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夢幻の騎士  作者: 遠坂遥
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鳳元の独白

再び回想回です。最後はちょっと重い話です

鳳元の独白


 僕があのカップルのことを知ったのは、今から半年ほど前、ちょうど文化祭のシーズンだったと思う。丁度僕は生徒会長になったばかりで、色々な仕事に四苦八苦している時だったからよく覚えている。

 事件が起こったのは十月四日の木曜日。文化祭の準備で慌ただしくなり始めた頃のことだった。事件の一報が入ったのが、放課後の十六時二十分頃だ。

 現場である文芸部室に僕が駆け付けた時には、教室は色々な物が散らかり放題だった。机がいくつも倒れていて、部員のものと思われる鞄の中身が散乱していた。何があったのか僕は先生に尋ねた。するとどうやら、生徒が数名で一人の生徒を暴行したということのようだった。これが事実なら一大事だと僕は思った。と言うのも、この学校は進学校で、これまで大きな傷害事件が起きたことはなかったからだ。僕はそれから付近の生徒や、事件には関わっていない文芸部員に話を聞いた。事件のあらましはこんなところだ。

 事件の被害者の名前は、牧村光士郎、十六歳、二年B組だ。クラスではどちらかと言えば目立たない引っ込み思案の生徒ということだ。事件当日彼がいつも通りに文芸部室に赴いたところ、突然数名の文芸部員に難癖をつけられたため反論。その際ヒートアップした部員が彼の両手足を拘束し、彼に殴る蹴るの暴行を加えた。そしてバランスを崩した彼が転んで倒れていた机に頭をぶつけ、気絶してしまった。被害者は若干だが出血していたため、驚いた部員数名が助けを呼びに行ったことで、事件が明らかになった、ということのようだ。ちなみにこの牧村という少年、人に対して悪口を言ったり暴力を振るったりということは皆無だったらしく、これまで部員たちと問題を起こしたこともなかったそうだ。

 次に加害者について。事件の加害者は全部で四人。その全員がその後停学処分を受けている。名前は、秋山豊、中根雄二、西野弘毅、渡会正平。その中でも首謀者は中根雄二だったと多くの人が証言している。突然難癖をつけたのも彼だったらしい。その難癖というのは、今度の文化祭で発表する小説の案を、牧村くんが盗んだのではないか? ということだったそうだ。どうやらその数日前に、部活内で作品集を製作するために各部員が小説を書いて持ちよっていたらしく、牧村くんの作品が自分の考えたのにそっくりだったため、中根雄二は牧村くんが彼のアイデアを盗んだのだと考えたようだ。

 事件の概要はこんなところだ。被害者の牧村くんはその後病院で意識を取り戻し、翌週には無事退院した。だが、仲間に暴行されたことへの精神的ショックから、学校に行くのを拒んでいるらしかった。気が弱い生徒だった様だし、彼の精神的ケアは大変そうだと、その時僕は思った。

 ただ、僕は事件の全てを解明するべきだと思っていた。暴行をした生徒が処分されるのは当然だが、もし盗作があったのだとしたら、牧村くん自身も彼らに謝罪する必要があるのではと、その時僕は思っていた。だから僕は、彼が精神的ショックを受けているとは知りつつも、事件の詳細を尋ねるため、彼の自宅を訪れることにした。

 彼の自宅を訪れると、出てきたのは彼の両親ではなく、うちの学校の生徒であった。彼女の名前は、真辺梓。年齢は十七、所属は牧村くんと同じく二年B組だ。僕がそこを訪ねた理由を話すと、彼女は怒って僕に言った。

 「光士郎が人の作品を盗むなんてあり得ません。彼は心から小説を書くことを愛しています。小説書きにとって作品は命です。他人の命を奪うことなど、彼がするはずありません!」

 僕は彼女のエネルギーに圧倒されてしまった。それと同時に、彼女が彼を思う気持ちが物凄く伝わってきたのだ。

 彼女と話した後、今度は牧村くん本人に話を聞くことが出来た。彼は多少話しづらそうにしていたが、隣に座っていた真辺さんに励まされて、ようやくあの事件に関して口を開いてくれた。彼は一貫して中根雄二たちが言っていたことを否定した。僕は盗作なんてしていない。彼らが突然訳のわからないことを言いだしただけだと。彼の目は真剣そのものだった。彼はその盗作されたという作品についても語ってくれた。どうやらその作品は、真辺さんをモデルにしたヒロインが登場する物語らしかった。彼が今まで知った彼女のイメージを小説にした作品であり、心から好きな作品であると彼は教えてくれた。それを盗作だなんて言った中根雄二たちのことが許せないとも彼は言った。僕は彼が嘘を言っているとは思わなかった。彼の眼の奥に、小説を書くことへの熱い想いを感じ取ることが出来たからだ。それは、中根雄二には感じなかったものだった。

 僕は彼らの話を元に、中根雄二たちを問い詰めた。すると驚くことに、全員口を揃えて盗作した牧村くんが悪いと言っていた彼らが、事件に関してこれ以上一切の証言をしないと言いだしたのだ。自分たちは停学の処分を受けたのだからもういいではないかと言うのだ。もし最初からそのことを言わなければそれでもいいだろう。だが彼らは、牧村くんの名誉を傷つけかねない証言をしたのだ。そのことに関して責任を取らないその態度は許しがたいものだった。

 結局、彼らの証言は嘘であったということが教師や生徒には認識された。一応は牧村くんの名誉が守られ僕は安堵した。しかし、そうするとあることが疑問として残る。それは、もし盗作が嘘なら、彼らはなぜ牧村くんに難癖をつけたのかということだ。彼らの間にはこれまで目立ったいざこざはなかった。むしろ同じ小説好きとして活発な意見交換があったほどだ。そんな彼らの対立に何の理由もないはずがない。だから僕は決意した。この件に関しては、僕が納得出来るまで徹底的に調べてやると。

 そして先日、このことに関する重大な証言を入手した。それは、僕がしつこく通い詰めていた中心人物の中根雄二がふと漏らしたことだった。彼は言った。

 「しょうがなかったんだよ。あの時はああするより他になかったんだから……」

 それは含みのある言葉だった。まるでやりたくないのにやらざるを得なかったとでも言いたげな言葉。僕はピンときた。この事件、裏で糸を引いている人間がいる。

 ある時生徒がこんなことを言っているのを聞いた。

 「生徒会長って、優しくて面倒見が良くて、凄く良い人だよな――」

 おっと、自慢じゃないよ。彼は最後にこんなことも言っていたんだ。

 「会長ってあれで実は、…………かなり粘着質らしいよ……」

 そう。まさに彼の言う通り。僕は粘着質だ。一度くっついたら嫌でも離れない。恋愛もさることながら、こういったなぞ解きに関してはそれが如何なく発揮される。そしてようやく僕は、尻尾を掴んだ。もう逃がさない。彼にはしかるべき処分を受けてもらう。そして、謝罪してもらう。牧村くんと、彼を心から信じ続けた、あの、眠り続けている少女にね。


 そうだ、ちょうどいいから、ここで少しばかり個人的な話をさせてもらうことにしよう。

 僕には妹がいる。とても可愛く、活発な女の子だった。“だった”ということは、すなわち今は違うということだ。彼女を壊したのは、とある事件だった。

 それは僕が中学三年生の時の話だ。僕の妹、美紀は当時中学二年生だった。僕の家族は、両親と僕たち兄妹の四人家族だった。だがある日、父との不仲から母が家を出ていった。我が家はそこから急速に活気を失っていった。そしてそれは唐突に起こった。

 妹がある夜突然、僕の部屋にやって来た。僕は美紀に、どうしたのかと問うた。だが彼女は答えなかった。彼女は無言のまま僕のベッドに潜りこみ、そしてそのまま寝息を立て始めた。僕は少し心配だったが、母がいなくなってショックを受けているのだろうと解釈し、そのまま寝ることにした。

 しかしそれから、妹は日に日に生気を失っていった。理由を尋ねても、彼女は答えなかった。僕は思い切って妹を問い詰めることにした。取り返しがつかなくなる訳にはいかなかったからだ。僕が彼女に尋ねても、初めは、理由を全く言いたがらなかった。だが僕はそこで譲ったりはしなかった。僕は粘着質だ。絶対に引かないと分かると、美紀はようやく諦め、僕に何があったのかを話してくれた。

 「お父さんが部屋に来て、わたしの服を無理やり脱がして、それで、それで……」

 耳を疑った。彼女は大粒の涙を流し、僕に告白した。父親が娘を犯すなど、あっていい訳がないことだった。僕は許せなかった。あいつを殺してやろうとさえ思った。その日僕は、妹を父に渡さない様に、一緒のベッドで寝た。そしてそれは、その時のことだった。僕は、牧村くんと同じ様な体験をしたのだ。そしてもうその時には、悲劇は始まっていたのだった。


彼の名前の元ネタが分かる人ってどれくらいいるのかな?笑

次回もよろしくお願いします。

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