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パンツは、はいててもいいですか?  作者: 北 郷
第2章 高校編(パンツをめぐる攻防)
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3枚のショーツ

誘雌から渡された3枚のショーツ。これを何に活用しろと?

――― って、これと一緒に寝ろって?いやその前に、これを持って帰ろってこと?

 ちょっと待ってくれ。幾ら何でも、女性ものショーツを握り締めて帰るなんて、そんな危険なことこの僕に出来る訳が無い。

 万が一誰かにその事実を誰かに見つかってしまったら、この先の人生が変質者としてのレッテルを貼られてしまうかもしれないし。いや、それで収まればまだしもだ。早とちりのお騒がせおばさんにでも見られてしまったら、110番に通報されたあげく警察署に連れて行かれるなんてことだってあるかもしれない。そして、親を呼ばれた上に一度も通っていない高校に連絡され、最悪停学なんてことだって、今の運の悪さを考えると全く有り得ないとは言い切れない。まずい・・・。

 かと言って、ズボンのポケットに入れて持ち帰るのはどうだろうか?いや、ポケットと言う狭い密閉空間は妙に感触が地肌に伝わり易い。万一発酵でも起こしたら大変だ。近々の身体に影響を及ぼす可能性が高過ぎる。そんなところを見られたらそれこそ不審者だ。

 いやいやその前に、今ここで誘雌の掌の中の三角形的な物体に興味を示してしまえば、この木戸姉弟にどんな汚点となるやもしれないではないか・・・。


 僕はそのお宝を、いや危険物を目の前にして身体は全く固まってしまい、その物体から視界から外すだけでも精一杯なのに、何故か負の方向にだけはコンピューター並の思考を巡らし続ける。

 ある意味、人生5度目の金縛り状態と言っても言い過ぎとは思えない。

 これを世間ではパニック呼ぶのだろうか。もし、これをパンツパニックと呼んだらタイタニックの次くらいには、ゴロだけはいいかもしれない。

 子供の頃のトラウマなのだろうか?誘雌の言葉を断るなんてことも全く思いつかない僕は、暫し銅像の様に固まっていた。

 が、そんな身動きの出来ない僕を、奇跡の高貴の一言が救ってくれたのであった。


「ちっせぇーパンツ」


 たかだか目の前のものをそのまま表現した簡素な言葉。だが、”シンプル イズ ベスト”とは良く言ったものだ。その言葉は魔法の言葉となった。

 僕の心身は見る見るうちに軽くなって来る。血液がどくどくと体内を流れるのを感じ、四肢が脳裏に反応を開始するのを覚える。そして、僕に勇気と冷静さが蘇り、何の躊躇いも無くその子供のパンツに目を向ける。んっ、子供のって・・・?

 自分の心に浮かんだ言葉にハッとする。確かにそのショーツ小さかった。僕の見立てが正しければ伸びる素材では無い。さらにその内の一枚はには、一匹の動物のあどけない顔があしらわれている。んっ、熊だ。これは子供用パンツに間違いない。


 勝手に子供用ショーツを無縁の成人女性ものショーツ様と誤り、舞い上がったあげくに疾風の如く勝手に走り抜けた思考が全くを持って恥ずかし過ぎる。顔がめっちゃ熱い。


「こ、これと一緒に寝て、ど、どうしろと?」


 やっと、どもりながらも冷静な言葉を吐き出すことに成功。


「ふふん、可愛いでしょ。私の子供の頃のショーツよ。

 覚えてる?」


―――そ、そんなあほな。あんたのショーツなんぞ

「お、覚えている分けないでしょ!」


「そうぉ、本当に?んっ、まあ、今はそれはいいわ。

 吸ちゃんはこの可愛いパンツと、明日の夜一緒に寝ればいいだけよ。ただし・・・」


―――今はって、どういう事?

 

 とも思ったが、それよりもその後の誘雌の言葉に気を取られてしまい、僕はその言葉の突っ込みどころを外してしまい飲み込んだまま胃袋の中で消化。

 誘雌の話では、”珍現象”すなわち金縛りに遭うであろう明日の夜に、この3枚を僕の布団の中に忍ばせて、ただ眠ればいいとのことである。ただし、その条件があって、3枚の距離を離せと言うのである。例えば、1枚を僕の体の右に、そしてもう一枚を左に。そして、残った1枚は穿いてもいいし、ぬいぐるみか、抱き枕感覚で抱えてもよいと。


「それに抵抗があるなら、被ってもいいわ」


「いえ、せめて毛布代わりにお腹の上にってことで」


「まあ、それもいいわね。だったらこれがいいかも」


 そう言って、誘雌が選んだのは、真っ赤な腰深のものであった。


「なぜ、これを?」


「吸ちゃんは、赤が似合うのよ」


「ああ、なるほど」 


 と、右手の拳を左の掌に打ち付け、面倒なので、納得することにした。

 しかし、それはそうとこの誘雌の提案に何の意味があるのか全く意味不である。少なくとも、こんな変態染みたことをする意味くらいは聞いておきたい。


「それで、この三枚と一緒に寝ることに何の意味があるんですか?」


「なんと言ったら、いいのかしら?

 ん~ああ、そうね、吸ちゃん子供の頃に一緒に魚釣りに行ったことあったわよね」


「ええ、それは覚えてますけど」


「まあ、それと同じと考えていいわ」


「よく、分からないのですけど・・・」


 分かる訳がないと思いながら、高樹の顔に視線を向けると。目を泳がせながら頷いている。

 これは、分かった振りに違ない。物分りの悪い奴が嫌いな姉に飼いならされた弟の結末だろうか。誘雌は、二人の内一人でも頷いたことに満足して更に続ける。


「これは、まだ実験”その1”でしかないから、その結果が出た時にまた詳しく説明するわ。だから、それまでは言うとおりにやってみて頂だい!いいわね」


 突っ込みを許さない鋭い目付きと語調の強さ。これに押されてしまうと頷くしかない僕。子供の頃のからのトラウマだ。

 もちろん、藁をもる思い出彼女を頼って来た以上、それなりの指示には従うつもりでもある。


「でも、さすがにこのままじゃぁ持って帰りにくいでしょうから・・・」


 そう言って、誘雌は白地に緑のロゴ入りの厚めの紙袋を机の引き出しから取り出し、3枚の子供用ショーツをその袋の中に入れてくれる。 

 そこに気づいて貰えたことに僕は感激。袋さえ貰えれば、かなりの事態を防ぐことが可能になる。

 僕は誘雌から3枚のショーツ入り袋を受け取ると、その袋に見覚えがあることに気付く。

 確か昨年駅前通りにオープンした、母さんの好きなスイーツ店”もりの家”の紙袋である。

 母さん曰く、多種に渡るショートケーキが陳列されたショーケースに目が釘付けになるとのことである。きっと、誘雌も好きなのだろうと言うことは想像に固くない。

 僕がその袋のロゴを眺めているのに気付くと、誘雌が何にひらめいたのか嬉しそうに目を輝かす。


「ここのショートケーキ、知ってる?美味しいのよね。

 あぁ、別にショートとショーツを掛けてる訳じゃないのよ」


「十分に分かってます」


 そんなことだったか。


「そう」

 

 僕の返しに不満そうな誘雌。

 

「まあ、それはいいわ。

 それよりも、これから我々3人は未知の世界に挑むわけ。チームワークが大切になるわ」


 そう行って、誘雌は右手を下向きにして手を伸ばして、僕と高樹に対し交互に要求を突き付ける眼差しを向けて来る。

 僕と高樹はどちらともなく、誘雌の手の上に右手を重ねる。


「じゃあ、吸ちゃん、高樹、いい?」


『はい』

 

「これより”珍現象退散作戦開始よ!頑張りましょう」


『Oh!!』


 満足そうに明日を見る眼差しの誘雌。僕と高樹も視線を身長よりも少し上に向ける。

 しかし大層なお題目まで付いてしまった。ちょっと楽しまれている感は否めないが、それでも彼女のこの明るさと言うか、ノー天気さが僕の心を相当癒してくれたのは間違いない。この木戸家に来る前の僕の暗い気持ちはかなりの部分で払拭された。

 この後、誘雌は部屋に閉じ込もったままで、意外にも高樹の部屋に移動した僕らに絡んで来ることは無かった。僕らはゲームなどでまったりと陽の沈むまでの時間を二人で凄し、誰にも会わないことを祈りつつ、僕は木戸家を後にした。

 まだまだウブい僕は、たかだか子供用ショーツ3枚にドキドキしながらも、何事も無く家に帰りつく。そして、一仕事を終えたようにホッと息を漏らす。薄らと額に汗が滲む。

 しかし、この安堵したのもつかの間だった。危険は我が家の中にも存在していた。自宅の玄関の扉を開


「あら、お帰りなさい」


「た、ただいま」


 偶々、運悪く玄関に居たケーキ好きの母さんが、視線の照準を合わせてニコッと不気味に微笑む。


「ケーキ買って来たの?その厚みだとロールケーキかな?」


 そして、燦然と目を輝かせて食い入るように近づいて来ると、口の開いていない紙袋を上から覗き込んで来る。僕は半身で身構える。

 どうして、女性はこんなにもケーキに目が無いのだろうかと思う。


「えっ?ええ、ああ。自分の分しか買ってないんだけど」


「大丈夫よ、味見させてなんて言わないから、だけどどんなのを買ったのかちょっと見せてくれない?」


「だめだって」


「あら、何で?見るくらいいいじゃない」


 そこで、少しの押し問答。幸いにも、夕飯の支度の真っ只中だったらしく、煮だった鍋から溢れ出た音が聞こえて来た。僕がノックダウン寸前にゴングに救われた。


「あら、大変!」


 その音にキッチンに戻る母さん。その隙に慌てて部屋に逃げ込む僕。

 

 因みに、気を抜いてはいけないと言う教訓を僕はこの時に得た気がする。

 この教訓を得た僕は、万が一の追ってを考慮し、掃除用のモップでドアにつっかえ棒をする。そして、ケーキの紙袋から3枚の誘雌のショーツを出すと、その詳細の確認は怠らない。

 取り出した誘雌ショーツは子供頃のものとはいえ、誘雌が穿いていたものだと思うと今の成長した姿と重なり、あらぬ事を想像しそうになる。しかし、もちろん目的を間違えたりはしない。そこは理性とプライドで払拭する。

 取り敢えず、興味からではなく研究心から、その3枚の詳細を確認せざるを得ない。


 まず一枚目を手にする。それは、白地にお子様向きのぬいぐるみ的な熊の顔がプリントがしてあり、厚手の温かそうなショーツだ。意外と手触りが良い。僕はこれは通称”熊パン”と名付けることにした。

 2枚目に手したのは、子供にはちょっと鋭角な角度のませたタイプの白と水色のストライプ。子供にちょっと大胆ではないだろうか。柔らかめのこのショーツを僕は”大人パン”と名付けることに決める。 そして、3枚目は真っ赤な腰深のいかにも子供用と言ったものだ。これは、もういい。”赤パン”とする。その大きさとタイプから想像するに、それぞれが別の年齢の時のものと想像出来る。


―――よし!


 何が”よし”か自分でも分からないが、一定の研究成果を得たところで、僕はその3枚を誰も入って来る訳の無い鍵を掛けたドアを気にしながら、目につきにくい布団の中に丸めて潜ませる。これで一安心。そして、一言。


「頼むぞ、今はお前たちが頼みだ」 


 夕食も終え自室で適当な時間を過ごす。Xデーは明日ではあるが、一応その日も3枚の誘雌ショーツと共に寝ることにした。慣れは必要だ。

 僕は、熊パンを右に、赤パンを左に。そして、大人パンをお腹の上に。お腹と言うのは、本当にお腹。おへその上辺り。

 大人パンをお腹の上に乗せたのは、決して僕の趣味からではない。偶々である。大人パンとは言え、たかだか子供用ショーツであるのだから。おっと、成人用であってもこの気持ちは変わらない・・・はず。


 その夜は誘雌の言う通り何事も起こらなかった。気持ちも楽になっていたので、久しぶりに安らかに眠ることが出来た。

 そして、高校の入学式を明日に控えた夜を迎える。明日の高校デビューの準備を終えた僕は、色んな意味で緊張をしながら、いつもより早めにベッドに入ることにする。心の準備は既に出来ている。

 現在は午後11時。誘雌の想像が当たっていれば、数時間後にはか金縛り改め、珍現象が起こるはずだ。

 僕の周りの3枚のショーツ。この布達は珍現象とどんな関係があるのだろうか?一体何が起こるのだろうか?

 誘雌は”実験その1”と言っていた。もしかするとただの実験だけで終わるのかもしれない。しかし、あの誘雌が考えたことなのだ。誘雌の言った通り、本当に珍現象が起こるのならば、新たに何かが起こってもおかしくはない。いや、例えこの3枚が何の影響も及ぼさなかったとしても、珍現象が過去の4回と同じとは限らない。

 何が起こるかは、蓋を開けるまで分からない。

 どっちにしたてもだ。明日の高校デビューを控えて僕の心身に悪い影響も及ぼさないことを願うだけである。

 僕は覚悟を決めてベットに入る。

 3枚の配置は昨日と同じだ。熊パンを右に、赤パンを左に。そして、大人パンをお腹の上に。決して僕の趣味からではない。


<つづく>

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