らす事も出来ず、諦めて全部話すことにした。
「…恥ずかしい話、一目惚れに近い。
私に普通に話してくれる男子なんて珍しかったし。
あの人、色々とちょっかいかけてくるから気になっちゃって。」
恥ずかしい。
自分の恋話ってこんなに恥ずかしいのか。
祐里は楽しそうに聞いている。
「でもね。」
気がつけば、無意識で言葉を紡いでいた。
祐里は首を傾げて「でも?」と聞く。
私は、続けた。
「でもね、希羅先輩を好きになった1番の理由は。
偽りを見破ってくれた、からなんだ。」
自己中心的な惚れた理由に呆れながら笑えば、祐里は微笑んで
「そっか。」
と呟いた。そして、言葉を続ける。
「なんか新鮮。来花の恋話なんて。
これから協力するからね!
それとなく、瑠衣先輩にも探ってみる。
って、瑠衣先輩話したいってのもあるんだけどね。」
私の為だけに、とは言わない。
だからこそ重くない。
それに幼馴染の祐里の言葉は誰よりも重みがあって。
「お願いします」
と、無意識に頼んでしまった。
祐里はクスリと笑って頷いた。
「おーい、そこの2人!
幅の片付け手伝えー」
少し先から瑠衣先輩の声がする。
祐里は少しだけ頬を赤らめて、瑠衣先輩の方を向いた。
「今行きます!」
その目は輝いていて。
瑠衣先輩はそれを見て満足気な顔をして、幅の方へ走っていった。
どう見ても両想いなんだけどなぁ…。
無自覚両想いな2人を見て、胸焼けしそうになりながら、幅跳びピットの方へ向かう。
その途中に高跳びピットのほうを見る。
希羅先輩達が片付けを手伝っていた。
「ちょっと、希羅!
これは普通男子が持つものでしょ!?」
そう反論する美香先輩の声が聞こえる。
希羅先輩はヘラヘラ笑いながら
「お前なら持てるだろ?」
とか言ってる。
…好きな人に言うセリフじゃないけど、酷いと思った。
でも仲良いからこそ出来るんだよな。
幼馴染って言ってたっけ。
ちょっと……いや、かなり羨ましい。
少しだけ、モヤモヤしてしまう。
…美香先輩は大好きなんだけどなぁ。
「らーいーか?」
ふと祐里に呼びかけられて我にかえる。
私は上の空で幅の片付けをしていたようだ。
「な、何?」
極力平然を装って返事をする。
当然、祐里には通用せず膨れっ面で睨まれる。
「上の空だった!
力仕事多くて怪我する人もいるんだから、ちゃんと集中しないと危ないよ?」
ちゃんと私のことを考えてくれていて。
嬉しくて、笑みが溢れてしまった。
あの居心地の悪いモヤモヤも薄れた気がする。
「まぁ。何も無かったから良かったんだけど。
…来花の視線から察するに、希羅先輩と美香先輩が話してたからでしょ?」
本日2度目の図星を言い当てられる。
「えっ、いや、うん…」
否定出来なくて、タジタジになってしまうと祐里はニヤリと笑った。
「やっぱりね?
私はね、美香先輩と希羅先輩は何もないと思う!
だってさ、見てみなよ。」
そう言われて、私は祐里の指差す方を向く。
重い物を何も言わずに持っている美香先輩。
その後ろに光先輩が来て、無言で美香の持っているものを持っていく様子が見えた。
…遠いから声とか、表情はよく見えないんだけど。
「ね?
私はあの2人の方がお似合いだと思うんだなぁ」
そう言って、祐里は私の方を向いて悪戯に笑う。
「がんばりな」って言ってもらった気がして。
小さく頷いた。
幅の片付けが終わって、荷物を取りにいく。
時間がギリギリなので、ミーティングは外で行うらしい。
戻ろうと歩いてる途中に長袖が落ちてるのに気がつく。
どう考えてもうちの中学校のジャージだった。
…サイズ的に男子か?
そんなことを考えながら、拾い上げて名前を見る。
名前を見た瞬間溜息が出た。
同じ種目の男子、冬都のだったから。
「冬都っ!!」
大声を出してそいつを呼ぶ。
当の張本人は何も知らない顔で、私の方を向く。
「これ、誰のかな?」
ニッコリとわざとらしく笑って問いかける。
「俺のー」
何の悪びれもなく冬都は答える。
私は思いっきりジャージを投げつけた。
「それは無いだろ!?
もう少し優しく出来ねーのかよ」
「お前が悪い。」
不服そうな冬都に私はスッパリと言い返す。
小さくぼやきながら冬都は友達のところへ行く。
私はそれを呆れながら見ていた。
まぁ、こんなにぶっきらぼうに出来るのも男子では冬都くらいだけど。
「来花、これお前の?」
後ろから声がした。
一瞬、希羅先輩かと思った。
でも声のトーンが違う。
多分この声は瑠衣先輩。
少しだけ残念に思った。ごめんなさい。
「なんか、落としました───っ!?」
振り返れば瑠衣先輩が少しだけ笑いながら、希羅先輩の腕を掴み、指差していた。
「は、なっ、何言ってるんですか!?」
私は慌てて、おそらく真っ赤になりながら否定する。
「いや、希羅と来花って仲良いだろ?
だからさー」
「おい、瑠衣。
冗談が過ぎる。来花が困ってんだろ?」
淡々と話す瑠衣先輩を遮るように希羅先輩が否定する。
…願わくば、そうしたいです。
だなんて、ね。
何も言わないまま、苦笑いを浮かべた。
その後、皆が集まってるところに走って行き、ミーティングに参加する。
あとは解散。
現地解散なため、皆、バラバラで帰る。
いつもなら祐里と一緒に帰るのだが。
「来花っ。ごめん…。
あの、ね。瑠衣先輩のお姉さんの誕プレ選び手伝うことになっちゃって…。
今日一緒に帰れない…。」
と、可愛らしく謝られてしまった。
「いいよ、行って来なよ?
たーっぷり楽しんできなね?
そのかわり、ちゃんと話聞かせるんだぞ?」
あの2人に発展があるなら嬉しい限りだ。
今日は1人で帰るとしよう。
「ありがと」
祐里はそう言うと、そのまま瑠衣先輩のところに走っていった。
…早く、付き合ってしまえばいいのに。
楽しげに2人で歩く祐里達を見届けて、私は歩き出す。
1人で帰るとか久しぶりだな、とか思ってたら。
「来花1人?祐里と喧嘩でもしたのかよ?」
そう言って隣に冬都が並んでくる。
「喧嘩しても、大して長引かないし」
私は苦笑いで答える。
「は?いつだか1週間くらい話してなかったよな?」
「それは、お互いの勘違い。」
私は冬都相手に愛想を振りまくのを面倒だったので、苦笑いだけ浮かべていた。
「ふーん、というか、来花1人なら…」
「冬都」
何か言いかけた冬都を遮った声。
振り返れば希羅先輩がいた。
…どこか機嫌が悪いように感じるのは気のせいか。
きっと気のせいだな、うん。
希羅先輩はニッコリと笑い、後ろを指差す。
「あいつら、冬都のこと呼んでたぞ?」
口調が柔らかいのがちょっと怖い。
「まじすか」
そう言うと冬都は「じゃ」と短い挨拶を残し友達のとこに戻る。
私の耳元で
「よかったな」
とだけ、呟いて。
…いつ気がついていたんだ、あいつは。
「行くぞ」
ご機嫌斜めの希羅先輩に腕を引かれる。
「え、行くって、何処にですか!?」
状況が把握できなくて、思わず聞き返してしまう。
「祐里、瑠衣と帰ってるんだろ?
だから俺が送ってく。」
「え!?悪いです!大丈夫です!」
希羅先輩の優しさは嬉しいが、そんなの恥ずかし過ぎる。
ので、全力で断る。
一緒に帰りたいのは山々だけど…。
「うるせぇ、俺がしたいからするんだよ。
おとなしく従え。」
そう言って笑う希羅先輩。
そんな顔で笑われたら断れないじゃないですか。
「…じゃあ、お願いします」
お言葉に甘えることにした。
2人でトタトタ歩く。
沈黙が続く。
私に至っては緊張と恥ずかしさで上手く話せない。
「今日さ、」
希羅先輩が口を開く。
少し救われた気分になって、すぐに希羅先輩の顔を見上げる。
「瑠衣が、ごめんな?」
そう言って苦笑いを浮かべていた。
「いや、大丈夫です!」
そう言って私は真っ直ぐに希羅先輩を見る。
希羅先輩はそんな私の顔をじーーっと見つめてくる。
「き、希羅先輩…?」
「偽ってない、な?よかったぁー!」
そう言って満面の笑みを浮かべる。
…なんだよ、その笑顔は。
可愛すぎですよ、ばか。
「祐里も希羅先輩もなんでそんなわかるんですか…」
照れを隠すように顔を背けて呟く。
希羅先輩は少し悩んで
「理由はねーんだけどさ。
多分、いつも見てるからじゃね?」
私の顔は真っ赤になってるだろう。
照れ隠しのための話題で更に照れるとは思わなかった…。
「なぁ、来花。変なこと聞いてもいいか?」
急に声のトーンが低くなったことに少し驚きながら、希羅先輩の方を向く。
「なんですか?」
私は首を傾げた。
希羅先輩は少し伏せ目がちになって、口を開く。
「来花は、誰かのもの、なの?」
一瞬理解が出来なくて。
「私はモノじゃ無いです…」
だなんて、間抜けな答えを言ってしまった。
希羅先輩は少し吹き出して。
「違くて。
来花、誰かと付き合ってたりするの?
……冬都とか。」
「冬都は無いです」
とりあえず、それだけは即答しときたかった。
そして、質問に答える。
「付き合ってたりしないですよ?
というか、いきなりどうしたんですか?」
希羅先輩は少し唸った後に
「じゃあ好きな人は!?」
と聞いてくる。
…流石に『先輩です』だなんて言える訳もなく。
とりあえず、愛想笑いで済まそうとした。
「で、どうなの?」
…本当になんで希羅先輩には通用しないんですかねー。
私は小さく溜息をつく。
「います、よ…」
目の前に本人がいるのに、好きな人の話なんて。
何と言う公開処刑だ。
私はどうしようもなく恥ずかしくなって
「なんでですか!?」
と聞き返してしまった。
前を向けば顔を抑えてる希羅先輩がいて。
少し悩んでるような様子で。
どうしたんだろう、と思って覗き込もうとしたら、肩を掴まれる。
「なんで、って…」
小さい呟きが聞こえる。
私が希羅先輩を見れば、目が合った。
真っ直ぐに見つめられる。
「好きだからだよ。来花のことが。
…俺の彼女になって下さい。」
そう、ハッキリ言われる。
少しだけ理解が遅れてしまった。
ジワジワとハッキリしていく言葉。
全ての言葉が繋がった瞬間
「ーーーーッ‼︎‼︎」
声にもならない声が出て。
顔は火が出ると錯覚するくらい真っ赤になって。
ありえない、と思った。
「返事、は?
俺、今めっちゃ恥ずかしいんだけど…」
真っ赤になった希羅先輩が問いかけてくる。
私が口ごもると
「本気だからな?」
と付け足される。
あーもう、本当にこの人には敵わない。
「…私も、です。
私も希羅先輩が大好きです!」
顔を見られるのが恥ずかしくなった。
真っ赤だから。
だから、そのまま希羅先輩に抱きつく。
「ふぁっ!?
ら、来花!?」
頭上で希羅先輩の戸惑う声が聞こえる。
「絶対に見ないで下さいね」
私がそう告げると、希羅先輩はそのまま黙った。
「なぁ来花。俺、今すげー幸せ。」
「何言ってるんですか、私もですよ」
そのまま少しだけ沈黙が続く。
私が顔を上げると、希羅先輩と目が合う。
2人揃って笑い出した。
「これからよろしくな?」
「よろしくお願いします」
この日から、私はこの人の彼女になれたんだ。
そう考えると嬉しくて堪らない。
私は希羅先輩から離れる。
再び歩き出そうとすれば、希羅先輩は無言で左手を差し出す。
私はその手を、右手で握った。
「…俺、来花のこと離す気ないからな」
「奇遇ですね、私もです」
そう言って挑発的に笑えば、向こうも笑った。
ずっと、一緒にいてもらいますからね?
…大好きですよ。
ーendー