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酒ノ怪

 拍手100怪記念です。

 紅い屋敷・四ノ怪にて語り手の鈴音が泥酔してしまい、一人称不可・やや人格崩壊の為、悩んだ末に没になったものです。

 というわけで三人称にて話は進みます。ちなみに鈴音は泥酔につきやや人格崩壊しております。そういったものは苦手という方は閲覧を控えることをお勧めいたします。

 よろしい方はどうぞ、お進みください。

「早く飲め」


 急いてくる紅に困り顔が手元の盃を覗きこむ。白い盃に注がれた薄桃色は優しい香りをほのかに漂わせ、溜息に似た吐息に触れると、狭い円の中で小さく波紋を広げた。

 ちらりと怯えが滲む瞳が鬼を見れば、鈴音は観念したかのように目を伏せて、一気に盃の中身を呑みこんだ。

 酒に慣れていない体にきつい刺激と熱さが行き渡る。頭が大きくぐらりとするものの、鈴音は苦い顔を浮かべながらなんとか酒を全て飲み干し、ほっと息を吐いた。


「ほお~。ナカナカ良い飲みっぷりじゃないカ。そら、もっと飲め」


「えっ! いや、あのもう」


 やっとの思いで飲み干した盃になみなみと注がれる酒。鈴音の制止も聞かず鬼は溢れる寸前まで盃に酒を満たした。

 嘘でしょ……。

 すでに頬が赤く染まりはじめた顔を引き攣らせて手元の酒を見下ろす。鈴音が思わず固まっていると、鬼はまた「飲め」と強く促した。

 それでも戸惑っていれば、また鋭い紅に睨みつけられ、鈴音はほぼ自棄になってぐいっと盃を飲み干した。

 そんなことが何度か繰り返され、半時が経過する。


「そもそもお前は俺を敬っていないダロウ?」


「そんなことは……ない、ですょ」


 鬼の説教に半分ふらついた頭を手で支えながら返答する鈴音。酔いが回って舌もうまく動かせないせいで、若干呂律が回らなくなっている。


「マッタク。お前はどうしたら俺に懐くんダ? こんなに良くしてやっているのに」


「はぁ……すいません」


 ふらっと鈴音が上体を揺らすと、その肩を鬼が掴んで支える。


「おい寝るナ。まだ飲め! 大体鈴音はダナ――」


 自身も酒を煽りつつ、鬼はいつもの長い説教を再開しながら鈴音の盃に酒を継ぎ足す。鈴音はすっかり条件反射で酒を飲むようになってしまい、無意識に盃の中身を口へと持っていった。

 そして更に一時が経過する。


「俺はお前を思って言ってやって」


「鬼さん」


 今まで一方的に話していた鬼の声を遮って鈴音が低く呟く。鬼が普段の声音と違う鈴音の声に眉を顰めて、その方を見やれば、鈴音は今まで項垂れたように伏せていた顔をゆっくりと上げた。


「さっきから好き勝手に言ってますけど……わたしだって言いたいことたっくさんあるんれすよ!」


 完全に据わっている目が妖しい紅向けられ、盃が皿の角に当たり甲高い音を立てた。


「鬼さんみたいな意地悪大魔王みたいなひとに、だっれが懐きますか! だいたい鬼さんは嫌味は多いし変に色気あるからハッキリ言わせてもらいますけど、歩く18禁みたいな人には関わりたくないんれすよ!」


「は、……は?」


 いきなり早口に捲し立てる鈴音に珍しく驚きの表情を浮かべた鬼は、顔を近づけてきた鈴音に僅かながら後ろへ仰け反った。


「だいいち鬼さんはやらしーんれすよ。セクハラばっかりだし。鬼の大将じゃなくてスケベの大将ですよ。……あ。セクハラって知ってます? せくしゅあるはらすめんとって言うんですよ! あははははは」


 呂律が回っていないせいで聞きなれない単語がより聞き取りづらい鬼だったが、鈴音が大変失礼なことを自分に向けて放っているのは理解出来、思わず顔を引き攣らせる。

 しかしそんな鬼にもお構いなしに豪快に笑う鈴音は、今度はニヤニヤしながら鬼を上目づかいに見た。


「なーに? 鬼さん怒ってるの? でも手は出せなんだもんねー。残念ですねー。約束しちゃいましたからねー」


「お前……」


「出せるもんなら出してみたらいーんじゃないですか? 約束破っちゃいますけどー」


 今まで引き攣らせていた顔がすっと真顔になる。鈴音の腕を紅い腕で引き、自分の胸元に寄せるとその場に鈴音の背を倒した。


「だったら『帰りたい』と言ったら良い。鈴音が満足するマデ手を出してやろうじゃナイカ」


 いつになく妖しく光る目が鈴音へ向けられる。鬼の下にはすでに笑うのをやめて同じように真顔になった顔があった。


「鬼さん……って」


 僅かに開いていた口元が動き、鬼がそれを見つめていると


「まつ毛長いんですね」


 左側面の目元にまで広がっている格子柄を、ほんのりと温かい手が撫でる。


「笑うと口が裂けるのに、鬼さんって綺麗な顔してますよねぇ。いつも怖い顔とか意地悪な顔しかしないから、普段はそんなこと忘れちゃいますけど」


 怯えの無い、敵対心も無い穏やかな表情。酔っているせいで頬がすっかり紅くなり瞳も潤んでいるが、初めて向けられる眼差しに鬼は動くことが出来ないでいた。


「お前は……俺を怨んでいるカ?」


 手の甲でゆったりと林檎の様な頬を撫でる。熱っぽい目が何度か瞬くと口元に笑みを作り「いーえ」とゆるり顔を小さく左右に振って、ひと言。


「大っ嫌いです」


 にっこり笑って言った鈴音に、鬼は一瞬にして固まった。


「それより鬼さん。鯛は鯛でもいつも寝ボケている鯛はなんでしょう?」


 未だに硬直したままの鬼を放っておいて鈴音はニコニコ喋り出す。


「やっぱり、『ねむたい・・・・』かな?」


 言い終えた瞬間、一人吹き出し大笑いする鈴音。それを見た鬼は何が面白いのかも分からず唖然とし、ただただ一人鬼の下で笑い転げる鈴音に情けない溜息しか出なかった。


 半時後、来客がくるまで笑い疲れた鈴音は眠り、鬼は渋い顔をして額を抑えながら一人お酒に耽るであった。



 

 

 お目汚し失礼致しました。

 ありがとうございました。

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