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パンツは、はいててもいいですか?  作者: 北 郷
第1章 プロローグ
1/6

珍現象

ちょっとエッチなオカルトものです。しかし、主線は恋愛です。

 いわゆる怪奇現象と言うか、霊的現象と言うのか、はたまた珍現象?と言った方が僕の場合は当てはまるのだろうか?

何れにしても、それまで生を受けた十数年間に出くわしたことがなければ、体験者談さえ聞いたことのない科学や論理では語ることが出来ない現象に、その時の僕は悩ませ続けられたのである。

 それも、今となっては、時折、夢か妄想ではなかったのでは?そう思ってしまうこともあるのだけれど、紛れも無い事実であるその証が、今も僕の肩で居眠りをこいているのだから、夢想の出来事と片付けてしまうには、まだまだ時間が掛かりそうである。

ちょっと大げさな表現になってしまったかもしれないけど、当時の僕の心境はともあれ、現在の僕にはそれ程、恐怖的な出来事と言う過去ではなかったりする。

 もちろん、あの時の僕は、結構、精神的にパニックだったのだけれど、今では”珍現象”ってレベルってと言ってもいいくらいなのだから。


 あれから2年と数カ月。今現在その珍現象の核となる、台風の目ならぬ”珍現象の目”がこのような状況(横で居眠りしている)に収まっているのだから。

 過ぎてしまえば、幸運だったのかもしれないな・・・なんて。

 だから、再び非科学的なことが僕の前に起こったとしても、もしかすると今度は落ち着いた対処が出来て、それなりに楽しめたりするのかもしれない・・・。

 なんて好意的に捕える余裕があったりもするが・・・いやいや、でもだ、仮にまたこの類の出来事が起こった時に、同じような珍現象で済むなんてことがあるだろうか?

 幾ら僕の運が今だに強かったとしても、まず同じような結末に落ち着くなんてことは確率的にも有り得ないだろう。世間の常識では、どこぞのホラー映画の様な結末の方が都市伝説的にも世間一般的なのだから。


 ってことはだ、あんな物体や、霊体が現れるってことになるってことか・・・んっ?

 やば、朝だと言うのに、へんな寒気がして来た。

 けど、まあ、その前にこんなことが”再び”なんて、まず、あり得ないか・・・確率的に。

 おっと、そんなことよりも、朝から怖いことを想像して震えている場合じゃなかったのだった。

 このもう直ぐ下車駅だと言うのに、寝息を立てて熟睡しやがっている珍現象を起こさなければならないのだ。


 しかし、だいたい誰のせいでギリギリの時間になったと思ってるのだろうか・・・こいつ。


 実は、今日は僕とこいつ、この珍現象にとって大切な、人生の次へのステップである超本命大学の入試日なのである。

 そもそも、ギリギリの時間の電車にのる破目になったのは、こいつの寝坊のせいなのに、ホントこの呑気さが羨ましい。あの子供の頃の内気で気弱ななこいつが全く嘘の様である。


 そう言えば、高校入学したての頃は、こいつもまだ結構内気だったけな。まあ、いいけど。


 いかん、いかん、そんな昔のことを考えている場合ではなかった。明るい明日へ向かう為に、今すぐこいつを起こさねばならないのだった。って言うことで、


「起きろ、もう直ぐ着くぞ」


 肩に寄りかかるこいつに、小声で呼びかける僕。それに眠そうにムニャムニャと訳の分からん世界の言葉を返す、こいつ、珍現象。

 これはこれで、本当はちょっと可愛いかったりするのだが、今日の僕たちにそんな余裕は余りない。


 すきっとパッチリ起きてくれよ。


「起きろ、起きろって・・・(この、ち・ん・げ・ん・し・ょ・う・め)」


 心の中では今の気持ちをぶつけつつ、僕の肩に持たれて眠るこいつの体を優しく揺すり、耳元でそっと呼び掛ける僕。それに、寝ぼけ眼ながら、こいつも案外にも早めに気付いてくれた・・・のだがー。

 こいつは、突然と背筋を伸ばし、首をぼりぼりと鳴らす。そして、大きな瞳をパチリと見開いたと思ったら、徐に僕の方に顔を向けた目つきが、いつの間にか鋭くなっている。


「だ、だれが、ち・ん・げ・ん・し・ょ・う、じゃい!」


「へっ?」


 朝の満員電車の怒鳴り声。

 驚きと恥ずかしさのあまりに縮こまる僕。

 その様子に、自分の置かれた環境に気づいたこいつは、キョロキョロと周りを見回す。

 どうやら電車の中と言う、現在の置かれた状況を把握したようである。


 もちろん、こいつだって恥ずかしいと言うことは知っている。その結果が、このうつむいた真っ赤な顔だ。

 ここは、二人で当然黙りこくってやり過ごすしかない。

 電車が減速を始めてから止まるまでの時間の長いこと長いこと。

 到着する数秒前には早くも扉の前に向かい、扉が開くと共にこいつは僕の手を引き、改札に向かってもうダッシュ。


 もちろん、僕だって大いに恥ずかしかった。でも、こんな状況で手を引かれて走っている状況は嬉しさもあったりする。楽しい時間だったりする。するはずである。

 するんだろうな、と思う。

 きっと、本来であれば。ただ、


 ただ、今日はそれを打ち消す、もう一つ入り乱れた心が僕の中には存在してしまっている。

 それが、今、僕の脚を震るわせているである。

 さっきまでは恥ずかしさで気付かなかったが・・・


 どうしてだ?


 どうして、こいつは僕の「ちんげんしょう」と言う心の声を知っている?

 なぜこいつは、聞き取れたんだ?

 絶対に、間違って声に何てしていない自信はある。

 絶対に、絶対にある。18歳の僕はそんなにボケちゃいない。

 なんだ?僕の心、いや、頭の中、脳の中だぞ?

 なんだ、なんなんだ、一体、こいつは? 


 再び、何かが、何かが起こりそうな、そんな妙な予感が僕の脳裏を過ってしまう。

 まさか、こいつ、ほんとはオカルトチックな奴なんじゃないだろうな?

 思わす、僕はこいつに引かれる手を離し、立ち止まってしまう。

 

「どうしたの?」


 それに、制服のスカートの裾を翻し、不思議そうな顔で振り向く彼女。

 アイロンが奇麗に掛けられた、短めな質素な濃紺のスカートから見える細く引き締まった白い脚、それに、均整の取れたスレンダーな体。色白の肌に黒髪がまた、良く似合う。

 なんだか、その綺麗さが逆に妙にオカルトチックに見えてしまう。

 それに細面の顔だって、もちろん彼女は清楚で愛らしいのだが・・・愛らしい、愛らしいのだが、その顔が、今日のその顔は、


 あの時と、あの夜と同じ顔に・・・。


 あの時と、重なってしまう。

 あの怪奇的な霊的な、奇妙なことが起こった、あの高校に入学する前の春休みの時のその顔と。

 まだ、珍現象とは思えなかった存在の時のあの時の顔と。


 やはり、僕はこの類の出来事に、未だ落ち着いた対処が出来たり、それなりに楽しめたりなんて出来はしないのだ。


 こいつは、本当にただの珍現象なのだろうか?


 それとも、あの3月のとある高校入試が終わった日から始まったあの現象は、こいつの持つ”何か”だったのだろうか・・・。


<つづく>

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